B17.陰謀−2
B17.陰謀−2
帝国との極秘文書には「帝国リヴャンテリ皇帝および勇者コウヅキ、ならびに王国元老院議長カクナロクナ」の三名の署名が記されていた。
「――父上?」
驚愕のあまり、キクナラクナの声が裏返る。
「操られていた時のものだ。本人の意思ではない」
降鷲の声には、確信と冷静さがあった。
「イニシャル?」
欄外に、かすかに滲んだ一文字があった。
キクナラクナが目を凝らすが判読できず、文書を上下逆さにして確認する。
「小文字の『k』?」
「『k』なら、カササギさんでしょう」
「カササギ……さん? どなたなのですか?」
キクナラクナが父に問い返した。
「お前が叙爵される以前、先代勇者様の〝巻き添え〟で召喚された人物だ。カササギさんは公爵閣下を封印したのだが、いつの間にか解かれたらしい」
カクナロクナが、伯母のカクマリクマを見下ろす。
「どんな人物ですか?」
降鷲が詳細を求めた。
「『兎が死ねば、猟犬は殺される』と言い残し、旧王宮であるリヴャンテリ宮殿の奥に消えました」
「『狡兎死して走狗烹らる』――日本人ですか?」
「そう伺っています。カササギさんは、暴力ではなく通商で紛争を解決しようとしました。実際には、前の神聖リヴャンテリ王国の大公を反逆者として処刑し、それに縁する新王族をすべて平民としました。王国は共和制となり、リヴャンテリ共和国となりました。共和制に貢献のあった人物――カササギさん以外――は帝国に招かれ帝国貴族となりました」
物語を話すような棒読みだった。
(よくある話だ……)
降鷲には、その後どうなるかを予測できた。
「私は、大伯母の監視役として共和国に残りました。しかし、旧派閥の台頭から公爵閣下が復活し、君主制に逆戻り。神聖リヴャンテリ新王国となったのです」
(フランス革命を思い出す……)
一七八九年のフランス革命から、一八七〇年に第三共和政になるまでの八十一年間で、「自由と平等」の共和制だったのは、たった十一年しかない。
「選挙は?」
降鷲が素朴な質問をした。
「実施されました。ですが、旧派閥の介入による不正があったとして無効とされ、共和国議会は停止。一時的に王国元老院が復活し、現在に至ります」
「そのカササギという人は、無責任すぎるだろう」
「貿易によって、民が豊かになったのは本当です。事実、魔族の進攻はありません。魔王国も豊かになったからです」
「では、なぜ勇者召喚をしたんだ? 今さら少年少女を略取する理由がない。であるなら、復讐か? 公爵閣下?」
カクマリクマは黙したままだった。
「指は二十本ある」
降鷲が恐いことを言った。




