表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/31

こうしてヒーローは前夜祭を楽しんだ

「オムライスの試作品出来たよ~、ご主人様食べて食べて」


 文化祭の準備も終盤。ノリで普段の作業もメイド服を着ている女子が当日に提供する料理のサンプルと癒しを持って来て、いい感じに空腹の男子は盛り上がる。そんな料理部隊の中には美蘭もおり、手伝っている雰囲気を醸し出している俺の下にやってきて意外とまともな見た目のオムライスを目の前に置く。


「ありがとう。というか無理してメイド服を着る必要は無いんじゃ」

「……そうですよね、女装メイドよりも注目されないメイドなんて意味ありませんよね」

「いや、その、ごめん。凄い可愛い。セクハラしたい。ご奉仕させたい」

「ヒーローさんの中でメイド服を褒めるフレーズはそれなんですか……?」


 自分の恥ずかしさを緩和するために俺にメイド服を着せた彼女ではあったが、実際に注目されないとなるとそれはそれで屈辱らしく、今では彼女も普段からメイド服を着て作業をする恥知らずだ。残念ながらクラスメイトはもっとスタイルのいい女子のメイド服に夢中なので、俺だけは彼女のメイド服を褒めながら彼女の作ったオムライスを堪能する。


「え、普通に食べられる出来なんだけど」

「ヒーローさん、私を何だと思っているんですか? 普通に女子ですからね? 明日からはヒーローさんも料理の練習して貰いますよ、女子しか料理が出来ないと接客を男子がして実質執事喫茶になっちゃいます」


 綺麗な見た目のオムレツの下にはどんな恐ろしい出来のチキンライスが鎮座しているのかと戦々恐々だったが、油が多すぎることも無く、塩コショウを入れ過ぎていることも無く、父親が休日に気まぐれで作るチャーハンに比べたら遥かに客に出せる出来だ。女子力を過小評価されていることに気づいた美蘭に睨まれながらも完食し、その翌日には家庭科室で料理なんてほとんどした事の無い男子達は美蘭含む女子のレクチャーを受けながらオムライスだったりクレープだったり、当日に出す料理の練習をしていく。


「ヒーローさん、わざと指切ってください。そしてドジっ子アピールです。ヒーローさんはこのまま見た目は男だけど中身は乙女キャラで行くべきです」

「……ごめん、普通に指切った」

「……! ひっ、見せないでください!」


 指を切れとご所望していた彼女に血が流れる指を見せてやると、血の気が引いたような顔になり保健室へと駆けて行く。文句を言いながら指に絆創膏を貼っていく彼女を、性格の悪い女としか思っていなかったであろう周囲のクラスメイトは意外そうに見る。彼女は慣れた相手には笑うし優しくなるのだ。それを周囲に伝えるためなら、この指の痛みなんて大したものではない。こっそりと彼女のポジキャンをしながら準備を進め、あっというまに前日の夜になり、俺達は教室でビールやチューハイを囲んで盛り上がりながら当日のシフトについて話し合う。


「飲むな、とは言わないけれど、くれぐれも問題は起こさないようにね。可能なら飲酒組はタクシーを使って帰ること」


 学級委員として最低限の注意をした後、文化祭全体の準備のために教室を出て行く緋村さんを見送り、シフトの取りまとめをしている女子に当日はメイド服を着たいなんて勿論言わず、オール裏方を希望する。文化祭で大事なのは準備でクラスメイトと交流することであり、当日に執事服を着て接客する事では無い。花形である接客を譲った方が印象も良いだろうと思っていたのだが、ひょっこりと美蘭が割って入り、勝手に俺のシフトを自分と一緒に接客をするように変えて行く。


「美蘭。ほとんど裏方じゃないか。もっと前に出なよ」

「ヒーローさんの危なっかしい手つきじゃ、オムライスがケチャップ無しでも赤く染まっちゃいます。私こう見えても女子の中でも料理が得意な方だったんです、適材適所ですよ。それより飲みましょう」

