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ロジーのお願い

 翌日もロジー爺さんの見舞いに行く。もちろんニーアも一緒だ。


「カナタ君。お主に頼みがあるんじゃ」


「なんだ?改まって。何でも言ってくれ」


「ふむ、お主をワシの養子にしたいのじゃ」


 俺もニーアも驚いた。2人ともなんで?という顔をした。


「ワシには相続人がおらん。ワシに万が一の事があったときに、今のままではあの家も研究成果も、国に接収されてしまう。そうされない様に相続人が必要なのじゃ」


 この国の法律のことは詳しくはしらないが、爺さんがそう言うのならそうなのだろう。

 確かに家が接収されたらこまる、だったら俺ではなくニーアを養女にすればいいんじゃないのか?


「そうしたいのはやまやまなんじゃがな……ローラントの法律では、人間が獣人を養子に取る事も、獣人が大きな財産を持つ事はできんのじゃ」


 とことん差別に満ちた国だな。獣人だから何だと言うんだ。


「ワシはこれでも研究者としては名が通っていてな、後継者を捜していたのじゃが、情報強者というスキルを持つお主は後継者としては不足無い。この世界の事は、おいおい学んでいけばいい。どうかワシの息子になってくれないか?」


「おじいさまのお願いを叶えてください、カナタさん」


 ニーアもそう言う、別にこの世界で義理の親が一人増えたところでどうってことない。別にもとの世界の親と縁が切れる訳でもないし……俺は謹んで受ける事にする。


「本当はニーアを養女にしたかったんじゃがのう……すまんのう」


「おじいさまは、私にとって一番大切な人です。お義父さまでもおじいさまでもそれは同じことです」


 ニーアはにっこり笑っていう。爺さんはわずかに口元を緩ませて笑い、手をぱちんと叩いた。親子の契約を行うみたいだ。

 ミルクが現れる、結構忙しいなこの妖精。ほぼ毎日見ている気がする。


「では、ロジー・ロータスワンドさん、カナタさんを養子とし、その財産の相続権者とすることに異論はありませんね?カナタさんも?」


 ミルクの問いに、二人は頷く。


「ではカナタさん、これからはカナタ・ロータスワンドと名乗って下さい」


 契約はあっさり成立し、ミルクは消えた。

 そうか、今まで無かった姓ができたんだな。カナタ・ロータスワンド……悪くない響きだ。

 異世界で義理とはいえ、父親ができたのか。変な気持ちだ。と思っていると、爺さんが突拍子もないことを言い出した。


「今、ニーアをワシの娘にする方法を思いついたぞ。ワシの息子であるカナタ君と、ニーアが結婚すればいいのじゃ!」


って、おい!突然なんてことを言い出すんだ、この爺さん。

 ちらっとニーアの方を見ると、耳まで真っ赤にしている。おや?「絶対に嫌だ」という感じではない。そんなに嫌がっている風には見えないぞ……


「死ぬ前にニーアの花嫁姿がみたいのう、ニーアをワシの娘にしたいのう……」


 爺さんがつぶやく。


「えっと……」


 俺もニーアも困ってしまった。くそう、爺さんめ。


「おっ!発作が!!」


 爺さんが苦しみだす、だが嘘くさい。演技である事がバレバレだ。


「うーん、せめて2人の幸せな未来さえみることができれば、安心して逝けるのじゃが……今すぐ結婚しろとはいわんから、こう……ぶちゅっと……キスしてみせてくれんかの」


くそう、このくそじじい。じゃなくてくそ親父……だがニーアと「キス」か……これは……


 ニーアの方をちらりと見る。向こうもこちらを見ていたらしく、目が合ってしまった。あわてて目をそらす。


「……本当に……キス……すれば安心してくれますか?おじいさま」


「うむ、おっ、発作が……お前達の幸せな未来さえ見る事ができれば、この発作は収まるかもしれん……くくく」


 何が「くくく」だ。わざとらしい。今度は俺もニーアも騙されない。爺さんは両手で顔を隠して、苦しんでいるフリをしている。


 ニーアはふうとため息をつき


「仕方が無いですね……これも……おじいさまのため……です……からね」


と言って、目をつむる。

 予想外の展開に、俺の胸は高鳴る。本当にいいの?ニーア??

 ニーアの唇が見える。奴隷店の派手な口紅はしていない、いつものニーアの唇だ。

 こっちの方が何倍も魅力的だ。


 俺の心臓は爆発寸前だ。最近、俺の心臓が爆発しそうな出来事ばかりだ。いつか本当に爆発してしまうかもしれん……

 俺も覚悟を決め、ニーアのほほにそっと手を添えて、静かに顔を近づけた……


 目を閉じる。あとひと呼吸で唇と唇が触れる……


「ひゅー、お熱いね。病院でキスとは、恋人たちは違うね!!!」


 気がつくと、ギャラリーに取り囲まれていた。他の患者に、看護婦さん、ロッキーさんやメルルさんの姿も見える。みんな口元に笑みを浮かべている。ロジー爺さんはさっきまでの苦しむ演技を止めて、顔に当てた指の間から俺たちの姿を見ている。


 俺とニーアは顔を真っ赤にして立ち尽くした。

 大笑いになった、爺さんは「もうちょっとじゃったのに」と笑いながら悔しがっている。

 娯楽の少ない小さい町の出来事だ。みんな昨日の事は知っているみたいだった。


「あの魔人を倒せたのは俺のアドバイスのおかげだぜ、感謝しろよ坊主!」

「あの電撃を凌ぐとは、大したものだ」

「ニーアちゃんは、ロジーさんの治療費を稼ぐために奴隷商人に身を売ったんだよ。まるで昔の孝行話だねえ」

「全くだ、猫人族は犬人族と違って薄情っていうけど、噂なんてあてにならないな」

「あの奴隷商人、破産したんだってよ。インムを使ってセコい商売してたから、ルール神の罰があたったんだな」

「あんただって、あのインムにぞっこんだったじゃないか……まったく男ってのは、インムに弱いね~」


 みんな思い思いの話をしだす。俺はロッキーさん達傭兵に何故か笑いながら殴られ、痛い祝福を受けた。自宅警備士はHPが低い、本当に死んじゃうんじゃないかと思った。


 バカ騒ぎが終わり、みんな帰った。病室が急に静かになったので、ひどく寂しく感じる。つわもの共が夢の跡というのだろうか?まあ病院が静かなのは当たり前の事なんだろうけど

 爺さんが喉が渇いたというので、ニーアが水を取りに行った。

 俺は爺さんと二人っきりになった。


ロジーのお願いです。

主人公に「姓」ができました。


次回は午前0時に投稿予定です。

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