こうしてヒーローはストーカーになった
「……というわけで、投票の結果、メイド服と執事服のデザインはこれになったわ」
ある日のロングホームルーム。やや不満そうな表情の緋村さんが黒板にいくつかのデザインを並べて行く。皆が思い思いのデザインをして投票で数個に絞ったのだが、緋村さんが匿名で提出した非常にグロテスクな、メイド服というか冥土服と言うべきデザインはクラスメイトに気持ち悪いと一蹴されてしまった。俺が匿名で出した魔法少女猫メイドや正義のヒーロー執事服も、一部のオタクの賛同は得たものの採用には至らず、堂々と実名を出して提出した美蘭のデザインは採用されたのでこの日の彼女は上機嫌だ。
「ふふん、どうですか私のセンス。色んなメイド物や執事物を見て来た私が辿り着いた、こういうのでいいんだよ的なデザインが受け入れられるのは当たり前なのです」
「私ももう少し絵が上手ければ……」
「緋村さんは絵が上手くなったらもっと評判が悪くなると思うけど……とにかくここからが大変だよ。メイド服とかを作るのってどれくらい大変なんだろう?」
「かなり大変っすよ。家に結構いいミシンがあったんで昔色々作ってたんすけど、失敗しまくったっす」
「幸いクラスに手芸部や演劇部で衣装制作経験のある人がいるわ。その人に基本は習うとして、学校のミシンはそんなに数が無いから、余った人は服につける小物とかを手縫いすることになりそうね」
昼休憩に4人で食事をしながら今後について考える。学級委員ということで序盤は色々参加してくれた緋村さんも、3年生の引退に伴い剣道部の部長になったこともあり今後はあまり放課後に残って俺達のサポートをしてはくれない。その日の放課後、家庭科室からミシンを借りてきたりとしっかりと力仕事を担当し教室に戻ると、残っていたメンバーは女子が多いことに気づく。男子は服を自分で作るなんて趣味では無いのだろう、美蘭の友達作りには好都合だ。
「私ミシン使いたーい」
やはりちまちまと小物を作るよりは、ミシンを使いたい人が多いのだろう。俺が教室に配置したミシンに我先にと群がるクラスメイト。その中に美蘭もいたので彼女の首根っこを掴んで教室の片隅に持っていき、手縫い用の裁縫道具と必要な小物のデザイン案を渡す。
「私はデザインに採用されたんですよ!」
「だとしてもまだ早い。謙虚に行こう。影からクラスを支える大黒柱になるんだ」
「ヒーローだって目立ってなんぼでしょう、目立たなきゃ応援もされないしパワーも貰えないんです」
「残念ながら俺達はヴィランなんだ。悪目立ちせずに改心しているところをこっそりアピールしないといけないんだ」
俺の威を借りてミシンを占有するのは容易だが、それで立派な服を作ったとしても美蘭の評価が上がる事はない。今の俺達に出来ることはなるべくクラスメイトとコミュニケーションを取りながら、ちまちまと小物を作って行くことなのだ。最初は不満から愚痴を垂らしていた美蘭だが、一人でちまちまと手作業をする方が性に合っているのか、話しかけても答えてくれないくらいの集中力を発揮しながら作業を進めて行く。一方の俺は筋肉ダルマな事もあり、こういった手作業は非常に苦手だ。俺もクラスメイトとコミュニケーションを取る必要があるため手芸部や演劇部といった経験者にコツを聞こうとするが、向こうは俺をメイド服フェチの危ない男だと思っているようで難航してしまう。一度レールを外れてしまったら元に戻るのは難しい、そんな現在社会の問題点を実感しながらも、男は言い訳せずに成果を出すのみだと美蘭の数分の1の速度ではあるが小物を作り続ける。
「ヒーローさん、何ですかそれは……」
「美蘭に比べたら遅いけど、俺だって頑張って作ってるんだよ」
「縫い目も荒い、形も崩れてる、こんなのを作ったとは言いません。材料の無駄遣いです」
「うう……」
下校時間が近づいて、部活から戻って来た緋村さんが今日の進捗をまとめて行く中、俺が2時間かけて頑張って作った綿で出来たよくわからない何かを見て溜め息をつきながら、自分が作った整った小物を見せてくる美蘭。緋村さんにもこれは使えないわと断言されてしまい、泣く泣く俺の2時間はゴミ箱へと入れられてしまう。せめて力仕事くらいは貢献しないと存在価値が無くなってしまうと、ミシンを家庭科室に戻して教室に戻ると、クラスの女子達が折角だし放課後にゲーセンでプリクラとかしようよと盛り上がっていた。
「決まりー。それじゃレッツゴー」
「……」
少し離れた場所からそのやり取りを見ていた美蘭ではあったが、リーダー格の女子がそう言って仲の良い女子や、今日の作業を経て仲良くなった女子と共に教室を出て行こうとすると、すっと彼女達の後ろを歩き始める。おいやめろ、それは確実に皆に困惑されるやったらダメなパターンだ、でも美蘭が勇気を出したんだしと、はじめてのおつかいを見守る親の気分になりながら、女子一行の後をつけるというメイド服フェチの狂暴なヤンキーのストーカーに成り下がる。こんなことなら緋村さんにも一緒に参加して貰うんだった。
「プリクラは一度に何人まで入るかな~……えっ」
ゲーセンに入ってプリクラの筐体へと向かい、集まったメンバーをどう割り振ろうかと悩むリーダー格は、ここでようやく呼びかけた時には参加するなんて言っていなかった、何故ここにいるのかわからない美蘭に気づく。仲の良い女子を呼んでヒソヒソと話をしている様子を見るに、誰か誘ったの? なんて会話をしているのだろう。偶然来た訳では無く、明確にクラスメイトをプリクラを撮りに来たことをアピールするためにカバンから俺と撮った時に作ったプリクラ手帳を取り出す美蘭を見て、突き放したりと揉めてムードを悪くする訳にはいかないと悟ったのか、美蘭は誰かが誘ったか、もしくは自分が気づいていなかっただけで参加を希望していたという体でメンバーを割り振って、美蘭もクラスの女子達と一緒にプリクラの筐体の中へと入って行く。頑張れ、まともに笑え、とそれまではずっと無表情だった美蘭を影から応援する事30分。メンバーを変えてプリクラを撮り続け、ちょっとUFOキャッチャーもやってグループは解散。俺がこっそり見ていたことに気づいていた花恋は、涙目になりながらこちらへ駆け寄って、クラスメイトと撮ったプリクラを見せて来た。
「ヒーローさん、私やりました! 友達作ったんです!」
「おめでとうと言いたいところだけど、プリクラを撮ったからといって友達になったとは言わない」
「いいえ、プリクラ撮ったらずっ友なんです!」
美蘭が頑張って撮ったプリクラを眺める。美蘭以外のメンバーはそんなに加工をしていないのだが、美蘭だけはきっとうまく笑えなかったのだろう、別人レベルに修正されているのが涙を誘う。プリクラを撮ったりUFOキャッチャーをした時にちょっとは会話もしたと、これからは女子の会話に混ざれると自信満々な彼女ではあったが、
「昨日文化祭の準備した後に皆でプリクラ行ってさー」
「えーマジ可愛いじゃん、え、ていうかこいつ誰?」
「さぁ……? 修正されすぎて元が誰だかわかんない」
翌日。ゲーセンに行った女子が行かなかった女子にプリクラを見せているという、会話に混ざるにはうってつけの場面ではあるが、美蘭は無表情でその光景を眺めるのみ。一歩ずつ行こうじゃないか。




