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こうしてヒーローはクリスマスイブに彼女にフラれた

「映画でも見ない?」


イルミネーションを見たり、街行くカップルを見てはあれはパパ活だのあれは釣り合っていないだの失礼な感想を述べる美蘭に付き合ったりしているうちに映画館を見つけ、見終わる頃には丁度いい感じにお腹も減るだろうと映画鑑賞を提案する。


「構いませんけど……事前にこのプニキュアの設定とか簡単に説明してくれますか?」

「別に俺はプニキュアの映画を見ようとは言って無いんだが……無難に評価の高い恋愛映画でも見ようよ」

「感動の大作、だとか全人類が泣いた、とか凄い胡散臭く感じるんですよね……俳優とかは有名みたいですけど、多分中身はしょうもないですよ。笑ってやりましょう」


 上映されているリストの中にプニキュアの映画を見つけ、見ていないため事前知識が欲しいとスマホを開き調べながら俺にも聞いてくる予習は欠かさない彼女。見たくないと言えば嘘になる、流石に映画館まで足を運んで見る勇気は無いが地上波で放送される時は欠かさずチェックだ。ツレがいるというこの状況、きっと最初で最後の映画館でプニキュアを見るチャンスなのだろう。しかし俺は自分の趣味に無理矢理恋人を付き合わせるような人間では無いから、クリスマスのデートなんだしとお互い普段から見ないようなベタな恋愛映画を見ようとチケット売り場に並ぶ。その辺の人が泣くシーンで笑ってやろうなんて性格の悪い事を言いながらポップコーン売り場に向かう美蘭であったが、いざ映画が始まると、


「うっ……ううううっ……ヒロイン可哀想……」


 色々と辛い経験をして来たからか、ヒロインに感情移入して鼻水を出しながら泣く、テレビとかでたまに見かける『泣けました!』のインタビュー対象になれば映画人気に貢献するであろう彼女。途中で貰った(美蘭は貰ったらバイトの思う壺です、負けですと貰わなかった)ポケットティッシュを彼女に渡し、周囲の客に感受性豊か過ぎてすみませんねと申し訳ない表情をしながら映画鑑賞を楽しんでいく。


「ヒーローさんは全然泣かないんですね、冷血漢ですね、血も涙も無いんですね」

「いや、それなりに感動とかはしたけど、泣くかって言われたら……そろそろお腹空いたんじゃない? ご飯どうしよっか」

「作中でヒロインが見栄を張ってキング牛丼を頼んで、食べきれないところに主人公が来て一緒に食べるシーンを再現しましょう」

「クリスマスイブに牛丼屋……まぁ、空いてるだろうしいいか」


 映画館から出る頃にはすっかり目元を赤くした美蘭は、すっかり作品に入れ込んでしまったらしく近くにある牛丼屋を指差す。店内に入り席に座ると、美蘭がキング牛丼を注文して周囲の客をざわつかせ、運ばれて来た通常サイズの数倍ある巨大な牛丼に口をつける事無く俺の目の前にすすっと移動させ、自分は改めて小盛りのセットを頼むという作中のヒロインより遥かに酷い行動に出る。仕方なくキング牛丼を一人で平らげるが、同世代に比べたら大食いとは言えどペロリと食べられる程訓練は積んでおらず、お店を出る頃にはお腹を押さえながら吐き気と戦う状態に。


「うぷっ……気持ち悪い……これ以上歩きたくない……」

「だったらゲーセンで休憩しましょうか」


 クリスマスイブのデートにリバースをするのだけは回避したいと、落ち着くまで極力動きたくない俺に、別に吐いても私は受け入れますよとでも言わんばかりの優しい目をした、といっても諸悪の根源でもある彼女がいつものゲーセンを指し示す。何かで遊べるような状態では無かったので美蘭が遊んでいるのを横で眺める事しばらく、お腹も落ち着いて来た俺はUFOキャッチャーへと向かう。


「何を狙ってるんですか? 缶のお菓子ですか、あれ一度取ったことありますけど中身滅茶苦茶少なかったですよ、裏に内容量とか書かれてるんですけど、巧妙にそれが私達からは見えないように配置されてるんです」

「まぁまぁ、こういうのはやってる過程が楽しければいいんだよ。……取れた取れた」


 筐体の中に配置されている景品に文句を言う美蘭を宥めながら、100円を何枚か投入して行き景品を狙い続ける。といっても俺も別に景品が欲しい訳では無い。ガチャンと景品が下に落ち、俺はそれを取り出すフリをして隠し持っていた小さな箱を美蘭に見せた。


「……あれ、こんなのでしたっけ?」

「開けてごらん」

「はぁ」


 不思議がる美蘭に箱を渡し、随分と手厚くラッピングされてるんですねと箱を開けて行く彼女を眺めながら深呼吸をする。やがて箱が開き、彼女は中から星形の髪飾りを取り出した。


「何ですかこれは」

「美蘭、服はオシャレなのを買っても学校じゃ意味が無いって文句言ってたけど、その分髪とかはかなり気を遣ってただろ? 俺でもわかるよ、どんどん髪が綺麗になって行くの。だから似合う髪飾り探してたんだけどさ、まぁプレゼントだしそれなりの値段にした方がいいよなって考えてたら、ちょっとシンプルになっちゃったかも。……まぁ、ようするに、クリスマスプレゼントだよ」


 俺の本気度をアピールするためにあえて値札を外していない、高校生にとっては結構な額のする髪飾りをぼーっと眺める美蘭。何でクリスマスプレゼントを? とでも言いたげな不思議そうな表情で俺を眺める彼女を真正面から見つめ、俺は再度深呼吸をする。


「最初は、賭けに負けただとか、ステータスだとか、しょうもない理由だったけどさ、俺も、美蘭と一緒にいるの嫌じゃないって言うか、まぁなんだかんだ言って似た者同士で相性がいい気がするっていうか、その、改めて俺から言うよ。付き合ってくれ」

「……」


 そしてゲーセンの喧騒に負けないような声を出しながら彼女に告白をする。正直なところ今の俺の彼女に対する感情が愛まであるのかどうかは定かでは無いが、一緒にいて楽しいと思うことは何度もあった。彼女の俺に対する態度から、彼女も似たような事を考えているという確信もあった。もう学園生活のために不良のフリを、カップルのフリをする必要なんて無い。ちょっとずつクラスに馴染めて来た女子と、全然クラスに馴染めていないけど汚名返上のために奮闘する男子のカップルで何の問題も無いのだ。


「髪飾り、つけてくれないか」


 ひとしきり俺の想いを伝えた後、彼女の持っている髪飾りをつけた姿を見せて欲しいと頼み込む。回りくどい言い方だが、告白の答えを聞いているも同義だ。彼女は口元をあわあわとさせたり、ドッキリだと思っているのかキョロキョロと周囲を確認したり、今の俺にとってはそれも愛おしい。やがて髪飾りを前髪につけようとし、


「……すみません、これは受け取れません。私、この関係を終わらせるためにデートに来たんです。ヒーローさん、そんなのは、幻想ですよ。思い込みなんですよ。無理矢理付き合わされているうちに勘違いしたんですよ。ヒーローさんは、女の子を助けた正義の味方として皆に賞賛されて、天王寺さんと付き合わないといけないんです。さよなら」


 何かを思い出したような、ハッとした表情になった後、髪飾りをガシっと俺の手の中に握らせ、うつむいたまま矢継ぎ早に断り文句を連ねた後、走ってゲーセンから出ていくのであった。

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