秋刀魚 ?
俺は道の端にそれを見つけた。
発泡スチロールのパックに入った秋刀魚だ。
何でこんな所にと腰をかがめ拾おうとしたその時、
「人の物を勝手に拾うな」
背後から叫び声が響いた。
「危ない」
背中に感じた風圧。危機感から更にかがめた背中をかすめるように、何かが空中を滑空していく。
「何だいったい」
「この泥棒が」
幼い風貌に険しい視線。ひらりと身を翻し小柄な少女が俺の前に降り立つ。
「さっさとそれをあたしに返せ」
憤然と背をそらせ少女は俺の手にあったパック入りの秋刀魚を指さす。
「これは君の物か。だとしてもその態度は何だ」
ぎりぎりで激突は避けられたものの、少女の足先は俺の髪の毛を数本持って行ってしまっていた。
俺も憤然と叫び返す。
「こっちは必死なんだ。生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ」
「何をしやがる」
少女は抗議をする俺の手元から秋刀魚を強引に持って行く。
「よかった。シールドは傷ついていない」
俺が取っていないかパックのふちをしらべ、少女は安堵の声をもらした。
「そんなに大切なものなのか」
大仰なその仕草に半分あきれ、俺は改めてその少女を見た。
「お前はいったい」
耳が変だった。と言うかフサフサとした獣毛に包まれたネコ耳というやつだ。
「何のコスプレだ、それ」
「コスプレではない。あたしは宇宙人だ。この耳は天然だ」
俺の疑問に少女はあっさりと答える。
「宇宙人がたかだか秋刀魚の一匹にそんなに必死になるんだ」
「これは秋刀魚ではない。あたしの宇宙船だ」
更なる疑問に少女は更に不可解なことをのたまう。
「嘘をつけ。嘘を」
「嘘ではない。今証拠を見せてやる」
猜疑心に満ちた俺の視線に自称宇宙人少女は自信満々。ペリッと秋刀魚の入ったパックのラップを破って見せた。
「その秋刀魚が大きくなるのか」
異次元空間にしまってあるとか。まさかと思いながら俺は少女の手元。見事に青光りをしている秋刀魚を見つめた。
「宇宙船が勝手に大きくなってたまるか。それでは食べきれない」
言うと止めるまもなく少女は秋刀魚にかぶりつく。
「それは生の秋刀魚だぞ」
さすがにネコ耳。生魚をそのまま食するとは。
「何度も言わせるな。これは秋刀魚ではない。宇宙船だ」
バリバリと頭から秋刀魚にかぶりつきながら少女は器用に言葉を返してくる。
「だって実際食べてるし」
何の説得力もないその姿に脱力する俺の目の前でそれは起こった。
「来た。あたしの宇宙船」
少女の姿が光を放つ。
「だから宇宙船だ。つくづく頭が悪い」
呆れた口調の少女。呆然として言葉を失う俺の姿に侮蔑の視線を送る少女の姿が変わっていく。
宇宙船に。
「何で秋刀魚を食べると宇宙船になるんだ」
「これは最初から宇宙船だ。いくら宇宙人でも生身で宇宙にでられるほど器用じゃないぞ」
完全に宇宙船に姿を変えた少女は小首を傾げるようにその船体を斜めにした。
「それではあたしは母星に帰る」
少女。今は宇宙船は一言言うと大空高く飛翔していく。
「自分が宇宙船になるのは器用じゃないのか。さすがに宇宙人。訳がわからない」
俺も踵を返すと家に戻っていった。
こうして俺の宇宙人とのファースト・コンタクトは失敗に終わった。




