A5.交渉−1
A5.交渉−1
カクナロクナ議長自ら、貴賓室に案内した。
貴賓席のソファー中央が勇者、その左右に女が一名ずつ、二名の男は無言でその脇に移動した。
立ったままの五名に向かい、議長が深く頭を下げた。
「皆さま、改めて申し上げます。当方の不手際につきましては、この国の代表――摂政として、心よりお詫び申し上げます」
議長が今一度、深く頭を下げた。
「摂政殿、謝罪はすでにお受けしております。どうぞお顔をお上げください」
「感謝いたします。――どうぞおかけください」
一同が着席する。
議長がホスト側の上座席に座り、僕はその傍らに立つ。
その背後には女使用人が二名、衛兵が五名控えている。
「わたくしのことは、議長とお呼びください。……何かお飲み物はいかがですか?」
「お水をいただけますか?」
「水を四名分、ご用意せよ」
僕がメイドに命じた。
四客のグラスが整然と並べられ、透きとおる水が注がれた。
「どうぞ」
議長が先に飲むと、両脇の男がそれぞれグラスの水を一口飲み、勇者とケイに手渡した。
着席している女はグラスに手をつけない。
「さて、どのように結論づけましょうか。――ケイ様」
「『さん』付けで結構です。対等な立場でお話しさせていただければと考えております」
「ヴェガ殿からご依頼があったのは五件ございます」
第一に、故人様の葬送の儀。
第二に、七名全員への治外法権の執行。
第三に、未成年の従軍に対する補償。
その二として、教育の補填(異世界人全員を対象)。
第四に、食事・入浴・睡眠をはじめとする異世界水準での生活保証。
「……他にも追加の要望があるとのことでした」
「即決できる案件はございますか?」
「第一の葬送の儀は滞りなく進めております。第二の治外法権の執行は、元老院の許可なくしてはできません。また実現は不可能でしょう。代替案として、叙爵を検討しております」
「叙爵? 議長! 勇者ならまだしも、従者ふぜいに爵位などもってのほかです!」
僕が会話に割って入った。
「一歩下がれ」
議長の一声に、僕は静かに一歩退いた。
僕だけに聞こえるように、メイドが「これだから〈魔法使いの弟子〉は」と囁いた。
「何か、誤解があるようですね」
ケイが声を落とし、水を口にした。
「私を含め六名は、降鷲譲――ヴェガの護衛です。織苑紬――あなた方が勇者と呼ぶ少女の従者ではありません」
「――勇者召喚では、勇者とその従者が同時に召喚されます!」
僕が訂正した。
「もう一歩下がれ」
(チッ!)
僕は心のなかで舌打ちしながら、さらに一歩下がる。
メイドが小さくクスクス笑った。
異世界の言葉は理解できないメイドは、どれだけ不敬なことか分からないからこそ、腹立たしい。
「メイドを下がらせろ」
議長の言葉に、顔面蒼白となった二名が無言のまま退室した。




