B12.霧の中
B12.霧の中
霧の中、ソリッドホワイトのRUFRGTが静かに停車する。
続いて、同色のランドクルーザーも呼応して停まった。
「リアフォグも効かないとは……」
RUFの運転席で、降鷲重工業保安部課長の甲斐が目を細める。
かつての美女も年を経て老眼だが、運転に支障はない。イエローのナイトグラスは仕事用だ。
『甲斐さん』
音声通信は、後続の一号車からだった。
「陸奥か。旦那(降鷲)を起こしてくれ。――予感どおりの最悪になりそうだ」
右助手席の織苑紬がゆっくりと瞬きした。今年十七歳、茶泉学院大学修士課程在籍(M1)、理論物理学専攻。降鷲重工業が未成年後見人として彼女を支えている。
『了解です』
「山城?」
甲斐が先頭車両に呼びかける。
『二十メーター前です。パッシングしてもらえますか?』
RUFのリトラクタブル・ヘッドライトが、一瞬光る。
「こっちは、リアフォグも見えない」
『あー、すみません。点けます』
「(惚気やがって――)確認」
山城の三号車は、一号車と同型のランドクルーザーだ。
「ただ、やはり見えにくい」
甲斐が霧の向こう、天空を仰ぐ。
白い靄は、なお濃く、動かない。
(どうする?)
『バックしましょうか?』
山城が気づかった。
「いや、周囲を警戒して指示を待て」
紬以外、全員がプロフェッショナルだ。「おかしい」と感じたら、不用意な行動は慎む。この場合、山城自身が「おかしい」ことになる。
ドアの開閉音。
後ろのランドクルーザーから、降鷲が降りてきた。
降鷲重工業の創業者だ。不惑前に現役を退き、今は後進の育成に力を注いでいる。
「あ、そのままで。……三宮じゃあないよね?」
甲斐がサンルーフをスライドさせ、降鷲の指示を待つ。
「そもそも日本かどうかもあやしいです」
アスファルトだった舗装路が、石畳に変わっていた。
幅は四メートルほどだろうか。だが、その敷設は異様にていねいだった。
降鷲が踵で石畳を踏みならす。
「しっかりしていますね。まるでアッピア街道のように」
音を聞いた甲斐が例にあげたのは、ローマ街道の一つだ。
「……あの」
織苑紬が眉をひそめる。
「判断は後だ。状況を整理しよう」
「はい」
織苑紬が、降鷲に笑顔を見せた。
「まずは点呼。――何?」
その瞬間、前方に光が広がる。
眩い閃光が、周囲を警戒していた山城と榛名に迫る。
「チッ! 触るな!」
何かを感じた降鷲が警告した。
山城が光の束に手を触れた途端、飛礫が弾丸のように飛んできた。
(無音?)
降鷲の声に横に避けた山城だが、軌道が変わり額に接触した。
小さな石片だったが、山城の頭半分が失われた。
「リョウ!」
隣の榛名が、倒れた山城の胸にすがりつく。
「退避!」
降鷲の叫びは、高らかな軍楽の響きにかき消された。
霧の中、数万の火矢が降りそそぐ。




