女神スクルド、再び
「すまんのう、カナタ君。息子にしたい等と無理を言って……」
「いいよ、爺さん。じゃ無くて義父……バカ騒ぎで疲れてろう。今日は休みなよ」
爺さんがにっこり笑う。
「たいそうな騒ぎじゃったのう……じゃがワシはニーアが町の住人達とあんなに楽しそうに笑う姿は見た事がなかったんじゃ。獣人で、しかもハーフということで打ち解けなかったみたいじゃが、最後に町の一員になれた様で良かったわい」
「なあ、爺さん。ニーアとはどういった関係だったんだ?」
二人の関係に入り込むのは良くないと思ったが、今は息子なんだから良いだろう。思い切って聞いてみた
「うむ……実はニーアはワシの元助手の娘なのじゃ……ニーアの母、シータはとある貴族の娘で、ワシが王都で研究していた時に知り合ったんじゃが、優秀な研究者でのう。いずれはワシの後継者にと思っていたんじゃが、ある時猫人族の王子と駆け落ちしてのう……あの時はびっくりしたものじゃ……王都もちょっとした騒ぎになってしまってのう……」
ニーアがハーフだという事は知っていたが、まさか猫人族の王子と人間とのハーフだっとは……
「知っての通り、異なる種族の間で、子供が生まれる可能性は非常に低い。誰とでも交われるインムを除いての。じゃが、シータと猫人族の王子との間には奇跡的に子供ができた。それがニーアなのじゃ」
確かにハーフは非常に生まれにくいと言っていたな。
「あの時は第4次獣人戦争の真っ只中で、獣人族への弾圧が一番激しかった時でのう……結局戦争で猫人達は破れ、散り散りになるか、捕えられて奴隷にされてしまった。シータは人間じゃが、獣人と交わった女ということで、迫害された様での、幼いニーアを連れてワシを頼って逃げて来た後に、しばらくして死んでしまったのじゃ」
「当時のワシも情けない事に獣人に対する偏見はあったが、シータが話してくれた獣人達の話を聞くと、どうもワシらが思ってるのは偏見に過ぎない事を思い知らされたのじゃ。特にニーアはいい娘でのう……おじいさまおじいさまと、実の孫の様に慕ってくれたもんじゃ」
そりゃそうだ。ニーアはいい子だ。しかしこの世界の異種族に対する偏見がこれほど酷いとは……
「ワシはいずれこういった偏見を無くして、種族差別の無い世界を作りたいと思っていたのじゃが、同志はほとんどいなくてのう……おぬしだけじゃ……猫人に対して最初から偏見どころか好意を持って接したのは」
そんなに褒めないでくれ……単に猫耳フェチなだけなのに。
そういえばスクルド神も、ニーアも同じ様な事を言っていたな。猫耳が可愛いのは誰でもわかる宇宙の真理なのにな。
「ニーアの決意と、おぬしの勇気のおかげで、この町の獣人に対する偏見は少しはなくなりそうじゃの……町の連中とあんなに楽しそうに談笑しているニーアは初めてみたわい。これで安心して逝けるのう……」
…………
ロジー爺さんが亡くなったのは、それから3日後の事だった。
ロジー爺さんは覚悟していたのか、最後まで取り乱した感じはなかった、ひょうひょうとした爺さんだったが、本当に立派な人だったのかもしれない。葬儀はファーの町の教会で行われた。葬儀は遺言どおり簡素な物で、家の近くの丘に簡単な墓を作ってそこに埋葬した。葬儀が終わってからしばらく、遠くから学友やら知人やらが墓参りに訪ねてきて、息子であり喪主でもあった俺とニーアは来客への対応に追われた。驚いたのはローラント王国の侍従長の使者まで来た事だった。ひょっとしたらとんでもない大物だったのかもしれない。
ニーアは悲しむ暇も無かったらしい。俺も、悲しいと感じる暇は無かった。ただ、憤りの気持ちはあった。
ーー俺は運命を変えたのでは無かったのか?ーー
憤りをぶつける機会は案外早く来た、その日の夢に、スクルド神が現れたのだ。
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