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補佐官の日常

 軽い変態がいます。

 


 訓練を終え、王城の東にある騎士団本部の建物に入る。

 見習い騎士達はこれから大食堂で昼食だが、私は上司に会わなくてはならない。

 その前に1階にある女性専用浴室で汗を流し、補佐官の制服に着替える。

 ここでは女性もズボンを着用する。

 白いシャツに黒のベストと黒のズボン。ベストには補佐官のバッチをつける。

 髪はメイド時代と同じでお団子ヘアにまとめあげる。 

 2階にある共同執務室に向かい、ドアをノックするが返事はなかった。

 「只今戻りました」

 案の定部屋には誰もいなかった。

 部屋には大きな机と小さな机が2つ1組で、窓際と両壁側に置かれている。それぞれの机の周りは棚などが持ち主の趣味やらでカスタマイズされている。

 ここは遊撃隊第3席から5席までの執務室だ。

 隊長と副隊長は3階の個室であるが、部屋同士はドア1枚で繋がっている。

 ちなみに左壁が第4席であるジェイの机。書類がごちゃっとしているが、いつものことだから仕方ない。

 窓際は第3席の机で、彼の趣味である観葉植物がこれでもかと置いてある。手入れがいいのか、日光がいいのか、彼が育てる植物はとにかく大きくなるらしい。

 右側は第5席の机。彼は書類等を置く棚の横に、もっと大きな私物の棚を持ち込んでいる。ガラスから見える中身は全て帽子。飾り羽のついた無駄に大きな帽子から、コサージュではと思うくらい小さな帽子まで色も形も様々に飾っている。しかもこれ、毎日気分で着用しているからすごい。

 「あぁ、きたか」

 ドアの開く音に振り向けば、書類の束を持ったジェイがいた。

 「ジェイさん、私の机の上まで書類が散乱してますよ。何かお探しだったんですか?」

 「今度の公開演習の会議資料を」

 「ファイルに綴じておいたのに、どうしてわざわざそれだけ持っていくんですか!」

 「関係ないものはいらん」

 「一冊まるごと公開演習資料です!」

 奪い取るように彼の手から書類を取り戻すと、散らばった書類を項目、日付ごとにまとめてファイルに綴じる。もちろんタグもつけて、だ。

 最初に彼の机を見たときは声がでなかった。

 机の上から引き出し、棚の中には方向もバラバラに、ただ積み上げられているといった書類が散乱していたのだ。

 片付けられない男、がここにいた。

 事務室に駆け込み、大量のファイルとタグを事務員と2人で運んだのはやはり雨の日だった。今もなかなか整理できずに、仕方ないから書類入れを作って入れてくれるようお願いしている。

 「今日のお昼はなんですか?」

 「おっちゃん弁当の2番人気らしい」

 左手に持っていた弁当2つを机に置く。

 おっちゃん弁当は騎士団本部に出入り許可されている店だ。ボリュームがあり、味もいいので大人気である。

 「お茶をいれて参ります」

 共同執務室から廊下に出れば、すぐそばにお湯やお茶、カップなどが用意されている小部屋がある。

 1日3回メイドさんが準備してくれていて、使い終わったものもここに置いておけば回収される。

 ジェイがお昼を用意して、私がお茶を入れて2人で執務室で食べる。

 補佐官になってからずっと続いている。

 彼がいない時は食堂で食べる事もあるが、数えるくらいしかない。

 「あ、今日は黄色いゼリーだ」

 果物は傷みやすくなったからか、最近弁当の中身から甘いもの消えていたが、常温でもおいしいゼリーがつき始めた。

 「やる」

 「あ、ありがとうございます」

 甘いものが嫌いなのか、彼はよく果物や甘いものをくれる。

 「では、食べきれないのでこれ、貰ってください」

 「ん」

 渡したのは、弁当の半分を占める揚げ物の1番大きなチキンカツ。

 少ないものでいいと言ったが、面倒の一言で却下され、同じ弁当の中身を交換するなんて恥ずかしいことをほぼ毎日している。

 段々恥ずかしさは薄れてきたが、人前では絶対しない。

 代金も拒否されているので、たまに肩を揉んだりしている。

 これも絶対人前ではしないです、はい。

 「今日は何をした?」

 「メイグ教官の訓練に参加しました。腕と足腰の強化魔法を1時間程持続しつつ、みなさんの打ち込みの相手をしていました。その後は倒れる皆さんを回収させて頂きました」

 「1時間くらいなら反動はでなくなったな」

 「受け止めるくらいですから」

 始めの頃は加減が分からず、打ち込んできた相手をよく吹っ飛ばしていた。それでつけられたあだ名が『怪力補佐官』だった。

 「午後は俺が相手をする。全力でやれ」

 「嫌です」

 「訓練だ」

 「書類整理があります」

 「命令だ」

 「…わかりました」

 補佐官というか事務員みたいなことしかしてないのに、補佐官でいいのだろうかと思う。

 しかし実戦力として請われているので、訓練、命令とあらば仕方ない。

 「また公開ですか?」

 「隊長が立ち会うそうだ」

 私は時々遊撃隊の皆さんと顔をあわせるが、だいたいは訓練参加の時だけだ。

 体術の訓練は面白いくらい身についてきた。

 剣術はダメだが、体術なら上から数えてもらえるくらいにはなった。

 この前も体術訓練をジェイとしていて、倒れた先に目を丸くしたアンリさんがいたのには驚いた。

 あわてて周りを見たら、隊長以下数人が見学していた。

 ガチガチに緊張した私は、まだ訓練を続けていたジェイに一撃で失神させられた。

 そんな事もあって、私は表面上はさん付けするが本当はしたくない。

 ちなみにその後は医務室で目が覚めた。

 もちろん反動を起していたが、また湿布がされていた。

 しかし様子を見に来た医者が「どうした、その手足の腫れ!」と慌てていた。と、言うことはこの湿布は誰がしたか、特に足は脱がせないと手当できないはず。

 ・・・予想はついたが認めたくなくて真相はしらない。

読んでいただきありがとうございます。



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