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第五章 愛と幸せとベア

 美奈恵ちゃんは、大学を卒業すると、働くために都会で一人暮らしを始めました。一人暮らしといっても、わたしもいますけどね。美奈恵ちゃんはリョウ君のことをあきらめてはいませんよ。それは、美奈恵ちゃんが今でもわたしを大切にしてくれているのが証拠です。まだ、美奈恵ちゃんはリョウ君と再会できることを信じています。もちろん、わたしもリョウ君が来てくれることを信じています。


 都会に住み始めてから数年が経ち、美奈恵ちゃんは二十六歳になりました。今日は、美奈恵ちゃんの会社のお友達が、美奈恵ちゃんの誕生日をお祝いするために集まっています。

「美奈恵さん、恋人とかはいないの?」

 一人の男の人が聞きました。

「だめだめ。美奈恵ったら、大昔の初恋の相手が忘れられなくて、今まで付き合ったことがないのよ」

 美奈恵ちゃんではなく、女の人が答えました。

「あのテディベアが、また会おうっていう約束なんだって。二十年も昔のことなんでしょう? もう、相手は忘れちゃっているわよ」

 今度は別の女の人が、わたしを見ながら言いました。

「会うまでは、約束を忘れているのかは分からない。でも、会えたら、それは約束を覚えていたって証拠でしょ」

 美奈恵ちゃんのリョウ君への想いは、きっとリョウ君にも届いているでしょう。


 人は、このようなことを奇跡と呼ぶのでしょうか。

 奇跡は突然やってきました。

 美奈恵ちゃんが二十七歳のときの十一月。美奈恵ちゃんの家を誰かが訪ねてきました。どうやら男の人のようです。宅配便の方や新聞配達の方ではないようです。だって、いつもなら窓から宅配便の車やバイクが見えるのです。今日は、車もバイクも見えません。

 ドアを開けた美奈恵ちゃんと、訪ねてきた男の人の会話が聞こえてきます。

「あの、伊藤さんのお宅ですか?」

「ええ、そうですけど……」

「もしかしたら、覚えていないかもしれないけど、僕は――」

「リョウ、君?」

「覚えていてくれたんだね! そうだよ、僕だよ!」

 わたしのところから玄関は見えないのですが、二人は今きっと抱き合い、この奇跡を喜んでいることでしょう。

「わたし、リョウ君のことずっと待ってた……」

「遅くなってごめんね、美奈恵ちゃん」

 リョウ君は、いつか日本へ帰るためにイギリスで日本との関わりのある会社に入りました。日本支社で働けるようにまでに五年もの月日がかかってしまったのでした。そして、いざ日本に来たときリョウ君にある不安が湧いてきました。美奈恵ちゃんが自分のことを忘れ、他の人と結婚してしまったのではという不安です。リョウ君は美奈恵ちゃんの実家を訪れたそうです。そこで美奈恵ちゃんが都会に住んでいることと、リョウ君は美奈恵ちゃんがまだ結婚していないことを知りました。でも美奈恵ちゃんが自分を覚えているかの不安はまだ残っていました。リョウ君は都心へ出て、美奈恵ちゃんの家を探しました。すると、この部屋の窓からわたしの姿が見えたそうで、心を決めて訪ねてきたのでした。


 リョウ君と美奈恵ちゃんは一年後、結婚をしました。真っ白なタキシード姿のリョウ君は、あの小さかった男の子とは見違えるほどかっこよく――って、当たり前ですよね。十二年も経っているのですから。美奈恵ちゃんも今日は一段ときれいです。ウェディングドレス姿の美奈恵ちゃんは、今幸せでいっぱいなのでしょう。

 二人の仲人はわたしがしたいのは山々なのですが、残念ながらわたしは声を発することができないので、仲人は別の方がなさいました。でも、わたしはずっとリョウ君と美奈恵ちゃんの間に座らせていただいていました。そして、美奈恵ちゃんの大学の卒業式以来、わたしは写真を撮ってもらいました。今までの写真と違うことは一つだけ、リョウ君も一緒に写りました。


 わたしはヴェルナさんに作られ、リョウ君に出会い、美奈恵ちゃんに出会いました。わたしは今でもヴェルナさんの言葉を覚えています。

「わたしのかわいい子どもたち。どうかいい人の元でいい子たちと友達になってね。そして幸せや愛をその子たちに……」

 ヴェルナさん、わたしはとてもいい友達と出会えました。でも、わたしは幸せや愛を与えることができたのでしょうか? わたしはただ見守っていただけなのでは? それに幸せや愛なら、私の方がもらったように思えます。

 わたしが見てきたリョウ君と美奈恵ちゃんのストリーは、これからもずっと続くことでしょう。


ベアが見てきた物語はこれで終わりです。最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。

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