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こうしてヒーローはデザインをした

「いがみ合っていた二人が戦いを通じて仲良くなるなんて、青春っすねえ」

「仲良くはなってない!」


 ある日の昼休憩。緋村さんも一人で静かに食事をするタイプだったので俺達の話し合いに参加して欲しいと頼み込み、少し前までは二人でお弁当を食べていたこの空き部室も賑やかになり、気分は特に目的の無い、漫画とかによく出てくる部活のメンバーだ。


「緋村さんも協力してくれることになったし、第51回、どうすれば美蘭が真人間になれるか会議を始めよう」

「そんな会議必要無いし何で第51回なんですか!」

「アニメとかって52話で大体最終回だろう? 会議を成功させて次は最終回にしようなって願いが込められているんだ」

「それはヒーローさんが見てるような毎年変わる特撮モノだけです! 大体のアニメは13話ですよ!」


 趣味の悪さを隠して上手に立ち回り続ける学級委員を講師に迎え、美蘭は今後どうするべきかについて話し合う。穂香はヤンキーみたいな見た目をしているだけで社交的だし部活仲間とも楽しくやっているし、俺も誤解さえ解ければ見た目は厳ついけどヒーローのように優しい男として周囲に溶け込める。しかし美蘭は俺の威を借りてクラスメイトを攻撃した結果、単体の評判は前よりも悪くなっている始末。学級委員の力で美蘭にまともな友達を作ってやれないかと相談をしてみるが、はっきり言ってほとんどの女子に嫌われてるわよと非情な通告をされてしまう。


「もうすぐ文化祭。それが終われば冬休み。それも終われば修学旅行や期末試験で、すぐに高校三年生。そうすれば受験勉強とかで皆あんまり松葉さんの事を気にしなくなるわ。今のうちに大学デビューの仕方を考えるべきじゃない?」

「辛辣な意見だな……ん、そうか、もうすぐ文化祭か。皆と一緒に準備をして、好感度を稼ぐにはうってつけのチャンスじゃないか」


 高校生活は捨てて大学生活に望みをかけるべきだという厳しい意見を述べる緋村さんだが、俺がひっかかったのは文化祭の部分。来週の月曜日のロングホームルームで出し物を決めて、1ヵ月くらい放課後にちまちま作業をするのだが、部活に入っていない俺と美蘭は戦力になれるし、クラスメイトにそんなに悪い奴じゃないと印象付けるにはいい機会だ。


「だったらなるべく作業量が多くて、アネゴの専門知識を活かせるようなのがいいっすね」

「私の専門知識……あれ、私って何が得意なんだろう……何となくで広く浅くオタク趣味やってたけど、本職と語り合える程の知識は無いし、今となっては勉強が凄く得意って訳じゃないし……」

「地雷を踏んでしまったっす……」


 今のうちに美蘭が活躍できそうな出し物を考えて、学級委員含めた3人でどうにか可決させられないかと提案する穂香だが、美蘭は変なところで弱気になるタイプらしく自分が活躍できそうな出し物が思いつかずにうつむいてしまう。結局いい案は出ずに、翌週の出し物決めの時もクラスメイト達が案を出していく中無言でそれを眺め、最終的にお化け屋敷かメイド執事喫茶かの二択となったところで、お化け屋敷を選んだ場合お化け役として美蘭が活躍してしまうと色々と傷つきそうだとメイド執事喫茶に票を入れて、俺の清き一票が決定打となり無事にクラスの出し物はメイド執事喫茶に決まった。


「メイド執事喫茶だし、男子も女子も全員接客は担当するべきだと思うわ」

「私は裏方で……」

「何言ってんだ美蘭、恥ずかしいのは皆一緒なんだから、お前もメイド服着ろ」


 その日の放課後、初回ということで緋村さんにも剣道部を休んでとりまとめして貰い、文化祭にノリ気な陽キャたちの会合に混ざる俺達。クラスで孤立していた俺達が文化祭にノリ気なことで周囲のクラスメイトは少し居心地が悪そうだが、男は行動で示すもの。真面目に文化祭の準備を手伝えば、きっとクラスメイトの信用を得ることが出来るだろう。


