4.リナ・ドールマン、愛の伝道師になる事を決意する
4.リナ・ドールマン、愛の伝道師になる事を決意する
つまりは愛である。
愛さえあれば、子供向けアニメや海外のプリンセスアニメよろしくハッピーエンドに持っていけるというわけだ。
つまり、私は愛の伝道師になればいいわけだ。
それに気がついた私は手始めとして、今まではできる限り避けていたクソガキ、ディーン・ドールマンに構い倒すことにした。
まず朝はディーン・ドールマンの部屋まで起こしにいく事からだ。
思えば、ディーン・ドールマンは私の部屋によく来ていたが、私の方からディーン・ドールマンの部屋に来たことはなかった。
すぅと朝の空気を肺に取り込んで、目の前の扉を叩く。
「おはよう、ディーン!」
そう声をかけると、中で何かが落ちる音がした。
「・・・・・・ディーン? 大丈夫?」
もしかすると、寝ぼけたディーン・ドールマンがベットから落ちたのだろうか。
もう一度声をかけると、中でバタバタと走り回るような音が聞こえた。
「ディーン、ちょっと、どうしたの?」
もう一度中に問いかけるが、返事がない。
どうしよう。
「・・・・・・開けるわよ?」
そういって取っ手に手をかける。
「だめ!!」
中から取っ手が引っ張られて、拮抗する。
どうやら、ディーン・ドールマンは扉のすぐ向こうにいたらしい。
「散らかってるから、入んないで!!」
散らかっているらしい。
自分は勝手に私の部屋に入るくせに。
一体どれだけ部屋を汚しているのだろう。
「もう、片付けないとデイジーに怒られるよ?」
「しらねーよ、ブス!!」
朝から本当に生意気である。
イラッとしてに言い返したくなるが、なんとか踏みとどまる。
私は愛の伝道師、私は伝道師。
よし、がんばれ、私の将来のために。
それにしても、身内の姉を部屋に入れたくないほどに汚すなんて。
やっぱり、ディーン・ドールマンにも、はやくお付きのメイドがいた方がいいんじゃないだろうか。
「わかった、わかった、じゃあ、片付けがんばってね」
ふぅと息を吐く。
部屋に入れないのであれば仕方がない、また部屋が片付いたら招いて貰おう。
そう思って、素直に踵を返す。
「は!?」
数歩進んだところで背後からすごい声がして、勢いよく扉が開く音がした。
吃驚して振り返るとディーン・ドールマンが慌てて扉を閉じ、隙間から顔だけを覗かせる。
「何帰ってるんだよ!!」
ディーン・ドールマンの顔はなんだか不満そうだ。
「は? いや、だって部屋に入れたくないんでしょ?」
「入れたくない!」
思わず問い直すが、やはり部屋には入れたくないらしい。
いや、やっぱり入れたくないんじゃないか。
「だから、帰ってるんだけど・・・・・・」
「うるせーな!! おまえの部屋にいくから、ちゃんと待ってろ!!」
そうやって吐き捨てると、ディーン・ドールマンの顔が引っ込み、勢いよく扉が閉められた。
そして、再びディーン・ドールマンの部屋の中で激しい音が鳴り始める。
「・・・・・・部屋で戦争でもしてんの、アイツ?」
思わず呟くと、ディーン・ドールマンの部屋からシンバルでもたたき落としたかのような音が響いた。
「う、うるさ・・・・・・」
思わず耳を塞ぎ、自分の部屋に早足で戻った。
ディーン・ドールマン。
端的に言えばこいつは生意気なクソガキである。
暴れん坊で私にも沢山ちょっかいを出す。
記憶が戻る前の私はディーン・ドールマンを避けていた。
本邸にいる唯一の家族でありながら、苦手、いや嫌いだったのだ。
なにせ、勝手に私の部屋に来て大暴れするし、部屋に虫を投げ込むし、私のおやつを取るし、私が勉強していると叩いたり本を破ってでも邪魔をしてくる。
そりゃあ、五歳の女の子相手には嫌われる行動である。
前世の記憶を思い出して精神年齢があがった私も割と嫌いである。
だが、そう、思えばディーン・ドールマンは愛情に飢えているのかもしれない。
なにせ、ディーン・ドールマンが産まれた後、お母様は死んでしまったのだ。
母親を知らないディーンだが、ケアすべき父親は全く家に帰ってこないし、長男も寄宿舎にずっと籠もっている。
自分はまだ小さくて家から出られない上に、近くにいる身内は一つ上の姉のみ。
そして、その姉は母の生き写しである。
もしかすると、ディーン・ドールマンは私に母親を求めていたのかもしれない。
何をしても自分を愛してくれる絶対的な存在として。
つまり、ディーン・ドールマンは家族からの愛に飢えているのかもしれない。
思えば、ディーン・ドールマンの悪戯は私が彼を見ていないとき、他に気を取られている時だ。
誕生日の朝に部屋に虫を投げ込まれたのはディーン・ドールマン以外の家族が帰ってくるかどうかずっと考えていて、しばらく彼を意識して見ていなかった。
庭で泥を投げつけられた時は、ディーン・ドールマンから視線をはずして考え事をしていた。
そう、やはり、ディーン・ドールマンを見ていない、気にかけていない時に悪戯をされている。
そもそも、最初は後ろからわっと大きな声をあげたり、かくれんぼをしたりするくらいだったのだ。
酷くなったのは年齢が上がったからだと思っていたが、悪戯をするから嫌になってディーン・ドールマンを避ければ避けるほど、それは度合いが酷くなっていったように思う。
恐らく、私がディーン・ドールマンをみないから、自分を見てもらうため、段々と過激になっていったのだ。
これが悪化したら、それこそディーン・ドールマンが暴力的なはみ出し者になるかも知れない。
つまり、私がするべきは家族として姉としてディーン・ドールマンを愛していることを伝えればいい。
そうすれば、ディーン・ドールマンの悪戯も落ち着くか軽くはなるだろう。
手のつけられないはみ出し者になるかもってルートともおさらば。
いや、それだけじゃない。
愛されている実感をここで得て、ヤンデレ化を防ぐこともできるのかもしれない。
「フッ、勝ったな!!」
私は廊下で勝利の高笑いを始めた。
廊下の向こうでメイドが引き返していった気がするが、気のせいだろう。
そう、私の愛の伝道師への道のりも将来も明るい!