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フラグ?へし折ります

新キャラ4人でます。

 1時間後。

 自室で腫れと痛みに苦しむ私がいた。

 あの後、騎士団長様と隊長は談笑しながら「また。呼んでくれ」と去って行った。

 最後はお辞儀をしてお見送りはできた。

 膝はガクガクと笑っていたかもしれない。

 「…どういうつもりですか」

 「何がだ」

 「騎士団長様は『ほどほどに』っておっしゃったじゃないですか!」

 「俺は全力でこいと言ったはずだし、撤回はしていない。

 それより、早く解除したほうがいいんじゃないか?」

 「部屋でします!」

 こんなところで解除したら、すぐ歩けなくなりそうだ。

 「運んでやろうか」

 「結構です!」

 何恥ずかしいことを言ってるんだろうか。

 まだまだ大勢あちこちに人がいるのに、そんな恥ずかしい目には会いたくない。むしろ、夜でもご遠慮願いたい。

 「憧れの騎士団長様はもういないぞ。早く楽になれ」

 「え」

 何で知ってるの、と驚きと戸惑いに声が出ない。

 「見てればわかる」

 そんなに顔に出ているとは!

 「今日の業務は終わりだ。明日も無理なら連絡しろ」

 「はい」

 一足先に歩き出すジェイに「ありがとうございました」と、挨拶をしてからさっさと部屋に帰った。

 そして冒頭に戻って、私は熱を帯びた体を横たえているのだ。

 この3ヶ月、毎日のように使っていたせいか、大分体が反動に慣れてきた。

 痛みや腫れはあるが、軽い魔法くらいならだるいとか、少し痛む位で済むようになった。

 しかし訓練ではまだ少なくとも数時間、長くて半日は寝込む。

 「に、してもあの豹変はないわぁ」

 腫れているのでほぼ閉じられているが、目を閉じれば浮かんでくるあの上司の笑み。

 普段もあまり感情豊かではないので、笑うことはあってもせいぜい口角が上がるくらいだ。あの恐ろしい笑みは、その普段の笑みの何倍も感情がこもっていた。

 「彼女いないだろうなぁ」

 つぶやいた自分の言葉で思い出す。

 あの上司、年は23才で結婚適齢期真っ盛り。しかも父は貴族院のグレンドール侯爵。しかも騎士団所属で3男。婿にするにはかなりの優良物件なのだ。


 --ならば令嬢と結婚すれば、もれなくお前がついてくるわけか--


 恐ろしい言葉を思い出して、私は身震いした。

 お嬢様に対する暴言と思っていたが、子爵家にとって侯爵家と縁続きになる良縁だったのだ。

 あれ以来お嬢様については何も聞いてこないが、まさか着々とその話を進めてるのではないだろうか。

 貴族の結婚なんて、庶民の私には良く分からないが、とにかく家同士の結びつきに躍起になるのは庶民の比ではないというのは確かだ。特にミードソン子爵家は、前当主の仕出かした醜聞を取り払おうとしている真っ最中。

 新当主のフレイダス様は自分は中継ぎだからと、お嬢様方のどちらかに婿をとってもらおうと思っているらしい。

 ミードソン家にとっては良縁でも、お嬢様個人にとってはあの腹黒い上司は悪縁だ。

 「やだ!まさかこれがフラグってやつですか!?」

 答えが返ってくるわけでもないが、私はお嬢様をあの上司から守るべく必死に考えるのであった。

 

**************************


 翌日筋肉痛はあるが、腫れはひいたので出勤した。

 どんなに上司が腹黒くても、仕事は仕事ですからね。

 「おはようございます」

 共同執務室に入って一礼すれば、各方面から「おはよう」と挨拶が返ってきた。

 前方の机には四角い顔と大きな体を持つオードル・フィスコ氏が座っていた。刈り上げた短い黒髪と太目の眉に、やや細めの茶色の目。肌は焦げているかのように黒い。地黒なんだ、と本人は言っていた。年は30才であるが、もう少し上に見える。

 ちなみに騎士団でも指折りの怪力の持ち主だそうだ。

 「あ、虫」

 「どこだ!?」

 すばやく体をひねって後ろを向く。

 おかげでその後ろにいた少年の姿が見えた。

 じょうろを持って「ここです」と指差すのは、彼の補佐官であるエドワード・コレス・ブルックス、15才。金髪の短髪に、大きな黄色の目をした愛らしさの残る顔立ちで、物静かで控えめな性格。北の地方貴族の出らしい。

 始めに「エドと呼んでください、お願いします」と言われてエドと呼んでいる。

 「ジェイナスさんは、フランドールさんと隊長室に行かれてますよ」

 棚に奇抜な色をした帽子を戻しつつ、第5席補佐官サリアナ・マディソンがにこりと微笑んだ。赤い巻き毛の少女で、薄茶の目はくりっとしていてかわいい顔立ちをしている、赤い眼鏡がトレードマークの19才。

