B10.予兆−2
B10.予兆−2
スコーティアホワイトの三菱ランサーエボリューションⅣが駐車場に入ってきた。
すぐに陸奥だと分かった。――JASMA(日本自動車スポーツマフラー協会)基準に適合したHKS製のマフラーは、深みのある音を響かせる。
「遅れましたか?」
陸奥の髪はまだ濡れていた。夜勤明けで、シャワーを浴びてきたのだろう。
ノーアイロンのホワイトシャツにシワが残っていたが、保安部の濃藍のスーツ姿は完璧だった。
「いいえ、ジャストオンタイムです」
サンルーフから紬が顔を出す。特注のRUFは防弾仕様のため、ドアウィンドウは開かない。
「お嬢はいつも元気だなあ」
陸奥が、バケツに入った花火セットをランドクルーザーに乗せた。
「陸奥さんとランエボって、同い年ですか?」
「違うよ。こいつのほうが一つ兄貴」
「車は女性名詞ですよ?」
紬が「フランス語では」と注釈を入れた。
「そうなのか? だったら姉貴? ……かなりジャジャ馬だぜ?」
「『姉さん女房は金の草鞋を履いてでも探せ』って言うでしょう?」
「金の草鞋、ね」
甲斐がすぐに訂正した。
「あー、なるほど」
紬がさっと理解した。
(鉄の草鞋なら、すり減らないということか……)
紬がスマートフォンで検索した。
一ページ目に「年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ」と表示される。
「――ご無沙汰してます、旦那?」
陸奥が、後部座席の降鷲に声をかけたが、すでに寝入っていた。
「陸奥、はい。旦那はいつもの二日酔い」
甲斐がランクルのキーを、気づかった陸奥に投げる。
受け取った陸奥が、降鷲にタオルケットを静かにかけた。
RUFに乗った甲斐が、座席を電動で調節した。降鷲より四センチ低いが、スタイルは良い。美脚。
「長門さんは?」
「席取りです」
霧島が陸奥に答えながら、陰鬱な顔を見せる。
「(負けたのか、くじ引きに)……ご愁傷様です」
陸奥に肩を叩かれた霧島が、三番車に向かった。
「ふう……(バカップルのお守りか)」
三号車の榛名が視線を感じ、照れながら山城の手を振りほどいた。
外は、絶好の行楽日和。
花見には最高の日だった。




