A3.謝罪と歓待−1
※時系列は「A2.非公式会談の後」の後となります。
A3.謝罪と歓待−1
副団長キクナラクナが黒い霧に消えたあと、カクナロクナ元老院議長が胸元を静かに整えた。
(白いスカーフ?)
僕の気のせいかもしれないけれど、会談前には首にスカーフをしていなかったはずだ。
議長が、異世界人たちを前にして、一礼した。
胸元から真新しい白のスカーフを取り出すと、遺体の顔にそっとかけた。
――白は葬送の色だ。
議長が、静かに祈りの言葉を口にした。
王国の最高位にふさわしい、最大の弔意の示し方だった。
僕はこれまで、異世界人の従者など気にも留めていなかった。
おそらく議長もそうだったはずだ。
(……そうか)
非公式会談で合意した密約の一つだと気づいた。
入浴や宴も、そうだったに違いない。
(僕ではなく、わざわざ自分の娘に命じるくらいだからな)
「まずはこの場をお借りして、亡くなられたリョウ様の安らかな眠りをお祈り申し上げます。あわせて、此度の不幸な出来事について、深くお詫び申し上げます」
議長が、流暢な異世界語で謝罪の言葉を述べた。
「後日、改めて公式の場にて謝罪いたしますことをお約束いたします。まずは略式の段、どうかご容赦ください。――さて、今回の不幸な出来事につきましては、帝国兵を抑止できなかった王国側にすべての責があり、皆さま方にはいかなる過失もございません。また、ヴェガ殿よりご依頼の件につきましては、代表者のケイ様と協議のうえ、最大限の便宜をお約束いたします」
「失礼」
女性の一人が声を上げた。
「不敬だ。許可あるまで発言は控えよ」
僕は低い声を出して、たしなめた。
議長が一瞬、僕に視線を向けた。
「申し訳ありません。配下の者の不作法、わたくしの不徳の致すところです」
「どうぞお顔を上げてください。――わたくしが甲斐です」
さきほどの女性が一歩前に出た。
不敬だが、僕は指摘しなかった。
「まずは、故人に温かいお言葉を賜り、心より感謝申し上げます。遺族にかわりまして御礼申し上げます。また、その不幸に対する謝罪も、慎んでお受けいたします。ただし、その賠償につきましては、あらためてお話させていただきたく存じます。さて――ヴェガとは、降鷲のことでよろしいでしょうか?」
「はいそうです。由来はアラビア語だと伺っております」
「……そうですね。――降鷲とは面会できますでしょうか?」
「手配いたします。もう一人の方も、ご希望でしょうか?」
「可能であれば、お願いいたします」
「承知しました。――このあとの予定ですが、第一に故人様の冷暗保存、第二に皆さまへの加護による王国語の付与。第三に入浴によるご休息。第四に改めて謝罪と歓待の宴を執り行う手筈となっております」




