自宅警備士から転職を目指します
「ただいま帰りました、カナタさん」
ニーアが帰って来た。バルーンの皮とコブリンの肉を幾つか抱えている。
表情に特に変化が無い所をみると、どうやらミルクの姿に気づいていないみたいだ。
(私は姿を消してますけど、ここにいますからね)
ミルクが耳元で呟く。さすがに妖精だけあって姿を消すくらいの事はできるみたいだ。
「ニーア、お金を稼ごう。今すぐにだ。自宅警備士の俺でもお金を稼ぐ方法は、何かないだろうか?」
「どうしたんですか?カナタさん。急にやる気になったみたいで」
ニーアはキョトンとした顔をしている。猫耳が不思議そうにぴょこぴょこ動いている。
相変わらず可愛らしい。このニーアを手に入れるために何としても2万ルーグ手に入れてやるんだ。
「そうですね、今のカナタさんの自宅警備士の職業をなんとかしないと、お金を稼ぐのは難しいと思います」
確かにそうだ。労働敗北と超弱対破魔のペナルティスキルを何とかしないと、どうしようもない。以前の魔人マクスウェルの時みたいに、懸賞金付きの敵が、自宅の近くにやってくるなんてことは滅多にないのだから。
(少し遠いですが、セコンの町の神殿で、転職ができますよ。カナタさん)
ミルクが耳元で小声でつぶやく。
なんだって!?自宅警備士から転職できるだって??それは本当か??
「ニーア、セコンの町って知っているか?そこで転職できるって話は聞いた事あるか?」
「セコンの町のジョブ神殿の事ですか?知っていますけど、転職にはLV15以上必要だと聞いた事があります」
いける。前のマクスウェルとの戦闘で、LVは一気に15まであがったんだった。
自宅警備士から転職できる、この際、戦士や剣士はもちろん、たとえ村人だって、なんだっていい。ペナルティスキルさえ無ければ、2万ルーグ稼ぐことだって難しくないはずだ。セコンの町は、ここから歩いて丸1日かかるそうだ。
「ニーア、すぐに準備しろ。明日の早朝に、セコンの町に向かう」
「はい、わかりました。カナタさん」
ニーアはにっこり笑って答えてくれた。
どうも俺がやる気を出したのが嬉しいらしい。本当の目的を知られたら、軽蔑されるかもしれないが……
翌朝、俺は夜明けより前に目が覚めた。
自宅警備士業は夜勤がメインなので、朝日が昇る頃に就寝する。よってこの時間帯に起きるなど滅多に無い。むしろ眠りにつくべき時間帯である。だがニーアへの下心が、俺を早朝に起床させた。
「むにゃ……おはようございます、ごめんなさい。メイドなのにご主人様より後に起きてしまって」
ニーアが目覚める。眠そうに、目をこすっている。猫耳も半分垂れ下がっている。気にするべきではない、俺の起きるのが早すぎるだけなのだ。
「簡単におじいさまのお墓のお掃除をしてから、出かけましょう」
ニーアはロジー爺さんの墓石を大切そうに磨いて、雑草が生えない様に塩を撒いている。
徒歩で一日の道のりだが、帰りはいつになるのか分からない。家の管理はギルドのメルルさんにお願いしたらしい。
その間に俺は倉庫に向かった。昨晩のうちに作り上げた盾を取りに行ったのだ。
巨大な『◆』の形をした盾は、魔人マクスウェルの本体装甲を利用して作ったものだ。
魔人マクスウェルの本体装甲の固さは、戦った俺が一番知っている。それに氷結魔法や火炎魔法に対する防御力も高い。
最初は鎧を作ろう、と思ったが、加工が難しかったので諦めた。盾はマクスウェルの本体の装甲をそのまま利用し、内部にバルーンの皮で取手を付けている。大きさの割に軽い。
【マクスウェルシールド】
魔人マクスウェルの本体装甲を利用して作られた盾。軽く様々な属性防御を持つ
衝撃耐性 斬撃耐性 火炎耐性 氷結耐性
スキル情報強者でスキャンしたが、防御力はなかなかの物だ。脚はともかく、こいつの本体の装甲には苦労したからな……ちなみに魔人戦で使用したバルーンの盾と鎧、兜は処分してしまった。ニーアがお鍋のふたと料理用の手袋が無くなっていたので困っていたが……
ごめん、敵の雷撃を防ぐためにバルーンの皮を貼付けた上に、戦闘でぼろぼろになってしまっているんだ。
お金を稼いで新調するから許してくれ。
【装備】
武器 片手両剣ノートゥング
鎧 布の服
盾 マクスウェルシールド
兜 なし
他 闇の指輪
職業 マイホームガード(自宅警備士)LV15
HP 130(ただし昼間は65)
MP 0
【魔法】 サンダーボルト
最大MPは、スキル超弱意思力のせいで相変わらず0のままだ。
自宅警備士から転職すれば、少しはMPが増えるかもそれない。
【サンダーボルト】
消費MP4
風属性魔法の上位魔法である雷撃魔法。威力は使用者の魔力に比例する。
電撃を敵に打ち込む魔法で、対象に直接触れていると攻撃力が大幅にアップする。
水属性の敵と機械属性の敵に特に有効。
ステータスを確認する。鎧と兜が無いのが気になるが、武器と盾が強力なのでなんとかなるだろう。ちなみに盾を作るのに使った部品を除いた魔人の部品は、全て売ってしまった。300ルーグになった。
この300ルーグで、もうちょっとマシな装備を整えようかとも思ったが、目標の2万ルーグに一日でも早く届きたかったので、止めにした。まあ俺の武器と盾は強力だし、ニーアも今の装備でいいと言っているし、仮に装備を整えるのならセコンの町で整えた方が良いだろう。
自宅警備士から転職できるでしょうか?
次回は、午後9時に掲載予定です。