世界の運命は残り1年
「やあ、ひさしぶりだね。カナタ君」
相変わらず落ち着いた雰囲気の美少女だ。実は凄い年増で、こいつの銀髪は白髪の一種じゃないだろうか?
「失礼しちゃうね。あたしは12歳だよ。嘘だと思うなら、あんたの【情報強者】でスキャンしてごらん」
俺の心を読んでくる。望み通り、スキャンしてやる。
【名前】スクルド・ノースアーリアン=ゴッドシード・ノルン
【年齢】12歳(ルーン年)【LV】????【HP】33【MP】53万
【スキル】絶対物理防御 ???
……何かMPがおかしい、53万って、単位が違う。お前はフリーザ様か。
年齢は、確かに12歳だ。
「ほらね、12歳っしょ?!あたしに手を出したらロリコンだからね、このロリコン、スケベ、変態」
まて、12歳(ルーン年)ってなんだ?
【ルーン年】神々の年齢の単位、1ルーン年は人間時間の1000年に相当する。
「こら!1ルーン年は1000年だから、あんたは1万2000歳じゃないか!このババア!いや超ババア!!」
「むう、ババアとは、12歳の少女に対して失礼な!!罰当たり!!罰として額に『666』じゃなくて『肉』って書いてやる」
「書くな!そんなことより聞きたい事がある。ロジー爺さんの寿命の事だ。運命は変わったんじゃないのか?なんで死んでしまうんだ!」
本気でスクルド神を睨みつける。そうだ、ニーアだけじゃなくて、ロジー爺さんも助けるために戦ったんだ。爺さんが死んじゃうなんて話が違う。異世界人の俺には、運命を変える力があるんだろ?
「運命は変わったよ。ニーアが助かったのがその証拠さ」
「だが爺さんが死ぬ運命は変わらなかった。約束が違うじゃないか」
「運命ってのは、そんなに簡単に変わらないんだよ。本来は、ニーアが自分を売ったお金で、ロジーは入院するんだけど、その事に気づいたロジーは失意のうちに死んでしまう。娘みたいに可愛がっていたニーアが、自分の治療費を稼ぐために奴隷店に自分を売ったなんて知って、本当にショックだったろうね。あんたがニーアを救出したから、ロジーは予定より3日ほど長生きしたことになる。運命は変わったんだよ」
「だけど、たった3日間延命しただけじゃないか!ニーアは助かったのに、この違いは何だ?」
「それは『思い』の『強さ』の差さ。運命を変えられるあんたが、ニーアを助けようと『思う』ほど、ロジーを助けようは思わなかったんだよ。実際そうだろ?」
くっ、確かにニーアを助けたいと思うほど、ロジー爺さんを助けようとは思わなかった。思いの強さは確かに違う。なんだ?俺のせいか??俺がもっと強く爺さんを助けたいと思っていれば、爺さんはたすかったのだろうか?
「自分を責めるのは止めなよ。ニーアを助けられただけでも大した物だよ。例えばニーアよりもロジーを助けたいと思っていたら、ロジーは助かっていたかもしれない。でもその場合は、ニーアの方が死んでいただろうね。まあこっちの可能性は0%だけどね」
なんで0%なんだ?
「だってあんたニーアの事好きだろ?あとよこしまな思いもちょっと抱いているよね?」
なっ、なんで知っているんだ?心でも読むのかこの女神は??
「……あんたの心はずっと読んでるよ。知っているくせに。別に健康な男性が、適齢期の異性に魅力を感じるのは普通の事だよ。ニーアは可愛くて、良い娘だしね。よこしまな思いも、決して悪い事じゃない。このスケベ」
なんだ?俺のエロい心も、容認するのか??
「まあ『思い』ってのは、別に純粋なものじゃ無くていいんだよ。生理的な欲求も、よこしまな思いだって、それは『思い』に他ならない。多少不純でも、ちょいと曲がっていても、無いよりはずっといいんだよ。『愛』の反対はなんだか知ってるかい?『無関心』なんだよ。これはテレサちゃんの受け売りだけどね」
だれだよ『テレサちゃん』って、マザーテレサか??
「不純でもなんでも、強い思いだけが、運命を変えるんだよ」
「そうか?大体、不純でも曲がっていても、強い思いなら良い、っていうなら『ストーカー』なんかは強い思いだぞ。不純でも良いから強く思われたいなんて、旦那にほっとかれている熟年妻みたいだな、やっぱりお前の中身はおばさんなんじゃないのか?」
「やなこと言うね、なんならあんた、『自宅警備士』から『ストーカー』に転職するかい?どっちも闇属性っぽいから、可能だと思うよ」
『自宅警備士』も『ストーカー』も職業じゃねー!それって転職っていうのかよ!!
明らかに自宅警備士より弱そうだし。
旗色が悪い、話題を変えよう。
「……魔人戦で思ったが、自宅警備士、って結構強かったな。自宅での戦闘に限っての話だけど」
「そりゃ強いよ、なんてたって伝説の勇者を召喚できるくらいのMPを使って、あんたを召喚して、望む職に就かせたんだからね。あんたの召喚のためにMP50万も使ったんだよ。それなのに、弱点多すぎだし、自宅での戦闘以外じゃ役立たずだし、そもそも闇属性だけどね」
くそう、なんて俺は勇者って言わなかったんだろう。勇者ならこんなに苦労せずにすんだのに。
「まあいい、ニーアは助けられたんだ。俺はしばらくはニーアとゆっくり暮らすよ。邪魔しないでくれ」
これ以上この女神の思い通りにされたくない。
「……え~と、その事なんだけどね」
スクルド神は珍しく言いにくそうにしている。
「……別にあんたに強要はできないんだけどさ、この世界、あと1年で滅んじゃうよ」
「1年?!そんなの初耳だぞ!!それだとニーアは、今16歳だから、17歳で死んじゃうのか?」
「そうだよそうだよ!あんなに良い娘で、可愛いのに、たった17歳で死んじゃうんだよ。アタシの年齢を1000年分くらいわけてあげたいよ」
そんなにいらん、だがこの女神の言う事にも一理ある。あと1年しか生きれないなんて、あんまりだ。
「俺なら、運命を変えられるんだよな?」
「可能だよ。もちろん、1人の運命を変えるだけでも大変なのに、世界の運命、なんて変えるのは尋常の力じゃ済まないけどね。それでも変える可能性がある事はアタシが保証するよ」
「くそ……向こうの世界に、フィフスガルドに帰らせてくれ」
「オッケー!じゃあまたね」
相変わらず軽い。前にもこんな事があった気がするなと思いながら、俺は再び意識を失った。
カナタが戻った事を確認し、妖精ミルクが姿をあらわす。
「本当にカナタさんとニーアさんの2人で、世界の滅亡の運命を変えられるとお思いですか?」
「こればっかりは分からないね、アタシでもその可能性があるとしか言えない。あとロジーもたったの3日間だけだけど、延命した時間で、しっかり世界の運命を変えるべき布石を打っているよ。あれはあれで大した男だったね。どちらにせよこの3人、今は2人に任せるしかないよ」
第一章の終わりとなります。
次回は、午前9時に掲載予定です。