こうしてヒーローはメイド服を着た
「昨日は大変だったんですよ。この学級委員と一緒にガンシューをやったら、モンスターが可愛くて撃てないとか言い出したんです。ゲームのフォローも、学級委員の美的センスの無さのフォローも大変でした」
「松葉さんこそ、ボウリングで一人だけ酷い点数を出して空気を盛り下げていたわ。毎回変な呪文を唱えるし」
昼食を採りながら昨日の反省会をする二人。文化祭の準備も進み、放課後にゲーセンに女子が遊びに行くときは可能な限り緋村さんにも参加して貰い美蘭のフォローをさせた結果、少しではあるがクラスメイトとの距離が近づいている気がする。
「おう穂香。部活終わったのか」
「お疲れ様っす。今日は私も自分のクラスの手伝いしてたっす、隣のクラスとお化け屋敷が被って争いになった時はどうなることかと思ったっすが、隣のクラスであることが幸いして入口を繋げて合作になったっす」
「順調そうで何よりだ。飯でも食いに行かないか?」
「私とっすか? アネゴはどうしたんすか?」
「今日も緋村さんやクラスの女子と一緒にゲーセンに行ったよ。今日はカラオケ行くんだってさ。アニソンは極力封印しろとは伝えたがどうなることやら」
「それなら牛丼を食べたいっす、一人で行く勇気がなかなか出なくて」
一方の俺は文化祭の準備にあまり男子が来ないし、美蘭も作業中は集中しているので会話もほとんど出来ないので、放課後の教室で役に立たないのに居座って空気を悪くする、ミシンの運搬だけが取り柄の男となりつつあった。放課後も美蘭達を見送り一人で帰る機会が増えて来て、寂しくなった俺は偶然を装って穂香を出待ちするという情けない行為に走る。このまま美蘭はクラスメイトと仲良くなって、彼女のシナリオ通り不要になった俺は穂香と付き合うことになるのだろうか。
「どうしたんですかヒーローさん、最近元気が無いですよ?」
この日は放課後にクラスメイトで遊びに行くということもなく、穂香も自分のクラスメイトと遊びに出かけ、美蘭と一緒の帰り道。どうやら俺は自分が思っているより落ち込んでいるらしく、美蘭に気遣われるという激レア現象が発生してしまう。
「別に。美蘭はクラスメイトとの交流は順調か?」
「あの学級委員は大して役に立たないし、やり込んでいることがバレたら引かれてしまうと力をセーブする必要があるし大変ですよ。ヒーローさんは毎日ゴミを作っていますよね、真面目に資源の無駄遣いですよ?」
「裁縫とかはからっきしでな」
学校で美蘭が俺以外と会話したのを見たことはないが、それでも俺に比べれば良い方向に向かっているはずだ。もう俺は美蘭にとっては不要どころか邪魔なのかもしれないな、とそっけない態度を取るが、美蘭はやれやれと肩をすくめる。
「はぁ……ヒーローさんの悩みなんてお見通しですよ。男子も文化祭の手伝いに参加させればいいんですよね?」
「無理だろ。裁縫なんて男子はやろうとしないよ」
「天才軍師である私をなめないでください」
一緒に過ごしているうちに彼女にも他人を心配したり手伝ったりする心が芽生えたらしく、男子も手伝いに参加させて俺と交流させようとするが、作業内容的に男子は女子と喋る目的を除けば滅多に参加しないし、裁縫好きな女子が積極的に頑張っているので進捗的にも男子の手は必要が無いどころか、俺のようにゴミを作ってしまい邪魔をするだけだ。しかし美蘭は秘策があると不敵に笑い、翌日にその秘策を実行するためなのか緋村さんを呼んでひそひそと何やら話をする。そしてその放課後、本当に教室にはそれなりに男子がやってきていた。
「一体何をやったんだ?」
「学級委員に手伝って貰って、『服も何着か完成したから今日は実際に着替えてお披露目会をしよう』という作業内容を事前に流したんです」
「……? 何でそれで男子が増えるんだ?」
「メイド服フェチはヒーローさんだけじゃ無いってことですよ。男子なんて私の掌の上です」
たまには手伝いに参加しようと思ってさ、と爽やかさを演出しながらも脳内は女子のメイド服姿が見たいなんて欲望につき動かされている男子達を眺めながらニヤニヤと笑う美蘭。執事服もあるのだからどのみち男子がある程度必要な場面ではあったし下心が理由だとしても男子の参加はクラスとしても大歓迎、天才的な作戦で男子を手伝いに参加させた私の株もあがるし、これでヒーローさんもメイド服への愛を語りあうことで男子と仲良くなれますと勝利宣言をする美蘭ではあったが、この作戦には彼女にとって1つ問題点がある。
