B18.再封印
B18.再封印
一度の拷問では屈しなかったカクマリクマに、降鷲が低い声で告げた。
「指は二十本ある」
「……」
「――とはいえ、時間が惜しい。カササギさんはどんな封印をしたんだ?」
再び封印を施すつもりらしい。
「格子形の魔術式でした。単なる線だけで、どうやって封印したのか……まるで理解できませんが」
直接見たカクナロクナが、宙に指を走らせる。
見様見真似のその線を見て、カクマリクマが憤怒の表情で睨んだ。
「なるほど。――こうかしら?」
降鷲が指一本で、横に一列、縦一列と、格子に描いていく。
横五本、縦四本、計九本の線が格子を形づくる。
その瞬間、魔術式〈ドーマン〉が起動し、カクマリクマの胸に刻印された。
線が一本ずつ、心臓に向かって沈んでいく。
「!」
カクマリクマは悲鳴の声すらあげられない。九本の線が籠となって、心臓を捕らえた。
「前回と同じじゃあ趣がないから、これを足しておく」
降鷲が一筆書きで五芒星を描く。
同じように、魔術式が刻まれた。
「この星形は?」
「さっきの術式と対になっている」
「全然似ていませんが?」
キクナラクナには違いが分からないらしい。
「『セーマンドーマン』――〈セーマン〉の五芒星は一回で描ける。だが〈ドーマン〉はそうはいかない。一と九、単数と複数で一対だよ」
「一は全、全は一ということでしょうか?」
キクナラクナが仮説を述べた。
「正解。体現すれば、解けるよ?」
カクマリクマの表情が苦痛に歪む。
「その顔は、カササギさんにも同じようなことを言われたのか。悪党は懲りないな」
降鷲が静かに笑った。
「しかし、よくできた人形だな。本人と完全に同期しているかい?」
「でないと、使いものにならないからね」
カクナロクナが即答する。
「同期を解除すれば、逃げられるだろうに」
「本人が何か妙なことをすると、カササギさんに知られますからね。――おそらく、この人形を母体として他を操っているのでしょう。術を解くと、操術できなくなるはずです」
だからこそ、伯母に足枷があることで、カクナロクナは安心していたのだろう。
「本人の〈ドーマン〉を消すのではなく、影を媒介にして威力を喪失させたのか。ということは、実質こちらが本体だな」
公爵は〈土の上級魔術師〉だ。完璧な土人形を作るだけの技量がある。
降鷲が爪の裏から針を引き抜く。
途端に流血が止まり、カクマリクマの指が再生し始めた。
「この土人形が誰を操っていたか、調べる必要があるな。直接訊いても嘘を言うだろうし。ふう……じゃあ、私を収監してもらうか」
「はい?」
「え?」
カクナロクナとキクナラクナが同時に声を上げた。