「……まぁ、クラスメイトと打ち解けるためには酒の力を借りるのも手か」


 今までクラスメイトと交流しなかったため発覚しなかった料理上手な一面を自慢しながら、度数の強そうなチューハイを手渡してくる彼女。偏差値の高い進学校ではあるが、こういった集まりでは平然とお酒が出て来るのが若さの象徴と言うべきか。真面目なヒーローとしては飲酒はNGだし、去年までなら周囲の人にも飲酒は駄目だと啓蒙して場を盛り下げるようなタイプだったのだが、堕ちてしまった今の俺はキツいお酒がお似合いだ。乱れる姿を見せたくないのかちゃっかり自分はノンアルコールな美蘭に煽られながら、缶のお酒を何本か開けて行く。


「りんどーさぁん、彼女しゃんとはどこまで進んだんすか?」

「おぉ? そりゃあ、もう、あれよ、毎日ずっこんばっこんよ」

「適当な事を言わないでください……ここまで酒癖が悪いとは」

「ほんっと男子ってサイテー」


 普段は俺を怖がって近寄らない男子が酒の力で俺の方までやってきて美蘭とどこまで進んだか、なんて質問をしてくるので、盛り上げるために腰を振りながら回答をして男子をギャハハと爆笑させ、美蘭を冷ややかな表情にさせて行く。俺達の痴態にクラスの女子も呆れ顔であり、美蘭もそれに共感していい感じにコミュニケーションが取れているようだ。


「げーせんいくひとこのゆびとまれ~!」

「酒乱共を放っておいたら明日の文化祭が中止になりかねないです、ついて行きましょう」


 宴も終わり各々が帰路につく中、一部の盛り上がった生徒がその勢いそのままにゲーセンへ向かおうとするので、素面の美蘭は酔ってあまり喋ることの出来ない俺を引っ張ってその集団に参加する。陰口を恐れていた美蘭がクラスの女子と俺やクラスの男子の悪口で盛り上がっているという光景に感動すればいいのか悲しめばいいのか複雑な感情になりながらも、ゲーセンに到着して『この時間に学生は入れちゃいけないしどう見ても飲酒してるけど売上のためには見逃すしかない』とばかりに俺達から目を逸らす店員に見守られながら、筐体を壊さない程度にはしゃいでいく。


「おりゃー、ひっさつらいとにんぐばーすとぱーんち!」

「りんどーさんマジパねえっす!」


 酔っているので普段より力は出ていないが、それでもパンチングマシーンで快音を響かせて、クラスの男子に賞賛される。文化祭が終わればこの関係もほとんどリセットされるのだろうが、今はただこの幸せを堪能するだけだ。


「髪型こんな感じにしたらもっと可愛くなるんじゃない?」

「そ、そうですかね……?」


 プリクラの筐体の中からは美蘭含む女子の声が聞こえてくる。他の女子に比べると芋臭い事を気にしている美蘭のメイクだったり髪型アレンジだったりを一軍女子が手伝ってくれる、もといオモチャにしているらしく、筐体から出てきた美蘭はラメを入れたりと普段よりもキラキラしていた。


「どうですかヒーローさん、可愛くなりましたか?」

「おー、まるでぷにきゅあくいーんびーじゃないか」

「え、竜胆君ってプニキュア知ってるんだ……」


 そんな美蘭を思わずプニキュアに例えてしまい、周囲の女子が微妙な顔をする。『見た目は怖いけどプリキュア好きなんて可愛いとこあるんだな』なのか、『え、いい年して子供用アニメまだ見てるとかキモ……』なのか、願わくば前者であって欲しいものだ。


「それじゃあ明日、遅刻せずにちゃんと来るんですよ」

「うぇーい」


 ゲーセン前に呼び出したタクシーに家が近い人同士で乗り込み、心配そうな美蘭に見送られてその場を後にする。普段とは逆の展開に美蘭も成長したなぁ、というか俺が酔って退化しているだけか、と文化祭本番で迷惑をかけないように酔い止めの薬をグビグビ飲むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