こうしてヒーローは戦いを眺めた
「はぁ……可哀想なめるあに達。こんなところに囚われてるなんて。私が助けなきゃ」
「どう見ても殺処分待ちのクリーチャーですよ。そもそも何でこんな人気の無いコンテンツを商品化してしかもこのゲーセンは導入したのやら」
「店長がマニアな可能性があるな。ほら美蘭、手伝ってやれ」
途中のコンビニでしっかり軍資金をおろしてきた緋村さんと共にゲーセンに向かった俺達。溶けすぎて何の動物をモチーフにしたのかもよくわからないグッズを眺めながら自然に100円を投入する緋村さんを眺めながら、筐体の横に美蘭を向かわせてアシストをさせる。マニア疑惑のある店長が取りやすいようにしてくれたのかはわからないが、30分程度で緋村さんのカバンや袋に大量のクリーチャーが捕獲された。
「二人ともありがとう。今まであなた達の事を誤解していたみたい。それじゃまた学校で」
「自分の用事だけ終わらせて帰ろうとしないでください。こっちで格闘ゲームをしましょう。新しい文化に触れるのも学びですよ」
UFOキャッチャー以外に用は無いと言わんばかりにさっさと帰ろうとする緋村さんに、当初は嫌がっていたものの自分のホームとも言えるゲーセンで緋村さんと戦えるのはチャンスだと考えた美蘭は格闘ゲームのコーナーへ緋村さんを連れて行く。プレイするのは勿論緋村さんによく似たキャラがいるという理由でやり込んだ、俺と美蘭が付き合うきっかけにもなった曰く付きの格闘ゲームだ。
「この中から操作するキャラを選べばいいのね。あら、このキャラ私に少し似てるわ」
美蘭の目論見通り、緋村さんは自分によく似たキャラクターを選んで簡単な操作方法を見ながら一人用モードを遊んで行く。ズブの素人を倒しても意味が無い、ある程度育ったところを狩るのが松葉流だと言わんばかりに緋村さんが操作に慣れていくのを高みの見物していた美蘭は、そろそろ頃合いですと不敵に笑みを浮かべながら緋村さんの反対側に座り乱入する。
「ニューチャレンジャー……? 特別試合かしら」
操作には慣れてもシステム面はきちんと理解していないらしく、美蘭が対戦を申し込んで来た事にも気づかないまま応戦していく緋村さん。合気道で学んだ反射神経や頭の良さからなるクレバーな戦い方であり俺よりは強い気もするが、執念に駆られた、というかダイアグラム的に明らかに有利なキャラを選択した美蘭には勝てずにゲームオーバーとなってしまう。
「突然敵が強くなった気がしたわ」
「練習していればそのうち勝てますよ。勉強だってスポーツだってそうでしょう」
「いいこと言うのね」
美蘭はネタバラシをして勝利宣言することなく、CPUに負けたと思っている緋村さんにエールを送るという人間としての成長を感じさせるのか、性格が悪いから真実をあえて伝えていないだけなのか判断に困る対応をする。気が大きくなった美蘭はそのまま緋村さんをスポーツコーナーへと連れて行き、選択授業は勿論中学の時も剣道を選んでましたよねと確認をしてから卓球台へと向かった。
「知ってますか? ラケットにはシェイクとペンがあるんですよ」
「それくらいは知ってるわ」
「ぐぬぬ」
俺との戦いの後に少しは卓球を学んだようで、自慢げにラケットには主に二種類あるなんて常識レベルの発言をして、卓球未経験でもそのくらいは知っていると緋村さんが答えると悔しそうな顔になる。そして二人の初心者同士の対決がスタートするのだが、俺と戦った時とは違い真面目に相手のコートに入れて純粋な勝利を狙う美蘭ではあるが、初心者であっても相手はスポーツ万能。格闘ゲームの時とは違い自分も卓球に関しては初心者な上に運動神経も壊滅的な美蘭があっさりと負けてしまうのは予定調和だった。その後もボウリングだったりパンチングマシーンだったりと過去に自分がやったゲームで緋村さんに勝負を挑むが、何故運動神経とかが重要になるゲームで勝負をしようとするのかがわからない。そもそも緋村さんは自主的にゲーセンに行くことが無かっただけで付き合いとかでは行っているだろうし、一人で遊ぶゲームばかりしていた美蘭が勝てるような相手では無いのだ。
