表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/36

A5.交渉−1

A5.交渉−1


 カクナロクナ議長自ら、貴賓室に案内した。

 貴賓席のソファー中央が勇者、その左右に女が一名ずつ、二名の男は無言でその脇に移動した。

 立ったままの五名に向かい、議長が深く頭を下げた。

「皆さま、改めて申し上げます。当方の不手際につきましては、この国の代表――摂政として、心よりお詫び申し上げます」

 議長が今一度、深く頭を下げた。

「摂政殿、謝罪はすでにお受けしております。どうぞお顔をお上げください」

「感謝いたします。――どうぞおかけください」

 一同が着席する。

 議長がホスト側の上座席に座り、僕はその傍らに立つ。

 その背後には女使用人メイドが二名、衛兵ガードが五名控えている。

「わたくしのことは、議長とお呼びください。……何かお飲み物はいかがですか?」

「お水をいただけますか?」

「水を四名分、ご用意せよ」

 僕がメイドに命じた。

 四客のグラスが整然と並べられ、透きとおる水が注がれた。

「どうぞ」

 議長が先に飲むと、両脇の男がそれぞれグラスの水を一口飲み、勇者とケイに手渡した。

 着席している女はグラスに手をつけない。

「さて、どのように結論づけましょうか。――ケイ様」

「『さん』付けで結構です。対等な立場でお話しさせていただければと考えております」

「ヴェガ殿からご依頼があったのは五件ございます」

 第一に、故人様の葬送の儀。

 第二に、七名全員への治外法権の執行。

 第三に、未成年の従軍に対する補償。

 その二として、教育の補填(異世界人全員を対象)。

 第四に、食事・入浴・睡眠をはじめとする異世界水準での生活保証。

「……他にも追加の要望があるとのことでした」

「即決できる案件はございますか?」

「第一の葬送の儀は滞りなく進めております。第二の治外法権の執行は、元老院の許可なくしてはできません。また実現は不可能でしょう。代替案として、叙爵を検討しております」

「叙爵? 議長! 勇者ならまだしも、従者ふぜいに爵位などもってのほかです!」

 僕が会話に割って入った。

「一歩下がれ」

 議長の一声に、僕は静かに一歩退いた。

 僕だけに聞こえるように、メイドが「これだから〈魔法使いの弟子〉は」と囁いた。

「何か、誤解があるようですね」

 ケイが声を落とし、水を口にした。

「私を含め六名は、降鷲譲――ヴェガの護衛です。織苑紬――あなた方が勇者と呼ぶ少女の従者ではありません」

「――勇者召喚では、勇者とその従者が同時に召喚されます!」

 僕が訂正した。

「もう一歩下がれ」

(チッ!)

 僕は心のなかで舌打ちしながら、さらに一歩下がる。

 メイドが小さくクスクス笑った。

 異世界の言葉は理解できないメイドは、どれだけ不敬なことか分からないからこそ、腹立たしい。

「メイドを下がらせろ」

 議長の言葉に、顔面蒼白となった二名が無言のまま退室した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