「今日は少し女子が減っているよな。何でだと思う?」
「……? 何でですかね?」
「男子が女子のメイド服を見たがるということは、女子がメイド服を着るのを恥ずかしがるってことだ。今完成してる服の数は……今日参加してる女子全員分あるな」
「……! わ、私急用を思い出したので帰ります」
「帰るな」
本来ならば作業の途中に『何着か完成したし、折角だし着てみない?』と自然な流れで行うはずだったお披露目会を、事前に告知なんてしてイベントにしてしまったのだ。作業のノリでメイド服を着たり、当日に文化祭の空気の中メイド服を皆で着ることに抵抗の無い女子であっても、男子の注目を浴びながらお披露目会をするなんてのは嫌がる女子が出てしまうのも無理はない。男子だけに情報を流しておくんだったと後悔する美蘭や、何で今日はこんなに男子が来てるの? と情報が伝わっていなかったのか困惑する哀れな女子を眺めつつ、立案者は美蘭だとしても実際にお披露目会を提案したのは緋村さんなので、責任を取って最初の人柱になった彼女が着替えて戻ってくるのを待つ。
「よっ、メイド剣士!」
「すげえ可愛いっすよ緋村さん!」
「メイドなら箒を持った方がいいのかしら……」
男子にそそのかされ、竹刀を持ってポーズを取らされるソシャゲに出て来そうなメイド剣士と化した緋村さん。彼女が先陣を切ったことで他の女子も覚悟を決めたらしく、教室内には恥ずかしそうなメイドさん達と興奮する執事達が増えて来る。
「ほら、美蘭も着替えに行かなきゃ」
「こ、こんなの同調圧力です、日本社会の闇です。大体私がメイド服着たって盛り下がりますよ、忘れてませんか? 私はヒーローさんの彼女であり、ヒーローさんは皆が恐れるヤンキーなんですから。私のメイド服姿を見たらヒーローさんが嫉妬して危険だ、ということで男子は私から目を逸らすんです」
「俺が他の男子に美蘭を可愛いって言うように言って聞かせるからさ」
残っている女子全員が着る流れとなってなり、美蘭にピッタリなサイズのメイド服も残っていたので観念しろとそれを渡そうとするが、彼女は首をぶんぶん振りながら拒否をする。
「別に可愛いって言われたい訳じゃないんですよ、男であるヒーローさんには理解できない感情なんでしょうね……そうだ、ヒーローさんもメイド服を着ましょう! 一蓮托生です!」
「どうしてそうなるんだ……そもそも俺が着れるメイド服なんて無いだろ」
挙句の果てには既に執事服を着ていた俺にメイド服を着ろなんて滅茶苦茶な事を言う始末。俺に自分より恥ずかしい事をさせて自分の恥ずかしさをマイルドにする魂胆のようだが、175㎝でがっしりしている俺と近い体格の女子はクラスにいない。しかし美蘭は自分のロッカーを開けると、そこからやけに大きなメイド服を取り出して俺に見せて来た。
「実は自然とヒーローさんの体型に合ったのを作ってしまったんです。失敗したなあと自分のロッカーに入れてたんですが、全てはこの時の為だったんです!」
「俺が着たら盛り下がり具合は美蘭の比じゃないだろ……」
「考えてみてください。現状皆に怖がられてるヒーローさんがクラスに溶け込む唯一の方法、それはネタキャラになることです! メイド服を着て、魔法少女のセリフを言いながら教室に登場すれば、もう教室中は笑いの渦なんですよ!」
お披露目会でクラスメイトが盛り上がっている中、教室の片隅で繰り広げられるメイド服の攻防。確かに昔はヒーロー趣味であることがバレて笑い者になるのが怖かったが、それでも今のように怖がられるよりはマシなのかもしれない。美蘭の話術に言いくるめられた俺は、クラスの面白キャラを目指すためにメイド服を受け取り、着替えるために教室を出て行くのだった――!
「……何か、すみません」
「いや、いいんだ。美蘭のメイド服、似合ってたよ」
解雇されて屋敷を追い出されたメイドや執事の如く陰鬱な俺達はとぼとぼと学校を出て歩く。結論から言うとドンずべりした。俺はギャグのつもりでメイド服を着たのだが、俺のお茶目な一面を知らないクラスメイトは俺を女装フェチだと勘違いしたらしく、似合ってますよ竜胆さん、本当の女の子みたいっすと、隣にいる本物の女の子である、それなりに勇気を出してメイド服に着替えた美蘭を無視して賞賛をする始末。明日学校に行きたくないなぁ、と不登校になってしまった美蘭の気持ちを理解するのだった。




