B13.断固非難する
B13.断固非難する
降鷲の退避の号令で、各自が車両へと向かう。RUFRGTを含め、車両はすべて防弾仕様だ。
最初に異変に気づいたのは、陸奥だった。
「なんてこった」
先頭のランドクルーザーのフロントウィンドウが割れている。だが、火矢から延焼していなかった。
「熱く、ない?」
手を伸ばした瞬間、火矢が霧の中に溶けるように消えた。まるで映像ノイズのように。
「陸奥?」
「旦那、幻影だ、コレ」
「ふう……じゃあ、山城は?」
降鷲が自問した。
(決まっている。飛礫は別動隊(の仕業)だ)
となると、迫り来る二足歩行の爬虫類も疑わしい。
深呼吸した降鷲が、一つ手を打ち鳴らした。
陸奥が瞬きすると、異形の敵は人間の甲冑兵に戻った。
「催眠?」
「たぶんな」
「十一時!」
長門が叫び、左斜め前方向に注意を向けさせた。
「陸奥!」
甲斐がランドクルーザーから、カラーボールを投げてよこした。
「あいよ!」
蛍光オレンジは、自然界にない色だ。
ナイスピッチング!
「チッ!」
手応えはあったが、どうやら外したらしい。
ともかく、石片を投げていた敵は逃げ去ったようだ。
残りは、爬虫類に偽装した人間の兵との戦いだった。
RUFを背にし、前後のランドクルーザーから応戦した。
右側の防衛は、甲斐が合気で兵を転がし、陸奥が掌底で敵の胸を打ちつける。
鎧を貫通して肋骨を砕き、動けなくする。
左側では長門が槍を奪い、まるで製図するような正確さで操り、音もなく関節を断ち斬った。
降鷲と霧島はその護衛だった。
軍楽が変調した。
兵が引くと同時に、ゆっくり霧が晴れていく。
やがて石畳の先まで見渡せるようになった。
そこは、石材で築かれた巨大な堂だった。
甲斐がざっと目算する。
(ケルン大聖堂よりデカい?)
ドイツのケルンにあるザンクト・ペーター・ウント・マリア大聖堂(ケルン大聖堂)は、身廊――入口から祭壇にかけての空間――の高さが四〇メートルを越える。
傍らに、山城の遺体を抱く榛名がいた。
(逃げ遅れたのに、どうして殺めなかった? チッ。兵の理はどこも同じか)
残された婦女子は戦利品だ。
(やるせない)
「おじさま!」
ドアを開けた織苑紬が、降鷲にしがみつく。
周囲は血の海だった。
「ゴホン」
空咳がした。
祭壇らしき前に、小さな人影がひとつ見えた。
「ようこそ、勇者様」
礼装した緑髪碧眼の美少年が、血みどろの一行に微笑みかける。
「私の名は、ヴェイミン・リーン。この召喚の――」
その声は澄んでいたが、場違いなほど無垢だった。
「――黙れ!」
陸奥が一喝した。ヴェイミンが震え、縮こまった。
「榛名」
降鷲が恋人を亡くした女性に声をかけた。
「どうしてこんなことに……」
「……いや、あのですから、魔王を討伐するために、そちらの勇者様を召喚させていただいたのです」
「バカなの?」
甲斐が目を細め、紬の頭を抱きしめた。
「断固非難する」
降鷲が、外交表現(外交プロトコル)で「相手の言行を過失と認めて、責める場合に用いる最大の批判」をした。
「ゆっ、勇者に選ばれるのは、最大の名誉なのですよ?」
ヴェイミンが震えながら、説明した。
「軍事目的で少女を略取する? そんな行為の何が名誉か? その行為の、どこに正義がある? 人を傷つけ、殺めながら謝罪の一つもなく、自国の利益を優先する、そんな行為の何が名誉か?」
「リョウを還して!」
榛名の絶叫が石堂に木霊した。




