ミルクの暗黒裁判と女神スクルド
「あと、このお店の店主、あなたにお話があります。あなたにはルール神の威信を汚す嫌疑があります」
ミルクが言う。店主はびっくりして釈明する。
「ルール神様の権威を汚すなどと、とんでもない。まったく身に覚えがありません」
「おだまりなさい、まずこの税抜きの表示、あまりに小さすぎます。そもそも表示は税込み表示が義務づけられているはずです」
そうだ、そうだ。いいぞミルク、もっと言ってやれ。
この表示が小さすぎるせいで、ヒヤヒヤものだったんだから。
「さらに、666の印がついている人に対する販売行為、しかもあなたはこの客が以前に購入した奴隷に酷い虐待を加えていた事を知っていましたね?ルール神の目はごまかせません」
なんだって?あの貴族め、そんな酷いことをしたのか??
というかもしニーアがこの貴族に買われていたら、ニーアはどうなっていたんだ?ひょっとしてニーアはこいつに買われて殺される運命だったのか?
「いえ……表示が小さいのはたまたまで……以前売った奴隷がどうなったかは知りませんでした……」
店主が見苦しく弁解するが、ミルクは容赦ない。
「問答無用です。罰として、ルール神の名において、あなたの額に666の印をつけます!」
弁論の機会すらない、けっこう一方的だ。遠山の金さんでさえ、もう少し相手側に反論の機会を与えてくれるだろうに……まあ仮にも神様の使いなのだからそういうものなのかもしれない。
店主の顔が蒼白になったと同時に、世界から時間が失われる。
まるで世界から色が失われたみたいに、あたりの景色は変わり、店主も貴族もニーアもインムも、みんな固まってしまった。
俺だけなぜか動ける。
ミルクはいつもどおり空間からペンを取り出し、店主の額に666の文字を書く。
あれって手書きだったのか。
「よいしょ、666っと……」
「手書きなんだ、結構大変だね」
「そうなんですよ、最近契約違反が多くて……ってなんで動けるんですか、カナタさん?」
なんでって言われてもな、なんでだろ?
ミルクは先ほどまでは神の使いらしく、他人行儀な態度だったが、俺たちしか動けない世界では、以前のミルクと同じ話し方になっている。俺は調子に乗っていらんことを言ってみる。
「666の代わりに額に『肉』って書くのはどうだい?」
「へ?『肉』ですか?どうしてです?」
どうしてだろう、それは言えないが、少なくとも666より恥ずかしい気がする。
「うちの妖精に妙な事をさせないでくれるかい、カナタ君」
聞き覚えのある声がする。この声はルール神こと女神スクルドだ。
相変わらず異様に長い銀髪を複雑なお団子にまとめた、見てくれは10代前半の美少女が、そこにいた。
「久しぶりだね、カナタ君。まさかニーアの本当に運命を変えちゃうだなんて、思ってみなかったよ」
「運命は、本当に変わったんだな?」
「ああ、変わったよ。あんたの熱意と努力と勇気が、運命の流れを変え、因果律をねじ曲げたんだ。これは奇跡と言って良い出来事だよ。ついでにそこの店主の行動も、目に余る所があったから、666の印をつけておくことにするよ。これでニーアが再びこの商人に売られる運命は、完全に無くなった」
なるほど、確かに666の印を商売人に付けられたら破産だろう。店主は少し気の毒だが、自業自得だ。
なによりニーアが再び売られる可能性が0になる点が良い。
「ニーアが助かったのは奇跡か……俺が魔人に倒される可能性が高いと思っていたのか?」
「いんや、あんたが魔人マクスウェルを倒すことができるとは思っていたけど、後でインムのチャームに引っかかる可能性が高いと思ってたんだ」
そっちかよ、確かに危なかったけど。
「ニーアの前で、そうそうチャームに引っかかるわけにはいかない」
「そうだね、ぎりぎりで意識を保ったのは大したものだよ」
本当に褒めているのか?この女神は。
「あんたにはまだ色々と話す事があるけど、今日はこれで引き上げるよ。今日くらいは、ニーアとふたりっきりでお祝いするといいさ」
「666の印が私の手書きってことは、皆さんには内緒にしておいてください。ルール神様の威信にかかわりますから」
女神と妖精は思い思いの事を言いながら消えて行った。同時に時間が動き出した。
ミルクの暗黒裁判とスクルドからの解説です
スクルドはお気に入りのキャラで、もっと登場させたいのですが、女神と言うだけあってなかなか難しいです。
次回は午前0時に投稿予定です。