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9.リナ・ドールマン、お父様の帰宅


9.リナ・ドールマン、お父様の帰宅




「姉ちゃん、この石も入れて!」

「石? どうだろう、手紙に入れてもいいのかな・・・・・・というか、手紙に入れて出したら割れちゃうかもよ」

「え」

「今度、お兄さまが帰ってきたときに手渡しであげたらいいわ」

「ん!」

 ディーン・ドールマンはかなり悪戯をしなくなったし、癇癪も起こさなくなったと思う。

 私が愛の伝道師となって愛情を伝え続けている結果だと思いたい。

 いや、この間ダーク・ドールマンが一時でも、帰宅してくれたのもあるかもしれないけれど。


「じゃあ、バートのゼリーは?」

「はは、手紙の方がぐちゃぐちゃになって、お兄さまが読めなくなっちゃうかな」

「えー」

「そうなったら、お兄さまもお返事を書けなくなっちゃうね」

「ソレはダメ!」

「そうだね」

「俺が剣の試合でたくさん勝ったのも書いて!」

「書いてる書いてる」

 このまま、いけばすくなくとも、ディーン・ドールマンの方のヤンデレ化は防げるのではないだろうか。

 ダーク・ドールマンについては虫けらから昇格するのを第一目標にしていたのだが、手紙のやり取りは続いているし、もしかすると家族とは思われ始めているかもしれない。

 ただ、ダーク・ドールマンについては「愛されている実感を感じて安心してヤンデレ化を防ぐ」よりも「役に立つ、有益と言うことを見せつけて彼の世界に入る」ことの方が大切な気がする。

 だから、この家族という立場からダーク・ドールマンにとって「必要」と思われるように動くべきなのかもしれない、私はそう思っている。

 まぁ、その「必要と思われる」ことがどうしたらいいのか分からないので詰んでいるわけだが。

 まぁ、ともかく「不要と思われないように」勉学に励み、マナーを身につけて地道に成長するべきかな。

 私に何か特別な才能や能力があれば話が変わってくるんだけどなぁ。

 ま、そうそう、上手くいかないよね。



 廊下を駆ける音。

 そして、そのまま勢いよく、この部屋の扉を開けられる。

 あーあ、オーメンに怒られるぞ。

 そう思いながら、扉を見ると、そこにいたのはオーメン本人だった。


「お、お嬢様、ディーンお坊ちゃま・・・・・・」

 その顔は蒼白だった。

 誰かに良くないことがあったのだろうか。

 書いていた手紙を机の隅に避け、インクの瓶を締める。


「だ、旦那様が・・・・・・」

 眉根を寄せてオーメンを見上げる。


 お父様。

 彼に何かあったという事は、もしかすると帝都で事件に巻き込まれたのだろうか。

 クーデターにテロ、それとも、政敵にはめられた?

