なぜ彼は変わったか?
リビングでニーアとロジー爺さんが会話をしている。
俺が帰ってきたことには気づいていないみたいだ。
死ぬ運命の当事者であるこの二人からなら、何か情報を得られるかもしれない。
俺は二人に気づかれないようにこっそりと聞き耳を立てた。
「最近のカナタさん、変わったと思いませんか?おじいさま」
「そうじゃの~、昨日あたりから、急にやる気になったようじゃの」
どうも俺の話題らしい。
「はい、今まではダラダラと楽することばっかり考えていたのに、今では進んで修行したり、魔法について聞いたり、町にでかけたり……変わり過ぎだと思います」
「ふむ、ではなぜカナタ君は変わったと思う?」
爺さんが問いかける。俺は全身を耳にして会話の盗み聞きに集中する。
「あの年頃の若者が変わるといったら、1つしかありません」
ニーアが断言する。
「それは……」
「それは……?」
ニーアが少し言いにくそうにもじもじしている。
じっと見つめる爺さんから、ニーアは視線をそらす。
ニーアと爺さん、そして盗み聞きしている俺の間に沈黙が訪れる。
俺は「ごくり」と唾を飲み込んだ。
それは……まさか「恋」?
俺がニーアに好意を持っていることを気づかれた?
いやまて、ニーアがそれを言うってことは、まさか相思相愛!?
「……それは……宗教だと思います」
俺がずっこける。
「いてて……しゅ、宗教じゃと?」
爺さんが額に手をやりながら言う、どうも爺さんもずっこけて頭を打ったようだ。
「はい、あんなにだらしないカナタさんが変わるなんて、他に考えられません」
ちょっとひどい。
「きっとスクルド神様が、カナタさんが悔い改める様に、夢の中でさとしてくれたのではないでしょうか?」
けっこうひどい。
夢の中でスクルド神に会ったのは確かだけど、べつに「悔い改めろ」って諭されたわけじゃないぞ。
微妙に合っているだけ恐ろしいが。
「このまま努力すれば、カナタさんは真人間になれると思います」
いや、俺が努力しているのは、ニーア達のためであって、自分のためじゃないぞ。
そんなことを思いながら、自分のためにならトコトン怠けるけど、ニーア達のためになら少しは頑張ってみようと思っている自分がいることに気づいた。
異世界とはいえ、良くしてくれた人の恩に報いるのは良い事だよね。
読んでいただきありがとうございます。
他人のためになら変われる、古いテーマですが、いいテーマですね。
次回の更新は午前0時を予定しています。