表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/36

B5.暗殺者−2

B5.暗殺者−2


 キクナラクナが、左から逆袈裟に降鷲を斬り上げた。

「おのれ!」

 ――カキン!

 金属音が通路に響く。

 降鷲は真っ二つに斬られたが、それは石の人形だった。

「しまった!」

 黒い霧が、キクナラクナの手首を押さえつける。落とした剣先から霧が消えた。

「まったく惜しい。どれでもいい――〈上級魔術師(アークウィザード)〉の一つがあれば見破れたものを」

 剣を拾い上げたカクナロクナが、娘に諭した。

「お父様!」

「〝お前も〟操られている。国王陛下から拝領したものはどれだ?」

「何のことだ!」

 キクナラクナが身をよじる。

「じっとさせてくれないか? 罠解除は得意じゃあないんだ」

 降鷲が手をかざし、宝珠を探した。

「ないぞ。護符アミュレットか? 刺青タトゥー?」

「女神様の紋章か、聖なる言葉か――いずれかだろう」

「髪の毛で見えないとか? ……違うな。――あった」

「どこだ?」

「胸骨だ。正しくは、胸骨体を中心に肋軟骨に刻んでいる」

「分かりやすく言え、ヴェガ」

「心臓を中心に、胸の骨に紋章を刻んでいる。――この国で聖なる言葉は何文字だ?」

「四文字だ」

「もっと多い」

「十五文字だ。――『光あれレット・ゼア・ビー・ライト』」

「七文字ずつ左右に、最後に中心センターで……違うな。句点ピリオドだ。頭だ」

「いやあ!」

 クナロ伯爵の黒い霧が、毛髪をかきわけ頭皮を探った。

「ないぞ」

「じゃあ、正中線上のどこかだ。口蓋こうがいは?」

「どこだ?」

「口の中」

「あった」

 舌の裏に、淡い黒子ほくろがあった。

「私ならもう一つ二つ、罠を仕掛ける」

「執念深いな」

「用心深いと言ってくれ。『慎重、臆病、謙虚』だよ。『軽率、勇敢、強欲』で長生きした者はいない。……私なら、解除した途端に起動する何かを仕掛ける」

「他に魔術具はないぞ」

「では、暗示あんじか条件反射だな」

「そこまでするのか? だとしてもこの子の魔術では、私を殺しきれない」

「心をあやめればいい」

 その言葉に、カクナロクナが絶句した。

「……」

「……何をしている?」

「深呼吸。……〈光〉の魔術の呪文を唱えてくれ」

「ノーモーションで起動できる」

「唱えたほうが気がまぎれる」

「チッ」

 カクナロクナが舌打ちした。

「……『われこの世のことわりときほぐす。理の女神よ、理の女神。貴女あなたに告ぐ。貴女の御使みつかいにして光の精霊よ……』」

 〈闇の上級魔術師ダーク・アークウィザード〉の手に光が集まる。

 降鷲が手首を回転させた。

 ――カチャ。

 解除の音。

「……ぼどゔざば(おとうさま)

「キーラ!」

 声を聞いたクナロ伯爵が、娘を抱き起こした。

 次の瞬間、キクナラクナの手刀が、カクナロクナの首を切り裂いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