ロジーの異変と、ニーアの決意
帰るとニーアの顔色が真っ青で、困り果てている様だった。
「どうしたの、ニーア?」
「おじいさまが…おじいさまが病気で倒れてしまたんです」
「え?じゃあ、すぐお医者さんに看てもらわないと」
「それが、お医者様が言われるには、どうもコロリみたいなんです」
ニーアが言うには、コロリというのは相当な難病らしい。
医者に高価な薬で特別の治療をしてもらわないと、まず死ぬ。
治療をしても、そのかいなく死ぬ事も多いらしい。
なんてことはない。
俺はずっとロジー爺さんの死亡の運命の原因を、勝手に魔物の襲撃によるものだと思っていたが、この世界でも病気はあり、人は死ぬ。爺さんの年齢を考えると、一番可能性の高いのは病死だったのだ。
「治療代は、そんなに高いの?」
「最低5万ルーグはかかるみたいです」
高い!
この世界は1日20ルーグあれば最低限の生活ができる。
つまり5万ルーグは7年分の生活費に相当する。
しかし健康保険の無いこの国で、難病の治療をする場合はそのくらいかかるかもしれない。
つまり爺さんはこのままでは間違いなく死んでしまう。
コロリは空気感染しないとの事なので、少しだけ爺さんの様子を見に行った。
爺さんの顔色は短期間のうちに土色になっていた。
とても昨日までの爺さんと同一人物とは思えない。
「……カナタ君かね?」
「大丈夫か?爺さん」
「……医者が言うにはコロリらしい、もうワシも歳じゃし、これも運命じゃろう」
運命?これが運命か?スクルド神の言っていた運命だと??
「天国に来いとの神様の思し召しじゃろうて…」
逝くな!天国も性悪そうなスクルド神がいるだけで、ろくな所じゃないぞ!だから逝くな!!
「ワシは歳じゃからもうよい。じゃがニーアが心配じゃ。あの娘はいい子じゃが、獣人で、しかも人間とのハーフという事で、ワシに会う前にずいぶんつらい思いをしてきたらしい、また一人ぼっちになってしまうとは不憫じゃて」
「大丈夫だ、爺さん。俺がいる、俺はニーアを差別なんかしたりしない、絶対だ」
爺さんは唇を動かしてわずかに笑みを浮かべた
「ワシが死んでもニーアが自暴自棄にならないように見守っててもらいたいのじゃ。以前のお主ならともかく、最近のお主はちょっと頼もしいぞい……」
「わかった、わかったから、休んで早くよくなってくれ」
あまり病人を疲れさせてはいけない、爺さんの部屋からでると、ニーアが立っていた。
「カナタさん、私、どうしてもおじさまを助けたいんです……どんなことをしても、助けたいんです」
ニーアは瞳に涙でうるわせ、今にも泣き出しそうにしながら言う。
ニーアにとって爺さんはかけがえの無い大切な家族なんだろう。
獣人族で、しかもハーフのニーアに対して親身に接してくれたのが爺さんだけだったのだ。
困難だが、1つだけ方法がある。
それは魔人マクスウェルを倒して、その懸賞金を得る事だ。
懸賞金は15万、もっと上がっているかもしれない。
俺とニーアのレベルでは、非常に困難だが、やるしか無い。
「聞いてくれニーア、魔人マクスウェルという魔物がこのあたりにいるはずだ。そいつを倒せば懸賞金が手に入る。一緒に戦ってくれ」
「そんな……そんな強い魔物を倒せるとは思えません、それにカナタさんだって無事ではすまないかもしれません」
「俺の事は別にいい。無謀でも何でも、魔人マクスウェルを倒さないと爺さんが助からない。他に方法がないんだ、ニーア」
涙目のニーアは無言でうなずく。
どうやら納得してくれ様だ。
だがニーアは既に全く別の方法でお金を得ようと考えていたとは、そのときは露とも思わなかった。
読んでいただきありがとうございます。
この世界でも病気はあります。コロリとはコレラの昔の日本名ですが、この病気はコレラではありません。
保険って大切ですね。医療費高すぎです。
次回予告
決死の魔人討伐を決意するカナタ
一方、ニーアは別の決意を固めていた
次回の更新は午前9時頃を予定しております。