表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

あの事件のその後


 忘れてませんでしたよ、はい。多分・・・。

 

本日は筋肉痛とのことで訓練は休み(ジェイが言った)、淡々と午前中の事務作業をこなした後、昼休みに入った瞬間に「ちょっと出ます!」と言いながら、共同執務室から駆け出した。

 匂いで探そう!と思って嗅覚を強化すると、場所がいけなかったのか、汗の激臭に気絶しそうになった。

 (あ!そもそも匂い覚えてない)

 根本的なミスに気づいて、地道に足で探すしかないと小走りに探し始めた。

 食堂が1番確立高いかな、と向かう。

 前にサリーが「ジックイットさん(オルバ)なら食堂でよく見るわ」と言っていた。

 ちなみにオルバはあの時の役名だったそうで、騎士団の中ではジックイットの名前でいるそうだ。それが本名かどうかは知らない。

 ジックイットさんは騎士団第2大隊所属の騎士となっている。

 諜報部っていうのはみんなどこかしらの隊に所属していて、いわゆる裏の役らしい。

 その人間を探すのはタブーで、見つかればどうなるかは知りたくない。

 広ーい食堂に入れば、ものすごい数の人がごちゃごちゃ動き回り、ざわざわ話していた。

 (仕方ない…)

 視力強化の魔法をかける。

 はるか上空からでも獲物をすばやく察知できる鷹の目だ。

 (いた!)

 少し奥のテラスに近い席で、1人パスタを食べている人を発見した。

 人の波をかき分けるようにして近づき、背後からその肩にぽんっと手を置いた。

 くるりと振り向いた濃い茶髪の男性は「見つけた」と、つぶやいた私をみて驚きの声をあげた。

 「わぁあ!」

 「ジックイットさん?」

 「め、目がギラギラしてるよ、ヒルダさん!」

 あ、また解除忘れてた。

 「すみません」

 すぐさま解除して、勝手に向かいの席に座る。

 「あの、お伺いしたい事があってきました」

 「え?何?」

 再びパスタを食べ始める。

 トマトソース系パスタを口に運べば、にっこり幸せそうな顔になる。

 「あの、ジェイさんのことなんですが」

 「何?あいつ浮気でもした?」 

 「浮気?じゃなくて、お嬢様との縁談の話、覚えてらっしゃいますか?」

 「縁談~?」

 もう一口パスタを食べてから、上を向いて考えて、ポンと手を打つ。

 「あぁ、あのついでにヒルダさんがって話?」

 「それです!その話はどうなったかご存知ですか?」

 ぐっと前に詰め寄ると、彼は首をかしげた。

 「さぁ、君が補佐官になったからあの場限りのことじゃないかな」

 「そうですか、良かった」

 ほっと胸をなでおろす。

 「何、お嬢様が恋敵とでも思ったの?」

 なぜかわくわくした様子で聞いてくる。

 「恋敵?何おっしゃってるんですか?

 私が心配しているのは、お嬢様がお家の為とはいえ、あの腹く…いえ、ジェイさんと縁談だなんてとんでもないって話ですよ。

 と、いうか彼女いらっしゃるんですか?」

 「へ?」 

 「見かけは良いですが、あの怖い笑みを見たら彼女さんも逃げるかもしれませんね」

 ぽかーんと口を開けたままのジックイットさん。

 口の周りに小さくソースがついてますよ、と教えたい。

 「昨日訓練で見たんですよ、あの笑みを。ジェイさん有名なんですか?」

 「あ、うん、一部にね」

 「公開演習なんかしたら、せっかくのファンが卒倒するでしょうね。人様に見せる笑みではないと思いますが」

 「大丈夫。興奮しないとアレはでないから」

 「そうなんですか、興奮…」

 興奮してあの冷笑。

 戦闘狂か!?あの人!

 でなければ変態か…。

 「そういえば、あの事件の刑罰が決まったらしいよ」

 「え?」

 「ジェイも知っていると思うよ。じゃ、またね」

 あっという間に食べた皿を持って席を立って行ってしまった。

 とりあえずお嬢様の縁談の話はなさそうだが、念のためお嬢様へ確認のお手紙を差し上げよう。

 1人うんうんとうなずいて、ぐぅっと主張したお腹の主にご飯を与えるべく席を立った。


 「どこに行っていた」

 急ぎの仕事でもあったのか、少し不機嫌そうだ。

 部屋にはエドが書類整理しているだけで、あとの3人はいなかった。

 「ちょっと部屋に戻ったんですよ。何かありましたか?」

 「別に」

 ふんっと顔をそらす。

 「そういえば、あの事件のその後ってご存知ですか?」

 「あの?」

 少し考えてからこっちを向く。

 「あぁ、エノンの水晶洞か。一応な」

 「聞いてもいいですか?」

 「今まで忘れていたのだろう、聞かなくてもいいだろうに」

 「忘れてませんよ!」

 半分図星。

 最初は覚えていたけど、訓練やら人の顔を覚えるのやらで日々殺伐としていて忘れていた。

 「前子爵は流刑だ。侯爵は爵位剥奪、財産没収で同じく流刑。一族も財産の没収や爵位の降格などの処分をうけている」

 「流刑…」

 平民であれば死罪だろう。

 貴族は法でも優遇される。

 流刑は孤島にある貴族の幽閉先だ。一生出ることはなく、もちろん世話人などはいない。監視の目の下に自給自足を余儀なくされる。貴族として(かしず)かれる生活をしていた人にとって、これほど過酷で屈辱的なものはないだろう。発狂する人も多いという。

 「死罪を免れたのは、魔石の大部分を一族総出で回収にあたったからだ」

 「あの、子爵家は…」

 「男爵家に降格となった」

 背筋に悪寒が走った。

 無意識に握り締めた拳が震える。

 「言っておくがそれだけで済んだのは、お前が告発した事で事態の収拾が早くついたからだ。男爵家とはいえ領地はそのまま、水晶洞の採掘も任される。いくらでもやり直しができるはずだ」

 ジェイなりのフォローだろう。

 いくら言われても、降格された醜聞にミードソン家は、お嬢様達は耐えなくてはならない。

 私は1人その場から逃げている。

 「今更だが、お前は悪くない」

 頭にポンと温かい大きな手が乗る。

 「お嬢様の友達なんだろう。

 信じて、お前は自分のできるやり方で彼女を支えればいい」

 「…はぃ」

 歯を食いしばって声は出さない。

 下を向けば涙がポタポタと落ちてきた。

 「エド、少し手伝ってくれ」

 「はい」

 何も言わず2人は部屋を出て行った、いや、出て行ってくれた。

 数秒後、私は大声を出して泣いた。

 多分、この世界に転生して初めての大泣きだったと思う。

 ちょっと株あげないとね(笑)

 

 読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