ニーアとの夜
「カナタさん、入っていいですか?」
ニーアが部屋にやってきた。
いつもの寝巻であるシャツとショートパンツ姿に、胸元に枕を大切そうに抱えている。
「いいよ、どうしたの?ニーア」
平静を装って答えるが、俺の心臓は爆発寸前だ。ニーアが俺の寝床に来た……これは……まさか「夜ばい」……いや、メイドだから「夜のお勤め」に来たのかもしれない。
「興奮して、眠れなくて…」
そういって、俺に抱きついてくる。
俺の心臓は今にも飛び出しそうだ。疲れ果てているはずなのに、眠気なんてどこかに吹き飛んでしまった。
俺も興奮して絶対眠れない。
「もしカナタさんが私を買い戻しに来てくれなかったら、きっとあの貴族に買われていたと思います。もしそうなっていたら、こんな風に今日は眠れなかったと思うと、急に怖くなって……」
ああそう言うことね……確かにあの貴族に買われていたらヤバかった。今頃どんな目に会っていたか。
「そう思うと、今更ながらに眠るのも怖くて……起きたら、今日のことは全部夢で、やっぱりあの貴族に買われたんじゃないかと……」
ニーアはガタガタ震えている。俺はニーアをそっと抱きしめ、やさしく猫耳をなでる。
「大丈夫、明日朝起きても俺がそばに居る。今夜もずっとそばにいるから、大丈夫だよ」
「ありがとう……ございます……私、今思うんです。どんなに自分が軽はずみな事をしたのかを……猫人だからって、ハーフだからって、差別されたり奴隷に売られたりするのは普通だって思っていたから、もし自分を売れば、おじいさまが助かるなら、それも良いかなって……でも今は後悔してます。そんなことしても、おじいさまは喜ばない。おじいさまは残りの人生を、ずっと後悔したまま生きる事になるんだろうって……」
この世界では人間以外の猫人やハーフは奴隷として売り買いされるのが普通らしい。もちろん主人だって奴隷を完全に自由にできるわけではない。ルール神の規則に縛られている。しかしあの貴族みたいに平気で無視する輩も居る。だからニーアの行為は余りに軽はずみで間違っていた。爺さんも悲しんでいただろう点でも同意だ。
それに猫人だろうとハーフだろうと、なんだっていうんだ。
「ああそうだよ、ニーア。それに猫人だろうが、ハーフだろうが関係ない。むしろ普通の人よりも価値が高いくらいだ」
猫耳=可愛い
女の子=可愛い
猫耳の女の子=猫耳+女の子=もっと可愛い
再び言おう。宇宙の真理である、この簡単な方程式もわからず差別している愚民共は、小学校からやり直すべきなのだ。
「クスクス……そんな変な事言うのはカナタさんだけですよ。私が『ニャン』とか言っても、ほかの人みたいに嫌がるどころか喜んじゃうんですから」
『ニャン』キター
可愛くないわけがない。
「みんなカナタさんみたいな人だったらいいのに」
この世界の獣人やハーフに対する差別は間違っている、みんな俺みたいに猫人に萌えるべきなのだ。
そうすれば差別は永遠に過去の物となる。
そう、萌えは世界を救うのだ。
「今夜は、ご主人様のそばにいさせて下さい」
そんな可愛い事をいいながら、俺の横に枕をおいて布団に潜り込んでくる。だがベッドは狭い。枕を二つおくと一つが落ちてしまう。
「腕枕をしてあげるよ、おいで、これなら朝まで一緒だろう?」
「はい、ありがとうございます」
ニーアの髪と猫耳が腕に乗っかり、狭いベッドで体を密着させてくる。こんな美少女と密着してベッドで寝ることになるなんて、元の世界では想像も出来なかった。髪から何とも言えない良い匂いがする、体は柔らかい。俺は理性を保つのに精一杯だ。
「でも変な事しちゃダメですよ。ルール神様に、666の印をつけられてしまいますから」
額に『666』と書かれるのは嫌だ、しかもミルクの手書きだ。ここは我慢するしか無い。
ーー今日はとってもカッコ良かったですよ、カナタさんーー
ニーアが何か言った気がしたが、小さくて聞こえなかった。聞き直すと
「なんでもないです。カナタさん、おやすみなさい、ニャン」
可愛らしく、鳴き声で答えてくれた。
読んでいただいてありがとうございます。
卒業するのはもうちょっと後になります。
次回は午後9時更新予定です。