 『帽子狂(卿)』と名高い第5席フランドール・ラグ・ホルム氏の補佐官で、彼の帽子の管理は彼女が任されている。

 なんでも実家が王室御用達の帽子店で、両親はデザイナー。もちろんフランドール氏はお得意様。

 つまり、自分の帽子の手入れをさせるために補佐官としてスカウトしてきたらしい。

 1つ違いと言うこともあり、サリーと愛称で呼ぶほど仲良くしている。

 ある日デザイナーの勉強もしていたというサリーに、今の仕事について聞いてみた。

 「私、帽子を愛でられる仕事につけて、幸せなんです」

 愛する人を思い描くように少し顔を赤らめて、うっとりしていた。

 似たもの同士だとすぐわかった瞬間だった。

 「昨日は大変だったな。体はいいのか?」

 虫を退治し終えたオードルさんが聞いてきた。

 「はい、大丈夫です」

 走ると痛いですけどね。

 「そうか。隊長も言っていたが、女性であってもあいつは手加減をしないからな。だから女性騎士との訓練から外されてるんだが」

 はぁ、とため息をつく。

 手加減だけではなく、多分あの怖い笑みのせいだと思いますとは言えない。

 「手加減してくれたら、みんな喜ぶのにもったいないですねぇ」

 くすくす笑いながら、また違う帽子の手入れを始めるサリー。

 「あいつは普段もの静かだが、実戦になると熱くなりやすいからな。

 昨日の訓練も満足したのだろう。機嫌が良かった」

 「あぁ、だから午後の訓練の時、始めから笑ってらしたんですね」

 サリーはにこにこしているが、エドは眉間にしわを寄せている。

 「僕は、あれが笑顔かどうかわかりかねます」

 「慣れれば笑顔に見えるわ」

 サリーはフランドールさんの帽子をいくつか準備して、よく訓練場に同行している。エドは完全な文官でほとんど行かない。

 私と訓練した後、騎士団の訓練に参加したジェイはあの怖い笑みをしたままだったらしい。

 「エンジンがかかるまでいつもなら数人相手にしてるのに、昨日はヒルダさんとのおかげで最初から調子良かったみたい。フランドールさんも笑ってらしたわ」

 私はこの場にいない騎士団の皆さんに「ごめんなさい!」と、心の底からお詫びした。

 程なく2人が戻ってきた。

 「やぁ、昨日はお疲れさーん」

 長い金髪を緩く束ねて背中にたらし、ややタレ目がちな青い目をした美形がかぶっているのは、赤く全体的にトゲトゲした先に鈴がついた帽子。縁は金糸で二重に刺繍が施されており、歩くたびにしゃんしゃんと鳴る。

 優男といった雰囲気だが、帽子のせいで道化師《ピエロ》に片足を突っ込んでいる。

 体系はジェイに良く似ている。身長もあまり変わらないようだ。

 ちなみに中央貴族のホルム伯爵の次男で、ジェイとは従兄弟とのこと。

 体系以外は全く似ていない。

 「うちの家系は執着心が強くてね~」と言っていたが、伯爵の血筋のことだろうと思う。

 「サリー、僕、ちょっと疲れた」

 「はい」

 さっと棚から取り出した帽子は黄色の生地に、ぐるりと緑色の蔓草《つるくさ》が巻きつけられている。つばが短くてなぜか大きく先端がゆるやかにカーブしていて、先端には三日月のチャームが光っている。

 姿見で帽子を手直す。

 「はぁ、癒される」

 目をつぶって大きく深呼吸するフランドールさん。

 そこに唖然とした私と、仏頂面のジェイが映っていたが気にしていなかったし、サリーは黙って渡されて帽子を手入れしていた。

 「公開演習の話か?」

 「そうです」と応えたのはジェイ。

 書類を私の机にポイッと投げる。

 それを昨日の書類と混ざっては大変と、あわてて手に取る私。

 自分の机に座って、顔はオードルさんに向ける。

 「王族の意見で見世物が追加になりました」

 「あぁ、あの見た目のいいのばかり揃えてやる剣の訓練披露の話か」

 「遊撃隊からは6人だせと言ってきたそうです」

 「うちはいいのが揃ってるからな、あはは!頑張れよ」

 俺関係ないし、と笑うオードルさん。

 「誰が出るんですか?」とは私。

 「俺とフランドール、それからフェリペにキリックは確定だ。あと2人は実力も兼ねて決めろと言われた」

 「え、ジェイさん出るんですか?」

 顔はともかく、あの笑みを王族の前で晒すのはやめたほうがいい。

 「仕方ないですよ~、貴族の御婦人、御令嬢に人気がある方強制参加でしょうからねぇ。

 あ、フランドールさん、帽子は新調しますか?」

 「もちろんだよ。いつものように手配してくれ」

 「ありがとうございます」

 あっという間に商談が成立した。

 ふと書類に目を落とせば、人気ランキングなるものがズラリと書かれている。

 「これって」

 「諜報部の女達が張り切って作成したそうだ」

 頬に手の甲を当て肩肘をついて、はぁっとため息をつく。

 (諜報部…そうだ!)

 私はしばらく会っていないあの人を思い出した。

 


 読んでいただきありがとうございます。

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