「とりま、メイド服と執事服はレンタルして、メニューも適当に考えて、必要な作業って教室の飾りつけくらい?」


 メイド執事喫茶をやるにあたって必要な作業をリストアップするが、文化祭は好きだけど作業は少ない方がいい主義なギャルが語るように、困ったことにメイド執事喫茶はそんなに作業が必要ではない出し物だった。お化け屋敷なら色々作る必要があるし必然的に俺達も活躍できるが、単純な飾りつけ程度しか必要無いのなら活躍の機会も失ってしまう。こんなことならお化け屋敷に票を入れておくのだったと後悔しながら、どうにかして作業量を増やせないか考える。


「……その辺のレンタルしたメイド服や執事服じゃオリジナリティに欠けると思うんだ。でもオーダーメイドじゃ費用が掛かりすぎるし、自分達でデザインしてある程度自分達で作るのはどうだろう?」


 悩んだ末に、メイド服や執事服を自分達で作ることを提案する。服のデザインも裁縫も得意じゃない人からすればかなりの難易度だし、作業量は大幅に増えて暇人である俺達も活躍できるはずだ。勿論面倒くさがる人もいたが、俺の圧力と、同意してくれたオタク達の力でどうにか可決することが出来た。代わりに俺がメイド服フェチという情報が広まってしまったようだが、ヒーローたるものそれくらいの自己犠牲は必要だ。


「ヒーローさんの理想のメイドさんはどんな感じですか? な、何ですかこれは……」

「どうしてもデザインをしようとすると、ヒーロースーツや魔法少女っぽくなってしまうんだよな……」

「真面目にやってくださいよ、何かの間違いでヒーローさんの案が全部可決されたら、私こんな恥ずかしい衣装にならないといけないんですよ!?」


 そのままメイド服や執事服のデザインについて残ったメンバーは教室で思い思いに自分の理想を描いていく。イラストはそこそこ得意らしく満足気にデザインをした後、俺の描いているルーズリーフを眺める彼女だが、そこにあったのはメイド服でも執事服でも無く、変な仮面をつけたヒーローや、猫耳と猫しっぽをつけてよくわからないマスコットキャラが周囲に浮遊している魔法少女だったので呆れられてルーズリーフを引き裂かれてしまう。結構いいデザインだったのに。


「そもそも私はお化け屋敷に票を入れたんですよ、ヒーローさんが裏切ったせいでメイド服を着るなんて辱めを受けることになりました」

「だってお化け屋敷にしたら、クラスメイトに『松葉さんってお化け役めっちゃハマりそうだよね』とか陰で言われて美蘭が怒りで妖怪になっちゃうだろうし」

「失礼な妄想ですね……はぁ、ガンシューでもしましょうか。お化けというかゾンビを倒してお化け屋敷気分を味わいましょう」


 来週のロングホームルームで提出されたデザインから数パターンに絞り、それを自分達で作っていくという流れになった帰り道、実はお化け屋敷派だった美蘭に悪態をつかれながら自然と俺達はゲームセンターの方へ。中に入ってガンシューのコーナーへ向かうのだが、途中で美蘭がビクッとして物陰に隠れてしまう。


「どうしたんだ?」

「わ、私のホームに、侵略者が……」


 美蘭が指差す先には、先ほどまで教室で一緒に会議をしていたクラスメイト達。どうやら彼等も盛り上がった結果、帰りにゲーセンで遊ぼうという流れになったらしい。いい機会だから声をかけて一緒に混ざろうとした俺であったが、その腕を全力で掴まれて止められてしまう。


「クラスメイトと一緒に遊べるチャンスなんて俺達にはそんなに無いんだよ」

「まだ、まだ無理です。もう少し、もう少し時間をください。帰ります」


 美蘭の全力は俺の2割程度の力なので無理矢理彼女を連れてクラスメイトに声をかけることも出来たが、彼女も心から拒否している訳では無く、まだ勇気が出ないとのことなのでこの日は諦め、入って僅か1分でゲーセンを後にするのだった。


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