こうしてヒーローは文化祭を楽しんだ
「頭がズキズキする……」
「飲みすぎなんですよ、自己管理が出来ないなんてヒーロー失格ですよ」
体育館で頭を押さえながら校長や生徒会の話を聞き、俺達の文化祭がスタートする。準備に夢中で他のクラスや部活が何をやっているかをリサーチしていなかったので、自分達のシフトが来るまで美蘭と共に適当に学校をぶらついていくことに。
「あ、二人ともお疲れ様っす!」
「何だ穂香。脅かし役じゃなくて受付なのか」
「どうにもアタシはお化けをやるには陽キャ過ぎるらしいっす。怖がりなんで脅かし役に向いてないってのもあるんすけどね」
「陰キャの道は一日にしてならず……」
俺達の知り合いは穂香しかいないので、とりあえず一年生の廊下に向かっていると、教室の前で正の字を書き続けている穂香がこちらに気づき手を振って来る。申し訳程度に仮装をしている彼女に見送られながら薄暗い教室の中に入り、隣のクラスと共同で作ったお化け屋敷と戦うことに。
「まぁ俺は別に怖がりじゃないんだけどな」
「ギャップ萌えが大事だと思うんです。思い切り怖がってみてはどうでしょうか?」
「クラスメイトならともかく一年生にギャップ萌えを見せたところで何か良くなるとは思えないんだが……」
脅かし役も相手を選んでいるのか、コンセプト的に静かなお化け屋敷なのかは知らないが、お化けに驚かされることなく淡々とルートを進んでいく俺達。仮にもヒーローを目指す人間がホラーに耐性があるのは勿論の事、美蘭も陰キャを極め過ぎて実質お化けのような存在だからか、ルートの中に配置されたドクロのオブジェクトだったり血文字だったりに怖がることも無く、あっという間に教室2つ分のコースを制覇してしまった。
「あ、あれ? 随分早いっすね。アタシ予行演習した時はパニックになって逆走したりでかなり時間かかったんすが」
「そいつは素晴らしいな、今から一緒に入ろう」
「じゃあその間に私は一年生のフリをして受付をしておきますね」
想定よりかなり早く出てきた俺達に困惑する穂香。お化け屋敷の醍醐味と言えば怖がる女子に抱き着かれるというものだと思っているので、現在の恋人に見送られながら、次の恋人候補と共にお化け屋敷へもう一度入る。一度は制覇したコースなので迷うことなんてあり得ないと思っていたのだが、
「ひぃぃぃぃぃ! 何かぶつかったっす!」
「落ち着けって、逆走したら次の客に迷惑だろ。……あれ? こっちの道が順路だよな?」
パニックは伝染するものらしく、暗闇だったりオブジェクトだったりにビビッて金切り声をあげる、お化け役の適性は思ったよりもありそうな穂香に惑わされて俺も迷ってしまう始末。お化け屋敷の醍醐味を味わうどころか他の客の迷惑にならないように必死で脱出することに意識を集中させ、二人で息を荒げながら最初の時の3倍以上の時間をかけてようやくお化け屋敷を抜け出すことが出来た。
「どれだけ中でいちゃついてたんですか。受付をしているところを同級生に見られて凄く困惑されちゃいましたよ。実は留年してたと思われたらどうしましょう」
「いちゃつく余裕なんて無かったよ。いっそのこと留年すれば皆が優しくしてくれるかもね」
「現実的には私より停学経験あるヒーローさんの方が留年しそうですけどね」
穂香に一旦別れを告げ、校庭に並ぶ出店の方へ向かう。たこ焼きに焼きそばに綿あめに、主に部活組が部費を獲得するために作っている、料理スキルの無さを文化祭の空気という調味料で誤魔化したラインナップは食欲をそそるものの、俺達はこの後自分達の教室でオムライスやクレープを作り続けるので、あまりお腹をいっぱいにしてしまうと料理中気持ちが悪くなってしまうと自重して、部費不足に悩んでいるのか集客のためにメイド服のまま接客している緋村さんから剣道部らしく? チョコバナナを買うに留めておいたのだが、我慢の出来ない美蘭は綿あめにクレープにりんご飴にと後先考えずにパクパクと食べてしまう。
「そんなに食べたら料理するのが辛いんじゃない?」
