A8.〈魔法使いの弟子〉
A8.〈魔法使いの弟子〉
グースが眉をひそめながら、質問した。
「どうして、力があるのに使えないんだ?」
「血筋だから、潜性遺伝なんでしょう。使える状態にないから、持ってても動かない」
ハンナが答えた。
「長門さん、翻訳してくれないか?」
グースがナーガに助けを求めた。
「うーん……武器だと仮定する。安全装置が壊れて動かない武器。イコール、装弾されていてもただの鉄の塊」
「ありがとう」
「追補。国としても安全性に問題があるから、最高裁まで争って無罪判決。――議長が話していたでしょう?」
「ああ、そういうことか……」
ナーガの解説にグースが納得した。
「どういうことです?」
理解できない僕は、思わず問いただした。
「呪いは、どこにでもあるという話」
「ああ、はいそうです。教育を受けていないと、偏見に囚われてしまいます」
「でしょうね。……たぶん、呪と同じ」
ハンナが異世界の言葉でたとえた。
「呪文の『呪』と書いて『しゅ』。言葉は、何にでもつく」
「分かった?」
ケイが通訳を頼むと、ナーガが肩をすくめた。
「他に質問は?」
「〈上級魔術師〉とは何ですか?」
またナーガだ。
「〈魔術師〉が〈魔術〉を使う人という定義で、〈上級魔術師〉はその上級版という認識であっていますか?」
必ず仮説を立ててから話す。ややこしい。
「〈魔術〉を使う人のすべてが、〈魔術師〉ではありません。〈魔術師〉は職位――職業上の地位です」
僕が前置きした。
「ひとつだけ言えることは、〈上級魔術師〉のみが、本当の意味での〈魔術師〉です」
(異世界人には理解できない感覚なのだろうな)
異界人たちが一斉にナーガを見た。
「まったく理解できませんね。……たとえば、ふつうの〈上級魔術師〉ではない〈魔術師〉を数値一〇〇とすると、〈上級魔術師〉の数値はどれくらいですか? 俊敏性、即応性、思考性、安定性、安全性での効率と精度や負荷は? また、その他に種類はあるんですか?」
(俊敏性と即応性はどう違うんだ?)
「それぞれの魔術によって、効率や精度や負荷は異なります。ただし、あえて数値化するなら、ふつうの〈魔術師〉を一〇〇とすると、〈上級魔術師〉は一万です。絶対に勝てません。ですから、ふつうの〈魔術師〉は〈中級魔術師〉とは呼ばれず、単に〈魔術師〉です。同じように、一桁の力しかない者は〈弟子〉で、〈魔術師〉ではありません」
「だから〈魔法使いの弟子〉なのか……」
グースが囁いた。




