表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/84

自宅警備士、異世界へ(プロローグ2)

 俺の名は金沢太郎、通称カナタ。

 職業は自宅警備士、先日まで自宅警備士補だったが、今日念願の自宅警備士の国家試験に合格し、めでたく自宅警備士になった。

 現在、自宅の庭の哨戒任務中だ。幸い、自宅の庭に不審者はいない。だが自宅警備士の仕事はむしろ日が暮れてからが本番だ。今夜も朝までの過酷な夜勤の任務が待っている。残念ながら今夜もサービス残業である。


 一説によると、専業主婦の労働対価は年収500万に相当するらしい。

 当然だと思う、プロの家政婦に委託すればそのくらいかかるだろう。

 だが自宅警備士の労働対価も、年収500万に相当する事はあまり知られていない。

 プロのガードマンに24時間の自宅の警備を委託すれば、そのくらいは必要である。


 自宅を警備するための国家資格、それが自宅警備士なのである。

 自宅警備士は、弁護士、公認会計士と並ぶ、文系3大国家資格であることは言うまでもない。


 ……嘘です、自宅警備士なんて、そんな資格ありません。

 ただのニートです。

 ちなみに文系3大国家資格は、弁護士、公認会計士とそして不動産鑑定士ね。

 夜勤云々も、ただ夜型なだけ……


 今日も日課の自宅周辺の哨戒任務を、愛犬ランとする。別名、お散歩という。


 「あ、にいちゃんだ」 

 

 「にいちゃん、ただいま、ランも、ただいま!」


 同じ顔をした少女2人が声をかけてくる。俺の双子の妹で、蜜柑ミカン檸檬レモンだ。

 年のはなれた妹で、まだ中学生2年生だ。


「にいちゃんにいちゃん、林檎と蜜柑ね、今日、先生とお母さんとで、進路志望の面談だったんだよ」


「ほう……2人は将来は何になりたいといったんだ?」


 俺みたいに自宅警備士になる道は、とても困難なイバラの道なので妹には勧められない。

 とはいえ、2人ともそこそこ成績優秀なので、普通に有名高校に進学できるだろう。


「え~とね、立派な声優さんになりたいんだ!」 


「なりたいんだ!だから、高校には進学せずに、専門学校に行くんだよ~」


 ……意外な答が返ってきた。声優とは、やりがいはありそうだがなかなか困難な道だ。


「声優さんは、お給料も高くないし仕事も大変らしいぞ?」


 ネットで得た知識で忠告する。妹に、社会の厳しさを教えるのも先輩としての兄の役目だ。まあ俺は自宅警備士で社会に出た事ないけどね。


「ふっふっふ、そんな事は百も億も承知さ。兄ちゃんは、蜜柑と檸檬が双子である事を忘れているようだね~」


「ようだね~、双子を最大の武器とするんだよ~」


「ほう?」


 双子である事を武器にする……か


「蜜柑と檸檬は声色はほとんど同じなんだよ~」


「なんだね!」


 ふむふむ


「それを逆手に取って、私たち2人で1人のキャラクターの役をするんだ!」


「1人2役ならぬ、2人1役なんだよ~」


?……声優さん1人で2役とか、凄い人だと1人に3役とかは聞いた事あるが、2人で1人の役だと……?


「そうすればね~、労働時間は半分ですむし、お給料は2倍なんだ」 


「なんだ~、私たちってあったまいい!天才!」


「ははは……そうか……」


 どう考えても、給料が2倍どころか、半分な気がするが……

 前言訂正、成績優秀でも、アホの子みたいだ。


 先生との進路志望面談を終えた、憂鬱そうな母親の顔が見える。これは……後でもめるかもしれん。

 自宅警備士としての直感が、危険を告げていた。


 案の定、緊急の家族会議が行われた。

 自宅の庭の哨戒任務中だった俺と、自室で自分磨き中だった姉は任務を解除され、家族会議に呼び出される。


 母は泣いている。母がネット小町で仕入れた情報によると、声優さんはとても倍率が厳しく、狭き門だそうだ。

 このまま蜜柑と檸檬が、俺みたいにニートになったらどうしようと嘆いているらしい。

 せっかく、2人とも学校の成績は優秀なのに……


「いや……たとえ狭き門であっても、やりたい事をやろうとする気持ちは尊重すべきじゃね?」


 俺が正論を述べる。誰が見ても、正論である。だが、父と姉が睨みつける。お前が言うな!と言わんばかりに……


「お前がオタクだから、蜜柑と檸檬が声優になりたいなんていう様になってしまったんじゃないのか?」


「そうよ!あんたみたいにニートになったらどうするの!オタクとか気持ち悪い!全てあんたがオタクで働かないから悪いの!」


 姉の林檎が叫ぶ。

 うるせ~!名前が林檎リンゴという、元祖キラキラネームのくせに……名前スイーツ(笑)め!

 そもそも何で姉が林檎で、妹が蜜柑、檸檬なのに、俺の名前は太郎なんだ?ウチの両親のネーミングセンスおかしいだろう?フルーツで統一するならそろえろ!

