壮途
「カイ、あと数日でここも破壊され生存する可能性はほぼゼロでしょう。
しばらく生きながらう事をお望みなら北上してください」
「世界中はどんな状況なの?」
「主要都市はすべて壊滅、これより残存核兵器による報復合戦で人が生息できる土地はなくなるでしょう。それにより世界各地の火山を一斉に刺激し大噴火が連動します。数ヶ月でマグマオーシャンとなり全ての生物は死滅します」
「宇宙に逃れていたら?」
「マグマオーシャンが落ち着くには数千年かかると思われます。その間を生き抜く術はありません」
現代社会の痕跡は何一つ残せないのか
残さないほうが良いかとも思った。
だがカイ自身が人類の起源や生命の誕生、恐竜絶滅の真相を知りたい同様、いつか地球に再び知的生命体が生息したとき過去に何があったかきっと知りたいし、調べるはずだと思った。
「オリオン、この人類の軌跡を後世に伝える術はないかな」
「できます。カイの血を『この』小型ロケットに入れて宇宙空間に射出します」
画面には子供のオモチャのような小型のロケットの画像が映し出される
「こんなオモチャみたいな物で宇宙にいけるの?」
「はい、オモチャといいますが丈夫に作った風船でも成層圏を越えほぼ宇宙といってもよい場所まで行けるのですよ、このロケットも成層圏まで風船で運んでもらいます。一定の高度に達したらソーラーパネルの発電とダークエネルギー集積装置により宇宙空間へと飛び出します。その後は太陽を周回運動し任意の時期に地球に落下させます。」
「ダークエネルギーって、あのよくわかってない、宇宙空間に沢山あるってやつ? そんなの集めれるんだ?」
「はい、原理は解明されていませんが集めることができるのです。X線はレントゲンで使っていますが正体は解明されていません。サブディスク、狩人のパレット等もその時代に合ったものとは思えない構造物です。はたして何に使っていたかも定かではありません、このロケットも宇宙実験を船外でしたとき偶然できたものです」
「へえぇぇ、分からないことだらけだ。今のオリオンでも分からないの?」
「⋯恐らくわかります」
「えっ! じゃあ教えてよ」
「良いのですか?今の私でも4、5日かかります。その間何もできませんが」
今はそんな悠長なことをしている場合ではない、世界中のオーパーツの真実知ることができる、こんなチャンス二度とないのに
『知っても仕方ないか』
と無理やり自分に言い聞かせ先を急ぐ事にした。
「入れるのは僕の血だけでいいの?」
「はい、もし現代と同じくらいの科学が発展しているのであれば、その血よりカイの情報や知識だけでなく、DNAに記憶されている人類起源の情報の全てを解読できるでしょう」
「わかったよ、そのロケットはどこにあるの?」
「ここより北上します。南は紛争と数日後の火山噴火でほとんどの生物は死滅します。北上し西の山林地帯にある基地に保管されています。
基地も大きく破壊されロケットも破損している可能性がありますがどうしますか?」
答えは決まっている、ここにいて数日後に死ぬのであれば、後世のために出来ることをして死のう、たとえムダな結果になったとしてもなにもせずじっとしているよりはましだし、なにより気がまぎれる
「行くぞ、キッド!」
「はい、マイケル」
久しぶりに2人で笑った。
リュックに兄と母の位牌をつめる、そして数日分の食糧を持ちガレージへ向かう、バイクを起動させて携帯デバイスをコンソールにはめ込む、瞬時にオリオンが目的地までの最適ルートを検索するが、なかなかルートが決定しない。
それもそうだ。内乱や他国からの攻撃で道路は破壊され通行できるかも不確定な状況だ。
「オリオン、だいたいの方向をその都度言ってくれれば適当に走るよ」
「そうですね、高速道路は避けて下さい、通行できなかった時の回避ルートに、より時間がかかります」
「連続で何時間走れる?」
「52時間です。通常でしたら4時間程で到着する距離ですがこの状況です。数十時間、いえ数日かかることも考えられます。」
「まっ、なんとかなるでしょ」といってバイクにまたがる。
最近やらなければいけないことはたくさんあったが決して笑顔でできるようなことではなかった。
数日後には死ぬとわかっているのに、このミッションは何か晴れやかな気分で、まるでピクニックにでも行くかのような心の軽さであった。
自然とハミングを奏でるカイ
その姿を見たオリオンがカイに注意喚起する。
「カイ、わかっているとは思いますが、今、外は戦争中と言っても過言ではありません、十分に気をつけてください」
「了解!」と言ってアクセルを捻る
すると機体が50センチほど浮き前傾姿勢になるとバイクは前進した。
「自動運転いたしましょうか?」
「ん? うぅぅぅん」
「どうしました?」
「いや、あのぉさぁ…平気なの?」
「自動運転がですか?恐らくカイがするより数倍安全だと思いますが」
「いやぁ、そうじゃなくてさ」
「なんですか?歯切れの悪い」
「ほら、うっかり観測可能外の物を観ちゃうんじゃないかなぁ、なんて…」
「あぁぁ、なるほどですね、安心してください、自分自身にロックをかけております、たとえ観測可能な状態であっても観測はできません」
「あははははぁ、そっか、そーだよね、うっかり観ちゃって全宇宙崩壊だなんてギャグマンガじゃあるまいしね」
カイは頭の中で地球がパカっと割れる様を思い浮かべてしまった。
「そうですね。それを見て笑ってくれる人でもいればまだしも、完全なる無ですもんね、笑う人すらいない」
「でも宇宙の外側ってどうなってるんだろうね、本当に気になる、全人類が知りたいと思ってるんじゃないかな。
オリオンは見ようと思えば見れるんだよね? すごく見てみたくない?」
「そうですね。興味はあります。しかしリスクを考えると観れる人はいないと思いますが」
「どうだろう、もし人だったら崩壊覚悟で観る人はいるんじゃないかな、とくに紙一重の科学者なんかヤバイと思うよ」
「好奇心は猫を殺す、という諺があるぐらいですものね、私にリミッターがあって幸いでしたね」
「外側を見た瞬間崩壊するの?」
「私の推測では宇宙が急速に収縮します。それにより時間軸は逆行しビッグバンの時まで逆再生をすると考えられます。」
「え? 過去に戻れるってこと?」
「はい、昔の映画でありましたが、スーパーヒーローが愛する人を亡くした事を受け入れる事ができず宇宙にとびだし地球の自転方向とは逆に高速飛行し逆回転させて時をもどす描写がありました。現実ではそれで時がもどることはありませんが、宇宙が収縮する時には時間の逆行現象が起きると思われます。
ですが戻っている際にカイがそれを認識することはできないでしょう」
「あー なんとなくわかるよ、それ、自分が感じれる時って今しかないからでしょ?」
「その通りです。過去や未来という言葉を知ってはいますが体感はできないのです」
「じゃあ、いいところまで時間を戻して、ちょうどいい所で観測をやめたらそこからまた時間が進むんじゃない?」
「もしそれができたとしてどうなります? 未来の記憶がないのだから同じことの繰り返しですよ。」
「そっか、そうだよね、なんか最後にすごいこと知っちゃったな、みんなに教えてあげたい」
「コペルニクスみたいになりますよ。」
オリオンの冷静な突っ込みに思わず吹き出し呼吸困難になるぐらい笑う、このままでは自爆事故になると思い自動運転モードに切り替える




