A7.魔術と魔法の違い
A7.魔術と魔法の違い
黒板の前に立つ僕――ヴェイミン・リーンには、どうして勇者が魔術を使えないのか、不思議でならなかった。
「どうしてなんでしょう……召喚時に、僕と同じ魔術を付与されているはずなのに……魔法?」
教える立場の僕でさえ理解できないのに、異世界人に分かるはずがない。
「魔術と魔法の違いは何ですか? ヴェイミン」
ナーガは質問が多くて困る。
(先に進みたいんだけど……)
けれど、僕は答えなければならない。疑問をもったままダンジョンに入れば、すぐに行動不能になってしまう――そんな光景を、僕は数多く見てきた。
「魔術は〈魔術〉――魔力の技術です。技術ですから、学べば使うことができます。……ですから、どうして皆さんが魔術を使えないのかが不思議です」
「長門、ほら!」
ハンナが指先に〈火〉を灯す。ナーガはそれを掴んで炎を消した。
「氷、榛名」
熱かったらしい。二人は言い合わず、ハンナがナーガのテーブルに頭ほどの大きさの氷を生成した。
「……一方、魔法は〈魔法〉――魔力の法則です。自然の法則ですから、自然に近いもの――すなわち魔族や魔物が使えます」
「魔術は、誰でも使えるんですか?」
氷に手を置きながら、ハンナが質問した。
「誰でも、というと?」
「ふつうの人は使えるんですか? 異世界人には才能があると聞きましたが」
確かに、異世界人には魔術の才能がある。でなければ召喚したりしない。
「ふつうの人? ああ、王国民ですか? それも才能です。使うことができれば、王立魔術学院に入学できます。僕もそうですが、家族に〈魔術師〉がいれば、開花する可能性があります」
「魔女は?」
ハンナがネックレスを軽くはじきながら、聞いた。光の点滅を楽しんでいる。
「〈魔女〉は……」
僕は一瞬、言葉を詰まらせた。
「〈魔女〉は血筋です。なろうと思ってもなれるものではありませんし、その力があっても使えない者がほとんどです」
「ヴェイミンは? 〈魔女〉の力はあるの?」
ケイだ。僕が言いたくないことを、必ず聞いてくる。
「わずかにあるようです。ただし、どれだけやっても使えませんでした。王立高等法院の判決です」
僕が〈魔法使いの弟子〉と呼ばれるにはそんな理由がある。
「魔法が使えるなら、今すぐにでも王国を救うんですが」
自嘲したけれど、僕のことを誰も笑わなかった。異世界人はそうした偏見がないらしい。




