異世界で、自宅警備士の基本に忠実に
意識を取り戻した時、俺は木製の簡易なベッドの上に寝かされていた。干したワラが布団の代わりにのせられている。
そこは木材と石材で作られた家だった。作りは質素だがとても頑丈そうにみえる。質素だが、よく掃除が行き届いた部屋だ。
俺の部屋とは大違いだ。
窓から、家を取り囲む柵が見え、さっきのファーの町が遠くにみえる、どうやらこの家は町の外にあるみたいだ。
「起きたようじゃな、生命力が危険域まで下がっていたので、心配しておったのじゃ」
ロジー爺さんが部屋に入ってきて話しかけてきた。
ほっぺを触るとガーゼと包帯の様な物で治療した跡ある。元の世界のガーゼと違い、薬品の匂いがしない。代わりに葉っぱの匂いがする。薬草の様だ。
「おじいさま!、カナタさんが起きたんですか!?」
ニーアが部屋に入ってきた、ずいぶん慌てた様子だ。
つーかロジー爺さんの事を「おじいさま」って呼んでるだ。
メイドなら「ご主人様」だろうに……
でもニーアが爺さんを「ご主人様」と呼ぶのはやけるから、まあいい。
「ああ、ニーアさんおはよう」
俺は呑気にあいさつをする。もう「おはよう」という時間帯ではないが、夜型の自宅警備士にとっては日が沈むまでは午前中みたいなものなので「おはよう」でいい。
ニーアさんは俺の挨拶を聞いて、ホッとした様子だ。口元がわずかに緩む。
「あの……その……カナタさん。引っ掻いたりして、ごめんなさい」
ああ、引っ掻いたことを気にしていたのか。まあ生命力が危険域まで下がったみたいだから、心配されてもしかたない。
「だって、引っ掻いただけで瀕死の重傷を負うほどひ弱な人間が、この世にいるだなんて……」
ニーア、わかったからそれ以上は言わないでくれ。俺のHPの低さが原因みたいな気がしてくる。
こりゃRPGとしては相当苦労しそうだな。まあ外で身を挺してモンスターと戦う、なんて気は元々ないんだけど。
「気にしなくていいよ、ニーアさん。俺も悪かったし」
ここは寛大な態度を示そう。なにせ「ニャンてものを観てるんですか!!!」との可愛らしい猫語も聞けたのだし、その後も介抱してくれたみたいだしな。
「カナタ君、行き先も無いみたいだし、しばらくこの家に泊まり、傷の手当を続けんかね」
ロジー爺さん、自宅警備士の俺にそんなこと言って良いんですか?とことん甘えますよ?
親のスネは限界までかじれ。
他人の親切には限界まで甘えろ。
自宅警備士の基本である。
「手伝ってもらいたいこともあるしな」
ロジー爺さんが俺に手伝ってもらいたいこと?何だろう。
肉体労働でなく、危険でなく、めんどくさくない作業であれば喜んで。
「では、しばらくお世話になります」
俺はしばらくご厄介になることを決めた。
読んでいただいてありがとうございます。
異世界での「自宅」をゲットしました。
芸能界では挨拶は何時でも「おはよう」らしいですね。
どうでもいいですけど
すぐ更新します