B4.暗殺者−1
B4.暗殺者−1
降鷲が指折り案分する。
「……時間だ」
祈るように頭を垂れた。
「……ああ」
カクナロクナが同意する。
魔術で殺害した「降鷲の死体」の検分の時間だ。
「……小細工できないか?」
降鷲の「死体を偽装する」提案に、カクナロクナが失笑した。
「フッ、冗談だろう。――見誤うはずがない。私の命を奪う、最初にして最高の手札だ」
カクナロクナが降鷲を指さした。
「だからこそ、小細工が効く」
一秒。カクナロクナは「天使が通りすぎる」まで待った。
「……名もない〈濡れ仕事屋〉、ではない?」
「暗殺部隊のなかには、あなたの手の者もいるだろう。私淑――隠れて学んでいる者もいるかもしれない。その可能性がある者を使うことはない。であれば?」
カクナロクナが脳裏に浮かんだ人物を、降鷲が告げた。
「国を憂うあなたは、国のために死を選ばない。では、あなたは誰のためなら死を選ぶだろう」
「〈四文字語〉!」
「同意見だ」
*
――カツン、カツン。
石造りの通路に、軍靴が響く。
ゆっくりとした歩調で、剣を抜く。
王国騎士団の略装の女性が、剣を手に通路を歩んでいた。
――暗殺者は急がない。
必要な時に、目標の人物を殺めるだけだ。
騎士団副団長キクナラクナの表情は険しかった。
(ふう……気が重い)
キクナラクナの敬称「〈闇の魔術師〉クナラ女男爵」――それはクナロ伯爵令嬢を意味する。
王国摂政の第四子にして、史上最強の〈闇の上級魔術師〉の娘だが……。
キクナラクナは欠陥品だった。どうあがいても〈上級魔術師〉にはなれなかった。
ゆえに、母亡きあと騎士団に入り、剣に〈闇〉魔術を付与して王国に貢献してきた。
それも父――クナロ伯爵の一助となればよいとの考えからだった。
(父が、王命に違えるなど……)
信じられなかったが、大伯母の公爵閣下から命じられれば、応じるほかない。
――カチリ。
起動音のあと、石片の衝撃が床や壁に伝わってくる。
議長は無事、異世界人を殺害したようだ。
用心のためキクナラクナは、剣を左に持ち替えて近づく。黒い霧が刃にまとう。
隠し扉の前に立っていたのは――。
――果たして、異世界人の降鷲だった。
奥の部屋に、父の指輪が光った。
「おのれ!」
キクナラクナが、左から逆袈裟に斬り上げた。




