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運命の女神スクルド

 ……不思議な感じだ。夢を見ているみたいだが、意識がある。

 まるで雲の上みたいな、ふわふわした感じだ。


 昼寝したまま天国に行ったのだろうか。


「はは、まだ死んではないよ、カナタ君。それとも太郎君と呼んだ方がいいのかな?」


 女の子が目の前に立っている。

 髪は銀髪、恐ろしく長いであろう髪を複雑なお団子にまとめている。

 ローブみたいな、着物みたいな不思議な衣装を着ている。何やら荘厳な雰囲気を漂わせているが、瞳だけは小動物の様に愛くるしい。

 年齢はよくわからない。外見は10代前半の少女に見えるが、異様に落ち着いた雰囲気と合わない。

 なんだかよくわからないが、どことなくうさん臭い雰囲気が漂っている。

 多分、俺の嫌いなタイプだ。


「そんなに嫌わないでくれよ、これでも一応、女神様なんだから」


 女神様?何を言っているんだ??


「ここは神界、私の名前はスクルド。まあいわゆる神様さ」


 スクルド、北欧神話に登場する有名なノルンの3姉妹の名前と同じだ。

 ただなんか俺の思い描いていたノルンの3姉妹とイメージが違う。

 もっと、何かこう……色気というか優しさというか、儚さというか何かが足らない。

 というか色々足らなさすぎる。


「失礼しちゃうわね。こんな萌え系の女神様はそうはいないよ」


 自分で「萌え系」とか言っちゃったよ、この人、つーかさっきから心読まれてない?


「神様だからね、心くらい読めるよ」


「フィフスガルドの世界ではスクルド女神ってば、結構人気の女神なんだよ、異世界の住人であるあんたは知らんだろうけど」


 どうやら俺のことはよく知っているみたいだ。もとの世界のことも、そういや本名も知ってたな。

 ということは、本当にこの世界の神様っぽい。


「ちなみに、契約不履行者に666の印をつけてるのも、あたしだよ。だからルールの神とも言われている」


「あなたがルールの神?約束を破ると額に666の印をつけるとかいう」


「そうだよ。まあそっちのルールの神って言うのは称号っていうか、あだ名みたいなもんだけどね」


 つまり目の前の女の子=スクルド神=ルールの神、ってことか


「なんで額に666の印をつけるなんて、そんなつまらないことを?」


「つまらなくないよ。もともとあの世界は、すぐ約束を破ったりする無法地帯だったんだ。なんせ多くの種類の知的生命体が共存している世界だからね。特に異種族に対する扱いなんか酷いもんだったんだよ、騙し、騙される。捕虜は皆殺し……種族が違えばやりたい放題だったんだ。今も結構酷いけど」


 確かに俺たちの世界の人間だって人種や民族が違えば、結構酷いことをしてきた。種族が違えばもっと酷いことをしたかもしれない。


「だからさ、せめて約束は守らせようと、約束破った人にはそれが分かるように額に印を付けるようにしたんだよね。妖精の力を借りたり、魔法とか遺伝子とかいろいろいじったりしてね」


「神様なら人間達が悪い事をしないように、人間やほかの種族を作り替えたらいいじゃないの?」


「そんなことできないよ。もしやろうとしたら今の生命体を全部殺してやり直し、ってなっちゃうし、かわいそうだし、めんどくさいからね」


結構怖いことをさらりと言っちゃったよ、この人。


「でさ、最初777って印を、嘘をついた人に付けてたんだけど、なんか知らないけど喜ばれちゃってさ、666に変えたんだ。そしたら、なんとかみんな約束を守るようになったんだよ。あの世界の年月で400年くらいかかったけどね」


400年もかかったのか……気の長い話だ。


「でもたったそれだけのことで、みんなに約束を守るようにしたんだよ、あたしって結構頭いいと思わない?」


スクルド神が問いかけてくる、確かに、ある意味すごいのかもしれない。長年のおせっかいな宗教の教義や、海を割ったりする派手な奇跡より、余程効果があるかもしれない。


しかし軽い、とても神様とは思えない軽々しさだ。


「確かに、凄いですね、みんな約束を守る社会ができたんだから」


「そうでしょ、そうでしょ。でもね、ルールを尊重する社会ができたんだけど、ルールが強化されたせいか、異種族に対する奴隷制なんかもできちゃったし、結局このままじゃ種族間戦争と天変地異が起こって、この世界は滅んじゃうんだ。だから君を異世界から召喚したんだよ」


 え?俺ってこいつに呼ばれたの??

 つーかこの世界って本当に異世界なの?よくできたゲームじゃないの?


「そうそう、ゲームのテストプレイヤーの募集のふりをして、あたしが呼んだんだよ。君って、猫耳とかエルフとか大好きでしょ?だから適任かな~と思って」


 そんな理由で……


「でさ、せっかくだから勇者にしてあげよう、と思ったんだよね。でも賢者の方が良いのかな?他の職業の方がいいのかな?って悩んだんだよね。例えば場合によっては「勇者様」より「王様」とかの方が影響力は大きいでしょ」


 確かに勇者より、場合によっては賢者や王様の方が良いかもしれない。

 というか王様になってハーレム……


「んで、悩むのも面倒くさくなって、本人の意思を尊重しようと思ったんだよ」


 そうか、だからプロローグで職業を聞かれたわけか。


「そしたらさ、勇者でも賢者でもなく、【自宅警備士】だってさwwwwwwwwwいやー、笑い死にするかと思ったよ」


 神様のくせにwwwwwwwwwとかいって笑うな、あと神様なんだから笑い死にするな。

 だんだん腹が立ってきた。嫌な神様だ。


「いや~せっかく異世界から召喚した救世主がニートだなんて、おかしいけど笑えないよね。ニートで良かった点は、情報強者のおかげでこの世界の言語が最初から話せる点くらいだしね」