 いくらでも要因は思いつく。


「お父様が、何? 聞かせて、オーメン」

 私は粛々とした気分で執事長に先を促す。

 何かあったのであれば、すぐにお兄さまと祖父母に連絡をしなければ。

 どこから、自称親戚がわいてでるか分かったものではない。



「だ、旦那様が・・・・・・屋敷に戻られると・・・・・・」

 オーメンが続けた言葉は悲惨な事故の話ではなく、帰宅の知らせだった。



「__はぁ!?」

 書いている最中の手紙を隅に寄せていて良かった。

 手に持っていたら、くしゃくしゃにしてしまっていただろう。



「い、いつ帰ってくるんだ!?」

 ディーン・ドールマンが興奮してオーメンに飛びつく。

「い、いえ、あの」

 オーメンはそれに注意もできずに汗をかいている。

「も、もう__町にお見えになられているようで、もうすぐお見えになるかと・・・・・・」




「__はぁ!!??」







 ドールマン家の人間たちは報告も連絡もできないらしい。

 まさか、親子まとめて、帰宅の連絡一つまともにできないとは。

 豪奢な馬車が屋敷に入ったが、お父様とは顔を合わせることなく、ついには夕食の時間となった。



「父さん、俺、最近、剣を習い始めて・・・・・・」

「食事中に口を開かない」

 そして、コレである。

 久々にあった愛息に「最近どうだ」なんて声も掛けないで沈黙。

 そして、愛息の方が語りかけてくれたら説教だ。

 ディーン・ドールマンやダーク・ドールマンが誰かを愛そうとして、執着をだしてしまうのは、巡り巡って言えばこの男のせいのような気がしてきた。

「その上、なんだ、その口にききかたは。公爵家の人間として恥ずかしくないように努めろといつも言っているだろう」

「いつも、いないではないですか」

 口を開くなと言った途端、夕食の席で説教が始まりそうだったので、私からも一言言わせて貰った。

 いつもいない人間が一体何を言っているのだろう。


 それからはまた静かな食卓が始まった。


 ディーン・ドールマンと二人だとその日にあったことを喋りながら食事をするので、本当に久しぶりの静かな食卓だ。

 心なしか、ディーン・ドールマンが落ち込んでいるように見えたので、食事の後に声を掛けてやるべきかもしれない。



「リナ、食事の後、書斎に来なさい」

「・・・・・・」

 悉く、コミュニケーションの妨害をしてくる。

 もはや、そういうお邪魔キャラに見えてきた。





 黒髪に緑の瞳、瞳の色以外はディーン・ドールマンそっくりだ。

 中身の方はダーク・ドールマンにそっくりの冷徹男なわけだが。


「リナ、何か私に言うことはないか__」

 書斎に彫像のように座っていたお父様がようやく口を開いた。

 起きていたらしい。

 招いたくせに全く動かないので寝ているのかと思った。


「・・・・・・ディーンが剣を習い始めました」

 とりあえず、最近あった変わったことはこれである。

「違う」

 なぜか否定された。

 いや、別に嘘でもないし、言うべき事なんて思い浮かばないわけだが。

「・・・・・・あと、最近寝る前にディーンに本を読み聞かせています」

 まぁ、大抵は今日会ったことを話してそのまま寝てしまうわけだが。

「・・・・・・違う」

 こちらも、否定された。

 何が聞きたいんだ。

「えー・・・・・・その読み聞かせようの本を選ぶために図書室に行ったのですが、子供用の物がなくて・・・・・・ディーンなんかは「聖女伝説について」や「貴族名簿」をもってくる始末だったので、何か子供でも読める・・・・・・」

「今、何といった」

 そこで、彫像のように執務椅子に座っていたお父様が立ち上がった。

「聖女? 聖女伝説といったのか、今」

「・・・・・・? はい、図書室にそういう写本が・・・・・・」

「来い!」

 そういうと、お父様が弾丸のように部屋から飛び出していった。

 呆気にとられて、ようやく我に返り、廊下をみたがもう影も形も見えない。

 いや、まぁ、話の流れ的に図書室なのだろうけれど。

 来いといっておいて、絶対に五歳児には追いつけないトップスピードで駆け抜けるのはやめろ。

 私が身も心も五歳児だったら、普通に泣くだろ。





 図書室に着いたときにはもう、お父様の手の中に聖女伝説についての写本が握られていた。

 乱れた息を整えようと、私は大きく呼吸を続ける。


「一冊だけか」

「はぁ__!?」

 その途中で再びお父様に声を掛けられ、思わず苛立ちが声に乗った。

「はぁ、いえ、ふぅ、分かりません」

 本当に私の状態など見えていないし、関係ないのだろう。

 深呼吸し、ゆっくりと息を吐き出す。

「図書室に来るのなんて__初めてだったし」

 ようやく息が落ち着いてきた。

「それを見つけてきたのは、ディーンでしたから」

「そうか・・・・・・」

 そう言ったきり、また、お父様は沈黙した。



「・・・・・・その本について聞きたくて、帰宅されたのですか?」

「違う」

 食い気味に返答があった。

「そうではない」




「ただ・・・・・・」

「ただ?」






「これは禁書だ__持っていると一族すべてが処刑にされかねない」



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