淑女は可憐に優雅に嗤う
「私ね、思ったんだけど」
目の前の友人は不思議そうに首を傾げた。
「色々と馬鹿らしいな〜って」
どういうこと?と、友人は目線で促してくる。
「女は貞淑であれ、従順であれって言われるじゃない?」
「⋯⋯そうね」
「何で女だけなの?って」
友人は驚いて目を剥く。
「男は「若さゆえ」で許されて、女にだけ苦痛と理不尽を要求するのはおかしいと思わない?」
おかしいも何も、それがこの国の常識だ。
「例えば女があのクズ男みたいに振る舞えば、やれ尻軽だの娼婦だのと言われるじゃない?」
クズと言われた男は見間違いなくウェルシーナの婚約者だ。
最近貴族に引き取られたという、礼儀もなってない元平民の美少女の取り巻きの一人。
「あんな病気持ってそうな奴に近寄りたくもないのに、親は多目に見ろとか、結婚すれば変わるとか、訳分からないこと言うし」
あのクズが変わる訳ないじゃないねぇ?
と、同意を求めると、友人は首を傾げて曖昧に笑った。
その友人の婚約者だって取り巻きの一人だ。
「だから、こうなったら皆んなで同盟を組もうじゃないか!と思ったの」
「同盟?」
「そう!あっちが友達と言い張るならね⋯⋯」
ふふっ⋯⋯と笑って友人に楽しい計画を耳打ちした。
「この間のテスト、お姉様方と勉強したおかげでとても点数が上がったんです!」
「まあ、そうなの?」
「はい、ありがとうございました」
「頑張っていたものね」
「お姉様方の教え方がとても良かったのです」
「役に立てて嬉しいわ。ああほら、もっとお食べなさい」
「そうそう、あなたの好きなお菓子を沢山用意したのだから」
「ありがとうございます!」
「ふふっ。テストを頑張ったご褒美は何がいいかしらね?」
「そんな、僕は勉強を見てもらっただけで充分です」
白くまろい頬を薔薇色に染める様は、こちらが崩れるくらい可愛らしい。
「モーニングはこの間見立てたし、今回は気のいい馬でもどうかしら?」
「あら、クラバットに合うピンブローチがいいわよ」
「わたくしはブレスレットを注文してしまいましたわ」
「ディレクターズスーツなんてどうかしら?」
きゃっきゃとはしゃぐ令嬢達に、中心にいた令息は遠慮がちに笑う。
「今まで充分いただきましたし⋯⋯」
はにかんだ笑顔に「プライスレス!」と言いたい。ヤバ可愛い!と、一緒にいたみんなで内心で悶絶する。
淡い金髪に空色の瞳、成長途中のような華奢な体型は、年上女性の庇護欲をそそる。
「お姉様」と言われるだけでキュンキュンするのだ。
「おいっ!ウェルシーナ!」
夢見心地の中で怒鳴り込んできたのは、クズ婚約者だ。
「お、お前!」
お前じゃないし、呼び捨てとかしないで欲しいわ気持ち悪い。
「ーーなにか?」
そりゃあ蕩けた笑顔も一瞬で真顔になりもする。
「お前達は一体なにをしてるんだ!」
「なにって⋯⋯見て分からないのですか?お茶会ですわ」
しれっとウェルシーナはお茶を含む。
「こんなお茶会あってたまるか!」
いや、実際してるじゃない?
「こんなことをして、恥ずかしいとは思わないのか!」
「え?全く思っておりませんが?」
というか、お前らの方が見てて恥ずかしいわ。
「そちらの女性はお友達でしたっけ?」
友達だから一緒にいるのだと、盛大に宣言していた筈。
視線を向けると、元平民の女はビクリと肩を揺らし、怯える振りをしてみせた。
「こちらの子息は私達の公式の弟ですもの。優しくするのは当然です」
ーーそれに。
「男女間での友情は愛情になり得ますが、弟ですと家族愛の範疇ですもの」
「弟だと?そんなの屁理屈だろう!」
「きゃあ〜怖いですぅ〜!」
そう言って男性にしがみつく媚びの含んだ声に、周囲の温度が下がった気がした。
「あれ?その声やっぱりミラ」
女性陣に囲まれている子息が、ひょこっと顔を出した。
「ーーえ?」
「あ、やっぱりミラだ。ここでもまだそんな事してたんだね〜」
呆れたように笑う令息に見覚えがないのか、元平民のミラは首を傾げた。
「まぁ、覚えてないのも無理ないか。僕は背も小さかったから、ミラの好みではなかったもんね」
「「「「は?」」」」
ミラの取り巻き男性達はポカンとした表情で、令息を見た。
「あの頃も思ってたけどさ、お金があるか顔がいい男にしか寄って行かなかったじゃないかミラは」
ピキリとミラの表情が凍り付く。
「平民街でも娼婦紛いの女扱いされていたけど、キミどうしてここにいるの?」
「⋯⋯え?」
「だってミラってあの好色男爵の愛人になったんでしょ?」
その言葉に周囲が静まり返る。
「ーーあ、愛人?」
「養子ではなく?」
「あ〜建前はそうなってるんだ。でも実際は愛人だよね?」
ミラに侍っていた男達は、驚きと共に半歩ほど後に下がった。
「どうせあの好色男爵にでも言われて、貴族の弱みでも握って来いくらい言われたんじゃない?」
うわぁ⋯⋯と、それを聞いていた人々がドン引きしている。
「それにさ⋯⋯」
ミラの頭から爪先までを眺め、軽く肩を竦める。
「僕でも1ヶ月で身に付けた必要最低限の礼儀さえなってないみたいだけど、ミラは毎日なにしてるの?」
心底不思議そうに問うその目に気圧されて、ミラはジリジリと後ずさりをした。
「え⋯⋯あ、あたしは」
「それに、ミラって僕より3歳年上じゃなかったっけ?」
ーーとっくに成人済みで、あのブリブリ演技してたんかい!
「まぁ、その童顔で初心なフリして色々な男騙してたみたいだからね〜」
平民街でも評判最悪だったもんね。
と、爽やかに笑う令息に、ミラは顔を真っ赤にして、鬼のような形相で睨む。
「はぁ?フザケんな!アンタなんなのよ!」
「ニールにダット、カイにアベルにリューク⋯⋯みーんな、ミラのこと恨んでるよ?」
その名前に覚えがあったのか、ミラはザッと顔を青くした。
「⋯⋯恨まれて殺されないようにね?」
「ヒッ!」
その言葉にミラは蒼白になって、脱兎の如く逃げ出した。
「やれやれ、やるならもっと上手にやればいいのに⋯⋯」
そう言ってお茶を飲む姿は、実に晴れ晴れとしていて優雅だった。
「いえーい!お疲れ様!」
ウェルシーナがシャンパングラスを掲げると、みんなは憑き物が落ちたように笑ってグラスを掲げた。
「リアくんもお疲れ!」
「いえいえ⋯⋯」
「もうリアではなく、アメリア様と呼ばなくてはなりませんね」
「様はいりませんって〜」
「じゃあアメリアさんで!」
ふふっと笑ってから、ウェルシーナはチーズを口に入れた。
「ほんと、ウェルシーナ様から提案された時は驚きましたけど」
「まさかこんな美少年のような美少女を連れて来るなんて、ねぇ⋯⋯」
「前に下町の劇場に行った時に、端役で出ていた彼女の演技が上手で気になってね」
「見事な美少年振りでしたわ」
「ありがとうございます」
照れたように笑う顔は、可愛らしい美少女だ。
「アメリアのことはこれからも支援するから、安心してちょうだいね」
「有り難いです」
「劇団のトップ女優になれるよう、私達も応援いたしますわ」
「ありがとうございます」
「さーて、明日から忙しくなりますわよ!」
先ずはあのクズ婚約者共をなんとかしなければならない。
「まぁ、暫くは再起するのも難しいかもしれませんわね」
「その間に色々進めなくてはなりませんわ」
「大体、か弱い女性が社交会で生きて行ける訳がないのにね」
「私達を馬鹿にしすぎです」
「考えが甘いというか⋯⋯夢見すぎですわね」
「きゃーお貴族様怖ーい!」
アメリアの棒読みにみんなは一斉に笑った。
女の結束はある意味強い。
「一度走り出したらとことんまでーー」
そんな時には派閥なんて関係なく結束するのも、また女なのだ。
「私達を侮ったのが悪いのですわ」
そうして女達は可憐に優雅に笑う。
様々な感情を笑顔で隠し、微笑みで乗り越える。
それが淑女である彼女達の在り方ーー。
男装の美少女って萌えるよねwww
12月22日で日間2位
12月23日で日間1位になりました
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