B1.軍事目的で少女を略取されました
B面『偽魔術師あるいは現代の賢者:軍事目的で少女を略取されました』
〝The Quasi Sorcerer; or, The Wise Modern Man〟
B1.軍事目的で少女を略取されました
代表である降鷲譲の「略取」という言葉に、降鷲重工業保安部の榛名が、公爵に声を上げた。
「お前が……お前が、リョウを殺したのか!」
山城の胸にすがって泣いていた若い女性だ。
「フッ! 汝のような式典にそぐわぬ者など――グッ!」
榛名の細腕が、公爵〈土の上級魔術師〉カクマリクマの太い首を締め上げた。
榛名の素早い動きに、衛兵も身動きできない。不用意に近づけば、公爵の首を容赦なく圧し折るだろう。
「殺ったのか、殺ってないのかって話。聞いている? この国も沈黙は同意なのかしら?」
「えっ? えっ?」
カクマリクマが必死に視線を送るが、新人のヴェイミンにはその意味は教えられていない。
「ひっ、控えよ! こちらにおわす御方は、宮廷魔術士にして元老の――グッ!」
榛名の左手が、ヴェイミンの喉を掴んだ。
「このバカが殺ったのは知っている。わたしが見返したとき『あちゃー』って顔してたんだからね。それを、お前は、止めるのか? え?」
「あいや、待たれよ」
場外から、口髭ロマンスグレイの王国宮廷魔術士が仲裁に入った。
榛名は「あっ、イケメン」と思ったが、手を緩めることはなかった。
「わたくしは元老院議長、〈闇の上級魔術師〉カクナロクナ。異世界より来たる皆さまに、最大の敬意を」
たぶん、この国では王族に並ぶほどの敬意を表す謝罪をしたのだろう。深く頭を下げている。
だが、恋人を失った榛名がそれで止まることはない。
両手に宮廷魔術師の首を従えつつ、なおも頭ひとつぶん高いカクナロクナを見上げた。
「わたしは、リョウを殺された」
榛名は事実だけを告げた。
年下の女性の冷たい視線に、元老院議長が震え上がった。
ヴェイミンが「〈魔眼〉――異世界人だ」と呟いた。
「二人で話そうか? 元老院議長殿?」
降鷲が、小娘に怯えるカクナロクナに笑いかけた。




