A13.先従隗始
A13.先従隗始
ケイが穏やかな声で言い、美しい手を僕に差し伸べた。
「隗より始めよ」
意味は分からなかったけれど、意図は伝わった。
「私が……するんですか? 最初に?」
僕は戸惑いながらも、予備の宝珠を初期起動させた。
淡い光が発せられ、空中に魔術式が展開される。
逆変換に失敗すれば、濁った色になる。
「この式を、反転させれば……」
装着して、自分の名前を唱える。
光が強まり、式が安定した。成功だ。
「|これで、皆さんの言葉で話せます《コレッデー、ミーナサン の コットバ でっ ハナセーマス》」
「先従隗始」
「センジョウ……ケイシ?」
僕が音をなぞると、ケイがやわらかく笑った。
「え? アレ? 失敗した?」
苦笑するグースが首を傾け、ナーガが肩をすくめる。
「合っている」
ケイがネックレスをした。
「自分の名前を言うと、登録できます」
「甲斐」
ケイが起動したが、発動しなかった。宝珠が暗く濁る。
「え?」
そんなはずはない。
「あ、そっか! 待って、紬!」
ケイが勇者を制止したが、ツッギーはすでに別の魔術式を展開していた。
ページをめくるように、空中にもう一つの式が浮かび上がる。
――その瞬間、僕の背筋が凍った。
「これは……帝国の隷属式?」
(忌まわしくも、美しい……)
それは確かに、王国が禁呪として扱う隷属の魔術式だった。




