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A6.交渉−2

A6.交渉−2


 カクナロクナ議長が言葉をつまらせた。

「仮説ですが、紬が降鷲を頼ったのでしょう。降鷲とその護衛も、それに応じたのだと考えられます」

 ケイが論理立てて述べる。

「やはり、ヴェガ殿の処刑は悪手あくしゅか……」

「貴国にとって、戦術的に不利です。降鷲を慕う紬――勇者が国を滅ぼすでしょう」

 ケイが口調を変えた。

「勇者が〈滅びの魔女〉になるということですか?」

 僕はつい、言葉に出してしまった。

(母じゃあない?)

「下がらせろ」

 議長が冷たく命じた。

   *

 ケイがテーブルに残る、水の入ったグラスへと視線を向けた。

 後ろに控えていた男がそのグラスを手に取り、一口飲んでからケイに手渡す。

「〈滅びの魔女〉とは、具体的に何を意味するのですか?」

 口を湿らせたケイが問う。

「伝説――いや、御伽噺おとぎばなし近いものです。あの〈魔法使いの弟子〉の母親が〈滅びの魔女〉として呪われているという話があります。……呪いなど、どこにでもあるというのに――あっ、失礼」

 カクナロクナが水を飲んだ。

「――降鷲と榛名の罪状はどのようなものでしょうか?」

 ケイが話を進める。

「ヴェガ殿の罪状は『王国ならびに王室および公爵に対する不敬』の三件です。王国および王室への不敬罪の量刑は死刑のみです。公爵閣下への不敬罪は死刑または無期もしくは五年以上の拘禁こうきん刑です。おそらく求刑は三件の死刑となるでしょう」

「この世界では、死者の蘇生が可能なのですか?」

「いいえ、できかねます。女神様には〈生還者よみがえり〉の伝承が残っていますが、神話の域を出ません。死は一度きり――それはこの世界とて変わりません」

 カクナロクナがもう一度水を飲んだ。

「ハンナ殿の罪状は『公爵および宮廷魔術師への暴行、ならびに両名への不敬』――以上四件です。暴行罪は二年以下の拘禁刑、併合される不敬罪はその倍となり、求刑は合計八年の拘禁刑になるでしょう」

「議長、発言よろしいでしょうか?」

 勇者の隣にいた女が許可を求めた。

「どうぞ」

「わたくしは長門ながとと申します。――たとえば、公式で謝罪の折、恩赦を出すという案はいかがでしょうか?」

「……頭が痛くなる話ですね」

 カクナロクナが目を細めた。

「もちろんそれは建前です。本音は、魔王討伐報酬の前払いです」

「……ですが、無罪放免にはできかねます」

「本案の目的は『降鷲の死刑回避と榛名の即時釈放』です」

「……」

「甲斐が申し上げたとおり、降鷲が死刑となれば、この国は確実に滅びます。紬が直接手を下さなくとも、少女を略取従軍させる国に留まるはずがありません。必ず他国に流れるでしょう。また、榛名が保釈されず、告別式が行われれば、同じ結末を迎えることになります」

「ハンナ殿に、そこまでの力が?」

「降鷲より有能です」

 甲斐が肯定した。

「逆に言えば、降鷲は自分より有能な者しか雇いません。降鷲を警戒しているようですが、榛名はそれ以上です。たがえば、必ずや亡国ぼうこくとなるでしょう」




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