 ……最初からこの世界の言語が理解できたのは、スキル情報強者のおかげだったのか。

 ふれてはいけない異世界もののタブーだと思ったので、あえて触れない様にしていたんだが、無駄な気遣いだったらしい、


「で、いったい何が言いたいんだよ」


「いやね、君に世界を救ってもらうつもりだったんだけど、ニートじゃ無理っぽいから、結局この世界は滅ぶしかないね、いや~複数の知的生命体が共存する世界って、希少な試みだったんだけど、仕方ないね。カナタ君は、テキトーに死んで、もとの世界に引き上げてくれたら良いよ。何なら今、死んでくれる?」


 なんだって?この世界が滅ぶ?ニーアやロジー爺さん達も死んじゃうのか?


「その二人ならね~、ロジーさんは約1週間後に死んじゃうし、ニーアちゃんは奴隷として売られた先で死んじゃうから、世界の崩壊よりずっと前に死ぬことになるよ」


!!!こっちの世界が滅ぶことや、高齢のロジー爺さんが死ぬのは別に仕方ないが、ニーアが奴隷として売られたあげくに死ぬ、だと??


「まあ君には関係のないことだよね、で、君はいつ死ぬの?今でしょ!?」


 予備校教師みたいなノリで問いかけてくる。


「なんでニーアが奴隷として売られた上に死んじゃうって分かるんだ?」


「まあこれでも女神様だからね、だいたいの歴史の流れって言うものは把握できるんだよ。運命みたいなものかな、その流れを変えるには、流れの外からの力がいるんだ。君たち異世界人はこの世界の運命の外にいるから、その力があるんだよ」


「じゃあ、俺がその気になれば、ニーアが死んじゃう未来や世界の終末を防げるの?」


「可能性はあるけど、職業がニートじゃ無理だよwwwwwww」


 またwwwwwwwって笑いやがった。俺だって、やればできるかもしれない。あと、ニートじゃなくて自宅警備士だ。


「えーと、俺が死んでも、元の世界に戻るだけなんだよね?」


「そうだよ、だから死んじゃってよ」


「ニーア達の世界に戻ります。てか今すぐ戻らせろ!」


 世界の終焉を防ぐ、そんなことできる自信はない。だけど、ニーアが奴隷として売られた上に死んでしまう未来くらい回避できるかもしれない。そんな未来は許さない。ついでにロジー爺さんも助けたい。


「そっか~、じゃあ餞別にこの指輪をあげるよ。【闇の指輪】、君はニートで闇属性だから装備できるよ」


 なんでニートが闇属性なんだよ、まったく……でももらっとく。


「効果は結構凄くてね、敵の攻撃魔法を食らうとランダムで覚えたりすることができるんだ」


 なにそれ凄い。


「でも君のスキル【超弱意志力】(MPが0で成長しない)のせいでMPは無いから、魔法覚えても使えないけどね。魔法は意思力と想念力が形になったものだから、意思脆弱なニートの君じゃ魔法は使えないよ。そもそもHPも低いから、敵の魔法を食らったら、覚える前に死にそうだし……いや~最高に笑えるよね、自宅警備士って職業、ペナルティ多すぎwwwwwww」


 だからwwwwwwって笑うな!!!

 こっちの怒りを尻目に、ロリ女神様はキャッキャと笑っている。


「こっちの破邪の聖剣とか、賢王の杖とかも欲しい?最強クラスのチートアイテムだよ?」


 そんなものがあるのか?ならそっちをよこせ。


「でもどっちも光属性だから、闇属性の君だったら持つだけで即死だと思う。どう、それでも欲しい?」


 いらん、なんて意地悪な神だ。


「君の闇属性は相当な物だよ。なんせ最弱のモンスターの破魔魔法でも100%即死だからね」


 ほっといてくれ!!


「じゃあニーアたちの世界に戻すから、頑張ってね。期待しないで待ってるよ」


 意識が再び薄れた。




「スクルド様、ちょっと挑発し過ぎだと思うのですが……彼が任務を投げないか、ヒヤヒヤ物でした」


 隠れていた妖精ミルクが現れる。チュートリアルでカナタを案内した妖精だ。


「彼はあのくらい挑発が必要なんだよ。隙を見つければ、サボる事を考える性格だからね」 


「……本当に良いのですか?スクルド様。彼に、あの指輪を任せてしまって……」


「良いんだよ、これで。光属性の救世主では世界は多分、救えない。だから逆転の発想で闇属性の救世主ってのも良いかもしれない」


「しかし……あの様なやる気のカナタさんに……聞けば異世界ではニートという下層の闇の住人だったとか。なんであの人を、スクルド様の使徒に選ばれたのか、私には理解できません」


「この世界を救うのは、彼の元の世界の地位じゃないよ。もっと別のものさ、あの男にはそれがある……かもしれない。どっちにしろもう、あたしはこの手にかけるしかないのさ。姉さん達が動く前にね」


読んでいただきありがとうございます。


運命の女神スクルド登場です。

やっと話が進みます。


「今でしょ」の言葉を年内に使えて良かったです。

次の目標は「倍返し」です。


明日も投稿します。

よろしくお願いします。

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