「甘いですねヒーローさん。私が食べたのは全てデザートです。昔から言うでしょう、デザートは別腹だって。つまり主食を食べる余裕があるという事であり、料理をする余裕もあるという事です。仮に気持ち悪くなったとしても、ヒーローさんよりも遥かに調理スキルは上です」
「それは否めないな」
謎理論を展開する美蘭に納得しつつも、俺は自分のシフトを終えてからのんびりと食事を楽しもうと適当に校内をぶらつき、教室に戻ってそれぞれ執事服とメイド服に着替え、主に裏で美蘭にサポートされながら料理を続ける。
「うーん……もう少し腹に何か入れた方がよかったな。つまみ食いしたくなっちまう」
「もぐもぐ……こういう時はわざと料理を失敗して自分で処理するんですよ」
「悪知恵だけはよく働くんだね」
あまり客のいない時間帯を見計らって、わざと見栄えの悪い失敗料理を作ってはそれを口に運ぶ、要領が良いと言うべきなのかモラルが無いと言うべきなのか、とにかく飲食店でアルバイトはしない方がいい美蘭。一方の俺も純粋に調理スキルが不足しているためあまり戦力にはならず、結果として美蘭のつまみぐいは俺のフォローという形で阻止される。
「こちらオムライスになります。サービスで文字を書くことも可能ですがいかがいたしましょうか?」
勿論表に出て接客だってやっていく。執事服で精一杯爽やかな男を演出しようとするが、ガタイのせいでSPにしか見えないため女性の客からもイマイチ不人気な俺とは違い、最初こそ恥ずかしがっていたものの他の生徒に比べるとメイドへの造詣が深いからか、愛想を振りまいて着実に男性からの人気を集めて行く、普段は下の上だと失礼な感想を抱いていたが彼女の言う通り俺はメイドフェチなのだろうか、段々美少女に見えてきた美蘭。
「美蘭、そろそろシフト終わるけど」
「私はもう少しメイドさんになって男共の視線を独り占めします」
働くことの楽しさに目覚めてしまったのか、滅多に無いちやほやされる機会を堪能したいからなのか、交代の時間になってもそのまま教室の中で接客をしようとす美蘭。一方の俺は接客担当としても裏方担当としてもまるで役に立っていないので、せめて外で遊びつつ宣伝をしようと、プラカードを持って校舎内をぶらつく。
「あれ、アニキ今からお昼っすか?」
「さっきまで執事やってたんだよ、美蘭はまだメイドやってるけどさ。ああそうだ、一緒に行こう。俺も客として自分のクラスに行きたいしな」
もう自分が仕事をする事はないだろうと、遠慮なく別のクラスや部活の料理を堪能している俺であったが、同様に一人でぶらつきながらクレープを食べていた穂香と鉢合わせる。折角だし穂香に美蘭の晴れ姿を見せてやろうと彼女を引き連れて自分の教室に戻り、席について美蘭を呼び出す。
「……お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様……」
「オムライスとミルクティー、ショートケーキで。ああ、料理は君にお願いするよ」
「アネゴ凄く似合ってるっす、アタシもそれで」
他の客には営業スマイルを振りかざしていた彼女であったが、客が俺達だとわかると冷やかしなら帰れと言わんばかりにやる気の無さそうな、どこか不機嫌そうな態度を取る。これが流行りの? ツンデレメイドというやつなのだろうかと塩対応もポジティブに捉えて、料理のために調理場へと向かう彼女を見送った後、俺はクラスの生徒だし様子を見てもいいよなとこっそり彼女の仕事っぷりを外から観察しようとしたのだが、何やらひそひそ話が聞こえてくる。
「彼女がいるのに別の女の子連れて来て、しかも彼女に接客させるなんてサイテー」
「ヒーローさんはデリカシーが皆無なんですよ」
どうやら俺の行為は女子からすれば許されざるモノらしく、俺達の複雑な関係を公にしない美蘭も駄目な彼氏を持つ女として女子の同情を集めて行く。俺の評価が下がることで美蘭が女子と仲良くなれるならいいんだ、と自己犠牲精神を発揮し、彼女の怒りが大量の塩コショウという形で表れたオムライスを、穂香の前で涙を堪えて食するのだった。