「はぁ。互角と言ったところですね。疲れました。ヒーローさん、適当に話をしといてください」
格闘ゲームの相手が自分だとは伝えておらず、その後の戦いでは緋村さんに完敗しているので互角要素は一切無いはずなのだが、やり切った感を出してスポーツドリンクをグビグビ飲みながらベンチで休む美蘭。適当に話をしといてと言われた俺は、ここに連れて来たのは美蘭と仲良くして欲しいという想いもあってなんだと、俺達の関係性や俺が停学になった理由等を隠すことなく緋村さんに話す。
「そういうことだったの。皆は竜胆君の事を危険な人とか喧嘩が凄く強い人だとか言っていたけれど、そうは感じなかったから不思議だったのよ」
「まぁ、剣道や合気道やってる人からしたら確かに強そうには見えないよね。そういう訳で俺もいつかは誤解を解きたいななんて思ってるし、同級生である緋村さんが美蘭と仲良くしてくれたり便宜を図ってくれれば助かるんだよ」
「こっちから願い下げです! ステータス目的で学級委員になった人と仲良くしたくありません!」
自分も鍛えているだけあって他のクラスメイトに比べると俺をそれほど怖がっていなかった緋村さんであるが、それでもよくわからないヤンキーカップルに無理矢理付き合わされてた感を今までは出していたが、真実を知ると俺への警戒心は完全に解けたらしく、貴方のやったことは間違っているとは思わないわ的な笑みなのか、いい年してヒーローオタクであることに対しての嘲笑なのか判断に困る表情を寄越してくる。美蘭と緋村さんが仲良くなれば、俺は解放され美蘭の望み通り穂香と付き合うことになるだろうし全てが上手く行くのだが、私にも選ぶ権利くらいはありますと緋村さんを睨みつけながら、不登校になった時に家に来てくれなかったという、そういう漫画を日頃から読んでいなければイメージもしにくい恨む理由を語り、案の定緋村さんは理解ができないといった感じの表情だ。
「えーと……松葉さん。ごめんなさい、不登校になったら学級委員とかが心配して家に来るっていうのは、日本の文化なの? 今はプライバシーとか色々あるし、生徒にクラスメイトが学校に来ていないから理由とかを聞いて欲しい、話をして欲しいなんて言うのはまずいと思うのだけど」
「そんな文化は無いから安心してくれ、美蘭はちょっと現実と妄想の区別がつかないんだ。緋村さんが学級委員になったいきさつだって、ステータス目的で立候補した訳じゃなく他薦でなってたはずだし、その時美蘭もまだ学校に来てただろ」
「ぐ、ぐぬぬ……仕方がありません、過去の事は水に流しましょう。いいですか学級委員、あなたは私のライバルです。今日は互角の戦いでしたが、次はこうはいきませんよ。精々いい気になっていることです」
逆恨みをし続けていた美蘭であったが、緋村さんの困惑した表情を見て、困らせたし復讐達成ですと勝手に納得してしまったのか少しだけ表情が柔らかくなる。そして一方的にライバル宣言。どうやら美蘭はゲーセンで緋村さんに勝てそうなものを探して練習して、準備万端になったところで勝負を挑もうとしているらしい。緋村さんもたまの気分転換になら構わないと思っているのか美蘭を拒絶することなくそれを受け入れ、どうにか俺達はクラスメイトとの接点を作ることに成功し、きっかけとなっためるあにに感謝するのだった。




