ニーアと獣人狩りと
地下室からでると、ニーアがガラの悪そうな数人の男性にとりかこまれていた。年齢は全員中年、装備がバラバラな事を考えると傭兵だろう。明らかに絡まれている様だ。
「おいおい、ここはお前ら獣人がウロウロしていい場所じゃなんだよ。主人はどこだ?」
「逃げ出して来た奴隷じゃないのか?捕まえたら、謝礼が貰えるかもな。そのまえに、可愛がってやろうぜ」
男達は言いたい放題だ。
「おい、ニーアに何か用か?」
「なんだお前は?この獣人の飼い主か?」
その言い草にムッとしたが、この町ではそう言うことになるな。
「そうだ。俺がニーアの主人だ。何か用か?」
「この獣人の女が、『何で獣人と戦争をするんですか?』なんてとぼけたことを聞いてくるんで、こいつら獣人が人間に何をしたを教えてやってるのさ」
どうもニーアは俺が沐浴をおこなっている間に『獣人狩り』について聞き込みをしていた様だ。獣人狩りなどと聞いて、いてもたってもいられなかったのだろう。それでこいつらに絡まれてしまった様だ。フードをかぶっていても、覗き込まれたら獣人だとわかってしまう。
「獣人達が畑を荒らしたり、町を襲ったりするから、ユトラント伯爵公が大規模な獣人狩りの布告をしたんだよ。俺たち傭兵も、そのためにわざわざ来たんだぜ」
「そんな……獣人達はそんなことしません。万が一したとしても、何か事情があって……」
ニーアは必死に擁護している。
ふ~ん、なるほどね。
「じゃあ聞くが、お前らは獣人が畑を荒らしているのを見たり、向こうから一方的に襲われたりしたことあるのかよ?」
「あ?俺たちは、戦争のために金で集められただけだから、そんなこと知らねーよ。俺たちの地方には獣人なんていねーからな」
「俺たち傭兵は金さえ貰えれば理由なんてなんだていいのさ。犯罪を犯した獣人の女は、捕えたやつが自由にしていいって話だしな。たまんねえぜ」
やっぱり金が目的かよ!獣人側が悪い、って言っているだけで、自分たちが何かされたわけでもない。
獣人狩りと金が目的で、獣人側に何かされたってのは、本当かわかったものじゃない。
「ニーア、行くぞ」
俺はニーアの手を強引につなぐと、連れ去る様に神殿を後にした。
とりあえず神殿から離れたい。今夜の宿も探さなければ……しかし腹ががつ、ニーアみたいな獣人の女の子が、あいつらみたいなのに捕えられて、好きにされるなんて。自然、歩速が早くなり、ニーアの手を握る力も強くなる。
「あの、カナタさん。もうちょっとゆっくり歩いて下さい。あと手も痛いです」
さっきまで黙ってたニーアが話しかけてくる。
俺はあわてて立ち止まり、手を離す。そう言えば神殿からずっと手をつなぎっぱなしだった。
そういえばニーアと手を繋いだのは初めてだったな……小さくて柔らかい手だった。
もうちょっと違った形で手を繋ぎたかったな。
「ごめんなさい、ご迷惑をかけてしまって……」
ニーアが申し訳なさそうに言う、猫耳も申し訳なさそうに垂れ下がっている。
「気にするな。それよりも、ニーアこそ辛くなかったか?ごめんな、一人にしてしまって」
髪と猫耳を撫でる。くすぐったかったのか猫耳がピクンと動く。
「……はい。大丈夫です」
まあ獣人狩りについての情報の収穫もあったから良しとしよう。
獣人と人間とのいざこざがを口実に、ユトラント伯爵公が金を出して傭兵を集め、獣人狩りを行おうとしている。
スクルド神とミルクがいっていた多くの獣人と人間が死ぬ『獣人の災悪』ってのは、この獣人狩りのことだろう。
もし、この世界の運命を変えるためには、獣人狩りを止めさせる必要があるわけだが……どうしたものか。
「あの、それよりカナタさん。どうでした?ジョブチェンジできましたか?」
ニーアが問いかけてくる。話題を変えたかったのだろう。無理に作った笑顔で話かけてくる。
その笑顔がまぶしい。転職可能なのが自室警備士しかなくて、自宅警備士よりさらに局地戦型の職業だなんて、とても言えない。そして労働敗北スキル付きだ。
俺は目が合わせられない。さぞバツの悪い顔をしているのだろう。
「……うまくいかなかったんですね、気を取り直してください」
ニーアは俺の表情をみて、気をつかって慰めてくる。
「まあ、今まで通りってことだよ。夜間ならペナルティスキルが少ないから、夜間専用の傭兵を目指す事にするよ。ニーアも猫人だから、夜間戦闘は得意だしね」
俺も気を使って、気休めがてら言ってみる。確かに夜間専門の傭兵なら、なんとか戦えるはずだ。
「あの……カナタさん、スクルド神様達の神殿が近くにあるので、宿を探しに行く前に寄っていいですか?」
ニーアの提案を受ける。なんでもスクルド達3人の姉妹をまつる神殿があるらしい。
スクルド神の像なんか拝まなくても、さっき生スクルドに会ったんだけどな、と思ったが、ニーアが自分の希望を言うのは珍しい事だったので、先にスクルド神の神殿に行く事にする。
次回は午後3時の更新を予定しています。
ノルンの3姉妹神のお話です。




