決戦、自宅警備士(後編)
「汚ねえ脚で、ひとの家に入って来てるんじゃねー!!」
俺はノートゥングで、魔人マクスウェルの脚を斬りつけた。
先ほどまでびくともしなかった脚を一撃で叩き切り、脚の1本が吹き飛ぶ。
【自宅警備】のスキルのおかげで攻撃力は数倍、それにこの剣はニーアが磨いでくれた剛剣だ、切れない訳が無い。
やはり機械の魔人だったのだろう、切られた脚の部分からは電源コードの様な物が見える。
今までスキル【逃げ足】で逃げて来たのは、スキル【自宅警備】が使える、家の敷地内に魔人を誘導するためだ。
それが唯一魔人に勝てそうな、俺の作戦だったのだ。
魔人は今までと明らかに違う俺の反撃に、狼狽しているみたいだ。
「機械のくせにビビってるんじゃね!」
今度は暗黒魔法で攻撃してくる、だが俺はとっさに闇の指輪を突き出す。
ーー暗黒魔法デカダンスーー
ーー闇の指輪ーー闇の吸収スキル発動ーーHP回復&MP吸収
「へへ、ありがとよ。おかげで完全回復だぜ、MPまでもらって悪いな」
俺はノートゥングを振りかざし、魔人に切りかかる。
脚をもう1本叩き切り、返す刀で胴体を斬りつける。
ガン!!!
胴体はさすがに固く、ノートゥングでも歯が立たない。
なら、脚を全部切って動かなくしてやる。
俺はまるで時代劇の主人公の様に、激しく魔人と切り合う。
切り合うたびに、魔人の脚の破片が飛ぶ、だが奴の脚は無数にある、いくら斬ってもダメージを与えている様には見えない。
あまり激しく動き回るのは良くない、自宅の敷地外に出てしまうと、自宅警備のスキルの恩恵を受けられなくなる。
その考えが隙になったのだろう、魔人はその一瞬の隙をついて一気に距離を詰めて来て、無数の脚で覆い被さってくる。
ーー電撃呪文サンダーボルトーー
「うお!?」
電撃によるダメージは、バルーン装備と防御力が大幅に向上する自宅警備のスキルでほとんど無いはずだ、だが先ほど庭で受けた数倍のダメージを受ける。
なんでだ?
そうかあの脚で直接電撃を流して来たのか。
電撃魔法は物理的に接触して打ち込むと、ダメージがでかい様だ。
ロッキーさん達が鎖から感電したのと同じ原理だ。
ならば、奴は機械なのだから、【闇の指輪】のもう一つの能力を使えば。
俺は先ほどノートゥングで叩き切り、むき出しのコードが出ている魔人の脚の部分を掴み、精神集中する。
【闇の指輪】のもう一つの能力、それは攻撃を受けた魔法を覚え、使用可能になる能力。
こいつは機械の魔人
機械は電気で動き
電気を使い
そして
ーー電気に弱いーー
「倍返しだ!!サンダーボルト!!」
ありったけの力を注ぎ込み、呪文を唱える。
俺の両腕から信じがたい量の電気が魔人の脚に流れ込む。
魔人は大きなダメージを受けている様だ、機械は電気に弱い。しかも剥き出しのコードからの直接接触なら、ダメージは数倍だ。以前、家の避雷針に落ちた雷でパソコンが壊れた苦い経験が活きている。
魔法なんか使った事は無かったが、指輪のおかげで難なく使う事ができた。MPは、先ほど何発かくらった闇魔法から吸収したものだ。
2発目!3発目!4発目!
魔力を使い切るまで電撃呪文を繰り返す、魔人の全ての脚が折れ、その巨体が地面に屈する。
同時に胴体の内側から黒煙と液体が噴き出す。
無数にある魔人のセンサーカメラの光が消え、まるでパソコンの電源が切れる様に、とうとう魔人は動かなくなった。
自宅警備士のペナルティが少ない夜間に魔人に戦闘を挑み、スキル【逃げ足】で逃げ、スキル【自宅警備】が使える家まで誘導する。
電撃呪文はバルーンの装備で防ぎ、【闇の指輪】のスキルで敵の暗黒魔法を吸収し、覚えた雷魔法で反撃する。
どれか1つでも失敗したらまず間違いなく死ぬという、無謀としか言いようの無い作戦だが、見事に成功した。
「た……倒したのか?」
やった!やったった!!
魔人を倒したんだ、これでニーアは助かる!!
見ていたか?運命の女神とやら、俺は運命に打ち勝ったんだ!!
LVは一気に15まであがる。
カナタ(自宅警備士)
レベル15
HP130(ただし昼間は65)
MP0(闇の指輪内にMP2)
喜んでいるさなか、魔人の死骸の一部分が砕け散り、黒い霧となった。
そして【闇の指輪】が怪しく光り、一瞬でその黒い霧を吸収してしまった。
俺は一瞬不思議に思ったが、この指輪にはまだよくわからない能力があるのだろう、と思っただけで、特に気にしない様にした。というか気にしている時間が無い。
とにかく魔人を倒した事をギルドに報告して、懸賞金をもらわないと。
俺は魔人の死骸の中から、証拠になりそうな部位を取り出し、ギルドに向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
チートっぷりを発揮し(自宅限定)、最初のボスを圧倒してしまいました。
「倍返し」をギリギリ年内に使えて良かったです。
次回は、年明け午前9時頃の投稿を予定しております。