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こうしてヒーローはUFOキャッチャーをした

 5時間目の授業が終わり、この日最後の休憩時間。午前中は美蘭を見てひそひそと陰口のようなものを言っていた女子達も今は大人しいものだ。一方の美蘭は机に突っ伏すことなく、機嫌が良さそうにスマホをいじっている。狂暴なヤンキーであり恋人という無茶な設定を強いられている身としては、休憩時間中に気軽に彼女に話しかけるべきなのだろうかと悩んでいるうちに放課後へ。


「さあヒーローさん帰りましょう」

「3ヵ月来てないうちに忘れたのか? 今日は掃除だ。ちなみにほら、俺とは別のグループだからな」

「えっ……ひ、ヒーローさん、不良らしく一緒に掃除はサボりましょう」

「掃除はちゃんとするタイプの不良なんだよ俺は」


 すぐに帰る気まんまんの彼女に教室の掲示板に張り出された掃除当番表を見せてやると顔が青ざめる。彼女を置いて自分の持ち場に向かい掃除を終えて戻ってくると、教室掃除担当の彼女は隅っこで既にゴミも無い場所を箒で履き続け、彼女を無視して掃除を協力して行っていたであろう他のメンバーが話し合ってそろそろ終わろうかと掃除道具を片付け始めたところで、ほっと一息ついて自分も箒を片付けるという悲惨な光景。無言ながら掃除はちゃんと協力してやっているぼっちとしては悲しくなってきたので、掃除道具を片付けて帰ろうとする男子を捕まえて、あくまで平和的に班を交代して貰う。


「……ヒーローさんがいれば学校なんて、と思いましたけど、近くにいないと色々トラウマやらがフラッシュバックするんですよね」

「俺の威を借るのも、俺を精神安定剤代わりにするのも百歩譲って認めるけどさ、結局は自分が変わるなり、行動するなりしないと。四六時中一緒になんていられないよ」


 ずっと無言の彼女と学校を出て、彼女の帰り道なんてわからないのだがとりあえず俺の帰る道へと歩いていると、周囲に誰もいないのを確認した後ようやく口を開く。今は時代も変わったんだし、俺が近くにいないからってそんな簡単にいじめなんて起きないだろうなんて考えは、今まで一度もそういう経験の無い人間の浅はかなものなのだろうか。そんなことを考えているうちに、俺と彼女が出会ったゲームセンターの前までやってきており、彼女は自然に中へ入ろうとする。


「もう学校に行くようになったんだし、家で母親といても気まずくなんてならないでしょ。真っすぐ家に帰ってさ、母親に『お母さん私ちゃんと学校に行けたよ!』って報告してやりなよ」

「恋人は放課後にデートするものですよ。今のところ私とヒーローさんの共通の趣味ってここくらいですし……それに今日は明確な目的があるんです」


 目的がある、と言いながらゲームセンターの中に入り、すたすたと歩いていく彼女についていく。やってきたのはUFOキャッチャーのコーナーだった。


「お揃いのキーホルダーとか、恋人っぽくないですか? それをカバンとかにつけて、私達は恋人なんだぞってアピールするんです。そうすればヒーローさんがいなくても、私少し勇気が出る気がします」

「狂暴ヤンキー設定がお揃いのキーホルダーだなんて……」

「ヒーローさんは私にベタ惚れなんです。お揃いのキーホルダーも厭わないんです。そうですよね? ナンパしたんですし」


 流行りのアニメのグッズだったり、クッションだったり、大量に置いてある筐体を眺めながら、手ごろなキーホルダーなりを探す俺達。選択権は彼女に委ねるつもりの俺ではあったが、とある筐体の前で立ち止まり中を凝視する。


「最近のフィギュアは作りが精巧だなぁ……」

「変身ヒーローのフィギュアですか。私はそれでも構いませんけど、それを無理矢理カバンにつけるつもりですか? どこかに穴とか開けないと無理だと思いますよ」

「う、ううう……よし、個人的に部屋に飾ろう。俺はこれを獲るからその間にキーホルダー探しといて」


 現在絶賛放送中の仮面ヒーローのフィギュアを見つけてしまい、どうしても欲しくなって財布に手をかける。一度は全て失ってしまったヒーローグッズの収集は難航していたが、考えてみればUFOキャッチャーなら100円で手に入る可能性は十分ある。俺のヒーローに対する情熱に、こいつは必ず応えてくれる――!


「獲れましたか?」

「……無理。惜しいとかすらいかない」

「いいじゃないですか、また今度挑戦すれば。いつだって応援してあげますよ」


 彼女のおかげで浮いた学食代を使い果たして敗北に打ちひしがれていたところで、彼女が候補を見つけたようでニヤニヤとやってくる。俺がこのフィギュアを獲るのが先か、景品自体が撤去されてしまうのが先か、この先語られることのない戦いがひっそりと幕を開けたところで、彼女に連れられて別の筐体の前へ。


「……何だこれ? こんなヒーロー見たことない……俺もまだまだ勉強不足だな」


 そこに景品として置かれていたのは、小さなヒーローのぬいぐるみ型キーホルダー。デフォルメされたぬいぐるみであっても少し見れば作品を当てられる自信はあったが、これに関しては全く見覚えが無い。


「知らないんですか? 地元ローカルテレビ局のマスコットキャラクターですよ。テレビ・シン・ヒーローって言うんです」

「流石にそういうのは守備範囲外だよ。赤いのが男でピンクのが女?」

「そうです。さっきのフィギュアは値段的にも難易度が高いと思いますけど、これならそこまで難しくないと思いますよ」


 彼女に元ネタを紹介され、そういえば昔早起きしてテレビをつけたときにそんなのがいたような気がするな、と懐かしむ。その後はお互い数百円を消費したところで無事に2つのキーホルダーを手に入れ、どこにつけるべきかカバンやらスマホやらを眺める。


「俺は無難にカバンにつけようかな……まつ……美蘭は決めた?」

「……ここにしようかと」


 カバンにキーホルダーをつけてフィットしているか確認していたのだが、彼女は安全ピンをカバンから取り出すと自分の制服にキーホルダーを縫おうとする。


「学校で一番常に身に着けているものと言えば制服ですからね。いつでも守ってくれるような気がします」

「それは流石に恥ずかしいと思うし、校則的にも注意されると思うよ。俺がいるからってわざわざ積極的に浮くような真似はしないでくれよ」

「そんなにおかしいですかね? ……だ、ダサい……スマホにつけると重いし、私もカバンにします」


 夏服の胸ポケットにキーホルダーを着けた彼女はヒーローパワーを吸収したのか強気になるが、UFOキャッチャーの筐体に映る自分の姿を見てすぐに赤面し、カバンへとそれを付け替える。結果的にお揃いの場所にキーホルダーを着けることになり、ペアルックですねと写真を撮った。


「それじゃ、私は家がこの近くなんで。また明日……いや、折角LUNE交換したんですから、たくさんお喋りしましょう。今日は寝かせませんよ」

「寝かせてください」


 ゲームセンターで彼女と別れ、キーホルダーのついたカバンと共に家に帰った後、部屋で彼女とお互いのことについて色々話す。寝かせませんと言いながら日付が変わる頃には彼女は寝てしまったのか既読がつかなくなり俺も寝ようとするが、テレビ・シン・ヒーローのことが気になってしまいネットで調べているうちに大幅に夜更かしをしてしまい、翌日は遅刻をしてしまうのだった。





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