B8.ダンジョン−2
B8.ダンジョン−2
〈闇の魔術師〉を前に、甲斐が身構えた。
(一難去ってまた一難)
魔術が使えない以上、異世界(日本)のやり方で攻めるしかない。
魔術師は、自らの魔術に絶対的な信頼を置く。
(魔術を起動する前に、魔術師本人を倒す――)
ただ、加速する魔術や減速する魔術が存在しても不思議はない。
(これが、ヴェイミンが講義要綱を出さなかった理由か……)
すぐに切り捨てるのに、労力を費やす必要はない。
魔術師は実に合理的だ。それだけに邪悪になると、先読みが難しい。こちらも邪悪な沼にはまる可能性がある。
「我が名はルダリア」
真名の宣言を起動に、魔術が展開された。
黒い矢が地を這い、赤い炎がそれを追う。
その数、およそ一〇〇〇。
甲斐が身をかわす。
追い詰めた忍者たちが、逆に炎に包まれた。
しかし、不思議と甲斐は熱を感じなかった。
ルダリアが近づく。
甲斐が深呼吸して、鼓動の高鳴りを押さえた。
「ケイさん、ですね?」
「はい。甲斐ですが? どなた?」
「名乗りましたが……?」
「いえ、そういう意味ではなく、所属は? ――敵? 味方?」
「ヴェガさまより、ケイを助けよとの命です」
ルダリアの声はやわらかいが、耳の奥に残響のような波紋を残した。
「誰だ! 貴様は!」
「何者だ?」
炎を遮った忍者たちが声を上げる。
「邪魔する者はすべて消せ!」
一人、黒い羽根を身に付けた者が命じた。
「逃げてください」
ルダリアがそう言うと、〈土〉の壁が立ち上がった。
甲斐が走る。
ルダリアがその速度に合わせて、〈水〉〈木〉の魔術で防戦する。
「魔術があまい。〈上級魔術師〉ではない。追え!」
(このままでは逃げ切れない……)
甲斐に後ろを振り返る余裕はない。
だが、ルダリアの魔術が足止めにもなっていないことを、崩れる音で察する。
――「〈上級魔術師〉のみが、本当の意味での〈魔術師〉です」――
甲斐が、ヴェイミンの言葉を思い出す。
――「あえて数値化するなら、ふつうの〈魔術師〉を一〇〇とすると、〈上級魔術師〉は一万です。絶対に勝てません」――
しかし、甲斐は考えた。
(あの人は、不用意に駒を動かさない。何か手がある。何だ? それは?)