 まあ太郎じゃなくて桃太郎とかだったら嫌だけど……

 話が横線にそれたが、俺はこの名前スイーツ(笑)の林檎姉が嫌いだった。

 名前もスイーツ(笑)だが、性格もスイーツ(笑)なのだ。

 常々、オタクでニートである俺に厳しく、見下してくる。


 今だって、蜜柑と檸檬の進路の話だったのに、主題が俺のニート問題に切り替えてしまった。


 『とにかく、蜜柑と檸檬に悪影響を与えない様に、どんな仕事でもいいから働くように(俺が)』


 家族会議の結論がでた。


「働いたら負け」俺のモットーはあっさり無視された。


 なんでこういう結論に達するんだ?解せぬ……

 俺はネットで求人をさがした。

 できるだけ楽なバイトがいい。寝てるだけでお金が貰えるバイトとか、ゲームしているだけでお金が貰えるバイトとか……ちょっと怪しい薬の被験者とかでも、高収入だったら別にいいや。


 翌日、ネットで見つけたバイト先に向かう


『新型ゲーム機&ソフトのテストプレイヤー募集 期間は未定、時間の自由がある若者求む』


 新型ゲーム機か、バイト先の人に説明を受ける。

 スーツ姿の女の人が応対をしてくれた。

 サングラスで表情がわからないが、背は小さい。


「ゲームというか、別世界に行くことができる機械なんだよ」


 なるほど、それほどのリアリティを味わえるのか。凄い時代になったものだ

 俺が長い間、自宅を警備していた間に、世の中は進んだのだな。もうセナサターンを卒業する時期かもしれない。


 ヘッドギアタイプのゲーム機を頭にかぶる。


「行き先は、フィフスガルドっていう世界だよ、まあ中世の、剣と魔法のファンタジー世界さ」


 なるほど、ありきたりだが、ファンタジー世界が一番だ


「意識は完全に向こうの世界に行ってしまうから、気をつけてね。向こうの世界で本当に死んじゃう様な事にはならない様にするから、安心してね」


 ずいぶんと本格的だ。死なないにしても、敵に斬られたりしたら痛いのだろう。

 だが給料がきちんとでるならそれでもいいか。

 随分と長くなりそうだが、むしろ半年くらい帰ってこない方が、家族も喜ぶかもしれない……なんか悲しくなって来た。

 さて、これでしばらくはこの世界とオサラバか……


 視界が完全に消え、エメラルドのオーロラが現れる。

 こんなに綺麗なオーロラは現実にはみられないだろうな。


 そんなことを思っていると、チュートリアルが始まった。

 妖精型の美少女が現れた。

 フィギュアサイズの小さい体に、とがった耳、純白の羽、実にかわいらしい。

 やはり3次元より2次元のほうがいい、いやこの世界は2次元なのか3次元なのか?


「はじめまして、異世界からの訪問者様、私はガイドをおおせつかったミルクといいます」


 妖精は可愛らしく自己紹介をすると、どこからともなく不思議なタブレットを取り出した。

 どうやら、チュートリアルの記入表らしい。妖精が記入するみたいだ。

 まるで魔法みたいだ。 


「では訪問者様、お名前とご職業をお教えください」


 えーと、名前は、カナタ……

 職業……


 職業か、「ニート」と答えてもいいが、何か悲しい。でももう「学生」とは言えないし……


「自宅警備士です!」


 ミルクはびっくりしている、必死でタブレットでデータを探しているがそんな資格は登録されていないそうだ。


「自宅警備士です、自宅を、空き巣から守るのが主たる仕事です。文系3大国家資格の一つです」


 無理やりこじ付ける。

 ミルクは仕方なしにペンを取り出し、自宅警備士と記入したみたいだ。

 AIだろうがなかなか凝っている。


「では適正試験をします」ミルクが言う


 試験があるのか?俺は身構える。

 試験など学生の時以来だ。


「あなたは猫耳等の、獣耳の獣人は好きですか?」


 意外な質問がきた、猫耳の女の子とか大好きです。

 もちろん「イエス」と答える。


「あなたはエルフやハーフエルフ等は好きですか?」


 これまた変な質問だ。

 エルフの女の子なんてファンタジーの定番だ。

 もちろん「イエス」と答える。


「あなたはインキュパスみたいな、ちょっとエッチな女の子の魔物は好きですか?」


 いいね、いいね「イエス」で。でもインキュパスって、男の魔物じゃなかったっけ?まあいいや。


「あなたは魔女とかは好きですか?」


「イエス」で。


 ただ魔女より魔法少女の方が好きかな。


「えーと…では妖精や精霊といった存在は好きですか?」


 妖精や精霊か…ミルクもここに該当するのかな?

 ミルクにウィンクをしながら「イエス」と答える。

 どうせゲームの世界だからな、少し大胆になってもいいだろう。

 これで好感度アップのハズ……

 だが予想に反してミルクに露骨に嫌そうな顔をされた

 AIならもっと愛想良くていいのに……


「では最後の質問です」


「異なる種族との恋愛や結婚は、あると思いますか?」


 イエスに決まっている、むしろそういう世界が良いな。

 異世界でいろんな女の子と恋愛……すばらしい。


「え~と、合格です」


 合格したらしい。はたして今の試験に何の意味があったんだ?


「では来訪者様、いえカナタ様。フィフスガルドへようこそ」


 ミルクがそう言うと、オーロラは消え、俺は意識を失った。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