こうしてヒーローはクリスマスイブにデートをした
「ほらよ、修学旅行の土産」
「ありがとうっす! いやー、やっぱり修学旅行のお土産と言えば木刀っすね! それで修学旅行はどうだったんすか?」
文化祭が終わると高校二年生は修学旅行。それが終わればクリスマス。修学旅行から帰って来た俺は昼食時に穂香に木刀を渡し、感想を聞かれるとお土産も買ってきてやらない薄情な美蘭が勝手に上機嫌になる。
「まぁまぁ喋りましたよ」
「え? 喋ってたかしら……」
修学旅行ではクラスメイトと十分コミュニケーションを取ったと主張する美蘭に、寝室が同じだった緋村さんが旅先で買ったキモ可愛い? ゆるキャラのぬいぐるみを愛でながら不思議がる。班分けでは緋村さんの班に入れて貰った俺達ではあるが、残りのメンバーと仲良くお喋りすることは出来ず、班の中で二人浮いてしまい事実上別行動になってしまうという、まともなカップル的には良い修学旅行なのだがクラスメイトと打ち解けたい二人にとっては厳しい修学旅行に。寝室でも男子が女子の部屋に遊びに行ったり、こっそり持ち込んだゲームや麻雀に興じるのを片隅で寝たフリをしながら羨ましそうに眺めていたのだが、あの様子だと美蘭は女子の会話に混ざったつもりだったが実際にはほとんど独り言状態であり、うまく混ざれていなかったのだろう。
「そんなことよりクリスマスは皆どうするんだ?」
これ以上修学旅行の話をしたら美蘭がダメージを受けてしまいそうなので、話題を目前に迫ったクリスマスに切り替える。皆が暇ならぼっち同士クリスマス会でも出来ないだろうかと、俺以外女子であることには目を瞑りつつ考えていたのだが、
「アタシは家族と過ごすっすよ。父親が家に帰って来る数少ない機会っすからね。大体アニキはアネゴとデートするんすから、他人の予定なんて気にしてどうするんすか」
「私はクラスの女子に、彼氏がいない女子達で鍋パをやるんだけど緋村さんもどう? と誘われたから、折角だし参加することになったわ。聞いた話では彼女のいない男子も来て合コンみたいになるそうだけど。趣味の合う人はいるかしら」
「いないでしょう……いっそのことグッズを導入したゲーセンの店長と付き合ったらどうですか」
穂香も緋村さんも既に予定が入っていたらしく、契約カップルだろうとカップルなんだから二人で過ごすべきだと釘を刺されてしまう。その日の放課後、この日は剣道部も空手部も練習の日ということで俺と美蘭はとぼとぼと二人で学校を出て、自然な足取りでゲーセンの方へと向かう。その途中ではクリスマスが近いからかコンビニがフェアの準備をしていたり、駅の方ではイルミネーションの設置をしていたりと、師走という言葉がしっくり来る光景。
『メリークリスマス! コーチ、私サンタさんになれてるかな?』
この日は女の子が麻雀をするゲームに二人で座り、男なので基本知識はあるが別にうまい訳でも無い俺と、漫画で偏った知識だけは持っている、とにかく役満を狙おうとする美蘭で交代しながら全国のプレイヤーと遊んでいたのだが、クリスマスという事でコスチュームにサンタ服が追加されており、4人のサンタが雀卓を囲んでいるという奇妙な光景に。冬ということもありゲーセンを出る頃には辺りは暗くなっており、イルミネーションがキラキラと輝いていた。
「……クリスマスどうする?」
「はぁ?」
周囲のクリスマスムードに影響されてしまったのか、自然と俺は美蘭に対してクリスマスの予定について話をしてしまい、まさか俺からそんな誘いがあるとは思わなかったようできょとんとした表情をされてしまう。
「別にどうもしないですよ。私達、別にラブで付き合ってるカップルでも無いんですから。クリスマスは毎年ナイスボートです。それともヒーローさん、周りがクリスマス一色だから寂しくなって私とクリスマスにデートがしたいんですか? 天王寺さんはもう予定が入ってますし、どうしてもしたい! って言うなら、考えてあげますけど」
「それは……」
どうしてもデートがしたいと言うならしてあげる、と言われて、プライドを捨てるべきか悩む。健全な男子たるもの、クリスマスイブのデートに憧れが無いと言えば嘘になる。相手が美蘭であってもだ。ただし俺達は別にお互いに惹かれて付き合っている訳では無い。賭けに負けた俺が美蘭の学園生活のために暴力的な彼氏を演じて来ただけだ。そんな必要性も、美蘭が緋村さんのサポートもあり少しずつクラスメイトと打ち解けるようになったことで段々と無くなっている。この分ならきっと、高校三年生になって新しいクラスになれば少ないながらも友人は出来るのだろうし、それを円滑にするためには現時点で俺と付き合っているという設定は邪魔ですらある。
「どうしてもしたいんだよ。来年は穂香とすることになったとしても、その時は性夜になるとしても、男は待てないものなんだよ」
「はぁ……男ってどうしようもない生き物ですね。仕方ないからデートしてあげますよ。ちゃんといいプラン考えて来てくださいよ?」
ただ、仮初のカップルであっても俺達はもう半年も一緒にいる。俺の心に彼女に対して色々と複雑な感情があるのも確かなのだ。だからその感情を確かめるために俺は美蘭をクリスマスイブのデートに誘い、彼女も似たような事を考えていたのだろう、顔を背けながらもそれを了承する。教室で美蘭が近くの席の女子と軽い会話をするのを眺めながら日々は過ぎ、冬休みとクリスマスイブがやって来る。
「お待たせしました。……普通の格好ですね。てっきりヒーローさんは色々と勘違いしてスーツで来るものかと」
「残念ながら高級レストランで夜景を見ながらディナー、なんてプランをするような財力は無いよ。ぶっちゃけ特にプランなんて考えて無いんだよ。どうせどこも混んでるだろうし、お店の予約したって、人は多いし五月蝿いしで、美蘭そういうの嫌いだろう?」
「お気遣い感謝します。別にお腹が空いてる訳じゃないですし、適当にイルミネーションでも眺めながら歩きましょうか」
彼女の住むマンションの近くにある駅前で待っていると、半年くらい前に彼女が親から貰ったお金で買い揃えた、私服としては使っていないのだろう、新品のように綺麗な服の彼女がやってくる。俺は別にデートだからとオシャレに気を遣うような人間では無いし、俺のような図体のでかい人間が着れるオシャレな服というのはあまり無いのだ。だから非常に無難なセットアップで馳せ参上することに。美蘭には色々とダメ出しをされてしまうが、俺がオシャレな格好で来てしまったら彼女のオシャレが曇ってしまうからこれでいいのだ。
「イルミネーションって国が設置してるんですよね? つまり私達の貴重な税金を使ってるんですよね? そう考えるとちょっとムカついてきました」
「まぁまぁ。イルミネーションで街を彩る事で、カップルのムードが盛り上がって、なんやかんやあって少子化が解決されるんだよ」
「その言い方だとイルミネーションが媚薬みたいな扱いですね……さっきまで綺麗だと思ってたのに何だか如何わしい気がしてきました」
辺りを歩くカップルに負けないように前を向きながら、煌びやかなイルミネーションを眺めつつ街を闊歩する。こうして俺にとっては初めてのクリスマスイブのデートが始まるのであった。




