第一章 ヴェルナとベア
わたしは数ヶ月前、ヴェルナさんに生み出されました。ヴェルナさんは何日も何日もかけてわたしを丁寧に作り上げてくれました。
わたしの毛並みは他の仲間とは少し色が違っているようです。これはヴェルナさんが特別に調達した、他ではなかなか手に入らないような毛布を使ってくれたからです。ヴェルナさんは素材にこだわる方でした。わたしの体を縫い合わせる糸や眼も、最高のものを使ってくれました。
わたしが完成した時ヴェルナさんはぎゅっと、わたしを抱きしめて、キスをしてくれました。わたしにはヴェルナさんの愛情と、綿がたっぷり詰まっています。
しかし、別れは突然やってきました。
わたしを作り上げたヴェルナさんはわたしを仲間たちと一緒に戸棚の上に飾りました。そこからは、ヴェルナさんが仕事をするのがよく見えました。ヴェルナさんは、今度はわたしの隣にいるような毛色の、新しい仲間を作っていました。わたしと同じ毛色は、わたし以外にはいませんでした。
いつものように仲間たちとヴェルナさんの仕事を見ていたときのことでした。
男の人が仕事場にやってきてヴェルナさんに話しかけました。ヴェルナさんと男の人はしばらく話をした後、男の人が持っていた袋の中にわたしの仲間たちを次々と入れ始めたのです。その手はどんどんわたしへ迫ってきました。そしてとうとう、男の人の手がわたしを掴もうとしました。すると、ヴェルナさんがわたしに声をかけました。
「わたしのかわいい子どもたち。どうかいい人の元でいい子たちと友達になってね。そして幸せや愛をその子たちに……」
わたしたちは、もう二度とヴェルナさんには会えないと悟りました。
袋に入れられてどれくらいの時間たったのでしょうか。袋から出されたとき、初めて見る景色が広がっていました。ヴェルナさんが使っていた、仕事用の机やはさみ、針箱の姿はありません。もちろんヴェルナさんもどこにもいません。いるのはわたしたちを袋に入れた男の人と若い女の人だけでした。
男の人と女の人はわたしたちを窓辺の棚に並べ始めました。そして、わたしたちの体に、何かが書かれている札をそれぞれ付けました。わたしの札は、他の仲間たちとは少し違っているようでした。
わたしはこの部屋の中に、わたしたち以外にも、札を付けられて壁の棚に飾られている方たちがいることに気が付きました。
見た目はわたしたちとまるっきり異なっている方や、耳などの一部分だけ異なっているような方など様々でした。しかし、わたしが彼らを見たのは札を取り付けられるときだけで、それ以来ずっと窓の外しか見ることができませんでした。
窓の外には人がたくさんいました。男の人、女の人、若い人、お年寄りの人、子ども。さらには、わたしたちのように毛で覆われているのに、四つの足を使って自由に動ける犬や猫という動物が通りかかることもしばしばありました。彼らはわたしたちに見向きもせず、いつもすぐに通り過ぎてしまいます。でも、子どもや女の人、お年寄りの人たちは、よくわたしたちを見て微笑んでくれます。
ここに来て数日が経った日のことです。
一人の子どもが、母親らしき人の手を引いてやってきました。しばらくして仲間の一人が、さっきの子どもに抱きしめられながら窓の外を通り過ぎていきました。
このようなことが何度もありました。特にそれは、人々の衣服が厚くなり、木の葉がすべて落ちきって、白いものがふわふわと空から降り出す頃にたくさんありました。しかし、わたしの仲間たちはどんどん外へ連れ出されるのに、わたしはなかなかこの場所を動くことがありませんでした。手に取られることは何度かありました。でも皆わたしに付いている札を見て、また元の場所に戻されるのでした。
わたしの仲間たちがほとんど外へ出て行った頃、あの男の人があの時と同じ袋を持ってやってきました。そして、わたしたちがここに来た時と同じことを、袋の中の方たちにして、わたしの横に並べられました。
人々の服が少し薄くなり、木の葉が青々としてきて、空からの白い贈り物が現れなくなった頃、やはりわたしの横にいた方たちばかりいなくなって、わたしはまだそこにいました。
みんな今頃どうしているのでしょう? ヴェルナさんは元気でいるでしょうか? この窓の外の世界はどんな風なんでしょうか? わたしはヴェルナさんに言われたように幸せや愛を捧げることができるのでしょうか?
こんなことを思っていたときのことでした。珍しく男の人がわたしを見て微笑みました。そしてその男の人は、奥さんらしき女の人と共に中へやってきて、わたしを抱き上げました。
女の人はわたしの札を見て「他のにしましょう」と言いました。
わたしはまた元の場所に戻されるのだろうと思いました。しかし、男の人はわたしを離しません。奥さんとしばらく話し合った結果、わたしはこの男の人によって初めて外の世界に出ることになったのでした。