第二話:グラフィ家のシステム構成(スペック解析)
生後三年。俺――ジオ・グラフィの「ハードウェア(肉体)」はようやく安定期に入った。
二足歩行のジャイロ制御(姿勢を保つバランス調整)は完璧。
言語処理エンジンも、この世界の公用語をほぼ完全にインストール済みだ。
俺は屋敷という名の「巨大サーバー」を巡り、そこに常駐する働く人々たちのスペックを精査することにした。
「ジオ様、またそんな隅っこを歩いて。計算外の段差で転倒されると、私の胃に穴が開きます」
声をかけてきたのは執事のダスクレアだ。
(……この屋敷のシステム管理者。父さんの学生時代からの友人らしいが、サボり癖のある父さんを怒鳴りつけるその姿は、完全にバグを許さないデバッグ部長だ。魔力波形は極めて規則正しい。規律の権化だな)
「あらダス、ジオ坊ちゃまを怖がらせないで。坊ちゃま、こちらへ」
メイド長のファニアが俺を抱き上げる。
(屋敷のファイアウォール。母さんの親友で、母さんに仇なすものには容赦がない。父さんへの対応が時折、エラー警告レベルなのが面白い。魔力の密度が異常に高いな……怒らせると物理法則が壊れそうだ)
俺はニアの腕の中で、屋敷を支える他のインフラたちも観察していく。
ボケ担当だが仕事は正確なエミール、商家出身で計算能力が高いのにデスマーチに追われるカステリアン、そして俺を全肯定して甘やかしてくれる、最大のバックアップ(予備の心の支え)ジェレミア。
「ジオ坊ちゃま! 今日もお花が綺麗ですね!」
(……ミア、そこを歩くとニアに怒られるぞ)
ミアの笑顔に癒やされつつ、俺は外の庭へと目を向けた。
(最長老の庭師、ロー爺。魔力回路が年季と共に環境と同化している。異大陸のOS(基本思想)を持つ彼なら、俺の現代知識も案外受け入れるかもしれないな)
その隣で必死に作業する孫のハン。長男シェイドの親友だが、動作効率が悪い。根性はあるが、オプティマイズの余地が大いにある。
そして、厨房から漂ってくる美味そうな匂い。
(料理長オリー。元軍人の頑強なハードウェアを持ちながら、スライムという不定形バグを怖がるという致命的な脆弱性(弱点)があるようだ。だが、あの性格なら俺の『キャンプ飯の知恵』を面白がってくれるかもしれない。検証のしがいがあるパートナー候補だ)
最後に、屋敷の入り口に立つ巨躯。
(自警団長ガル。祖父の代からの重鎮だ。彼から漏れる魔力は、レーダーのように屋敷全体をスキャンしている。パッシブ・センサー(受動的な検知魔法)か。彼にだけは、俺の隠密デバッグもバレかねない。要注意人物だ)
父ブルックと母メリア、そして四人の兄たち。
この多種多様なモジュール(構成要素)が組み合わさって「グラフィ家」というシステムは動いている。
「ジオ、何を一人で考え込んでいるんだ?」
父さんが近づいてくる。俺は即座に、幼児特有の「無邪気な笑顔」というカモフラージュ(偽装)を展開した。
「おとうさま、みんな、たのしそう!」
「ははは! そうかそうか。ジオが笑っているのが一番だ」
父さんが俺を持ち上げる。よし、カモフラ(偽装)は完璧だ。
これだけ個性的で優秀な人員が揃っているなら、俺がこっそりデバッグして全体の効率を上げてやれば、この家はもっと良くなる。
50歳の知性を隠し持ち、俺は「最高の隠居……いや、二度目の人生」を謳歌するための基盤整備を、密かに心に誓うのであった。




