A2.非公式会談の後
A2.非公式会談の後
貴賓室のドアが開かれた。会談の終了だ。
カクナロクナ元老院議長が手を上げると、待っていたとばかりに衛兵が雪崩れ込んだ。
異世界人の男が手錠をかけられ、連行される。
その姿に僕は笑いが込み上げてきた。王国のあり方を否定すれば極刑は免れない。
勇者の少女が「おじさま!」と叫び、駆け寄った。
「問題ない。時を待て」
男が片手を動かし、静かに諭した。
(えっ?)
言葉だけではない、男の所作で勇者が笑顔を見せた。
(あれは……)
その直後、美しい女が両手を上げた。公爵閣下と僕を締め上げた暴行魔だ。
衛兵に手錠をかけられる。
「胸に触るな」
女が反動なしに、衛兵を蹴り上げた。三人まとめて倒れる。
衛兵が取り囲み、剣を向けた。
「やめんか! その者を含め、異世界人の身柄はこの私が保証している」
議長の号令で、衛兵が剣を鞘に戻した。
「――だったら先に言え」
議長を睨み、女が吐き捨てた。
「控えよ! こちらにおわす御方は――」
「――お前のような人間が国を滅ぼすんだ」
僕の言葉を、女がさえぎった。
「若く、才能があり、それを当然のごとく享受している。一切の迷いなく、国のため、その身を使おうとしている」
「それの何がいけない!」
言い返した僕に、やや背が高い女が目を細めた。
「榛名」
軽く手をかざす男に、女が失笑した。
(まただ……何のサインだ?)
「『悪意の想像力がない人は、愚者である』――確かに……ふう」
(そんな複雑な内容を伝達できるのか?)
僕には男の指示が疑問だった。
「連れてゆけ。丁重に、な」
「議長!」
僕が声をかけた。
議長の表情は険しかったが、目は穏やかだった。
少なくとも難局は切り抜けた。
「お前か……ご苦労だった。まずは皆さまを貴賓室に案内せよ。――いや私が行おう。お前には別の指示を言い渡す、待て。――キクナラクナは?」
議長の前に黒い霧が立ちこめると、騎士団副団長キクナラクナが膝をついていた。
「――御前に」
「皆さまに、入浴の準備を」
「入浴でございますか? 湯浴み、ではなく」
「そうだ。蒸し風呂でもない。湯船だ。ふんだんに使え」
議長が軽く手首を回すのを見た。ハンドサインだ。その家の者でしか分からない。
「――かしこまりました」
「そののち、謝罪と歓待の宴を催す。すべての宮廷魔術師に通達せよ。行け」
「ははあ」
頭を下げた副団長が立ち上がる。――黒い霧に包まれると、すぐに消えた。




