決戦、自宅警備士(前編)
無数のカメラレンズの様な物が見える。
おそらくは目に相当するものなのだろう。その1つがこちらを捉えた。
一瞬で、魔人マクスウェルはその巨躯から想像もつかない機動で身を翻したかと思うと、まるでムカデの様な動きでこちらに突進してきた。
「つ!!!」
距離があったので助かった、紙一重でかわす。もうひと呼吸遅かったら、一撃で死んでいただろう。
突進をかわされた魔人マクスウェルは、また身を翻し、こちらを向いた。
前脚の2本が光っている。
ーー電撃魔法サンダーボルトーー
前脚から電撃が放たれた。
すざまじい衝撃と轟音が俺を襲う。
俺は、唯一バルーンの皮で守られていない顔を盾でガードしながら、必死で耐える
バルーンの対電撃耐性は機能しているみたいだが、それでもダメージは予想以上に大きい、おそらく数発でアウトだ。
電撃がやむと同時に、再び魔人マクスウェルが突進してた。
くそ、思った以上に機動が早い、ロッキーさん達が大量の鎖で動きを封じようとした気持ちがわかる。
突進を避けると同時に片手両剣ノートゥングで脚を思い切り斬りつける。
ガン
だが空しく弾かれてしまう。同時に、再度の突進を受ける。
俺は必死の思いで身を翻し、かわす。
またも紙一重、と思ったが、無数にある脚の1本が俺の体に触れ、俺は突き飛ばされる。
くっ、脚が触れただけでこのダメージかよ。
俺が魔人の姿を確認すると、再び前脚が光っているのが見えた。
また雷撃魔法か――
2度目の電撃をくらい、うめき声をあげながら俺は思わず後ろに後ずさる。
しまった!後ろは崖だった。
俺は崖を転がり落ちた。
だがあれだけの電撃を食らい続けるのなら、崖を転がり落ちるほうがマシだと思えるほどだった。
崖下にあった大きな岩に衝突し、止まる。バルーンの鎧が落下の衝撃を吸収してくれたみたいだ。でなければ死んでいた。
崖の上を見上げると、魔人が崖から飛び降りる姿が見えた。
一瞬、巨体の底面が見える。
マジか?追ってくるのか?ここにいては潰される。
俺は起き上がると、魔人に背を向け一目散に家に向かって逃げる、撤退じゃない、後方転進だ。
轟音と共に魔人が地面に着地し、さっきまで俺がもたれかかっていた岩が粉々になる、あのままだったら踏みつぶされていた。
魔人は執拗に俺を追ってくるらしい、よし好都合だ。
このまま森を抜けてニーア達の家に向かって逃げる。
あの巨体だ、木々のせいで魔人の速度が落ちるはずだ。
そう思ったが、魔人の体が黒く光る。同時に森に退廃が訪れる。
ーー暗黒魔法デカダンスーー
森が黒い霧に覆われたかと思うと、木々が急速に精気を失い枯れてきた。
数百年の歳月をビデオで早送りしている様に、木々が枯れて行く。
あっという間に森は見晴らしの良い荒れ地になってしまった。
黒い霧が俺にも襲いかかる。
ーー闇の指輪ーースキル発動ーー暗黒魔法を吸収、HP回復MP吸収ーー
闇の指輪の能力が発動し、黒い霧を吸収していく。
急に体が軽くなった気がする。そうか、【闇の指輪】のスキルでHPが回復し、MPを吸収したんだな。
体の痛みが消えた、確認する余裕は無いが、0だった俺のMPが増えているはずだ。
後ろを振り返ると、魔人がとんでもない速度で俺を追いかけて来ていた、その姿は巨大なムカデだ。
俺は、スキル【逃げ足】を発動し、必死で駆ける、幸い逃げ足は早い。
ニーア達の家の柵が見える、よし、もうちょっとで家だ。
そう思った矢先、体に電撃が走る、電撃魔法を食らったみたいだ。
戦闘と崖から落ちたせいで、鎧に隙間ができていたみたいだ、さっきよりダメージが大きい。
両足が動かなくなり、こける。
あとちょっとなのに……あの柵の向こうにさえ行けば……
このまま死んじゃった方が楽なんじゃないか?
俺は死んでももとの世界に戻るだけなんだし……
いや、ニーアが奴隷に売られて死んでしまう。
そんな運命、俺は受け入れない。
這う様にして柵をくぐる。
再び電撃をくらい、俺は柵のより内側に吹き飛ばされる。
死んだ……か?
しかしダメージは今までよりずっと少ない、そうか家の敷地内に入ったんだ。
ーー【自宅警備】スキル発動ーー自宅内での戦闘能力が大幅にアップーー
力がみなぎってくる、自宅の敷地内だからか。
筋肉が隆々と盛り上がり、体も大きくなった気さえする。もはや、自分の体じゃないみたいだ。
自宅警備士は、自宅を警備する戦士ーーすなわち自宅内での戦闘こそ本領を発揮する。
マクスウェルが柵を吹き飛ばし、ニーア達の家の敷地内に入って来た。
「汚ねえ脚で、ひとの家に入って来てるんじゃねー!!」
俺はノートゥングで、魔人マクスウェルの脚を斬りつけた。
読んでいただき、ありがとうございます。
やっと主人公がチートになります。
次話は、午後9時頃に投稿します。